六
黒い闇色の瞳が俺を見据える。
それはとても綺麗な色だったけど、そして同時に恐ろしくもあった。
「……帰る」
バッと立ち上がると鞄を持ち出口へと向かう。けれど廊下へと続く扉の前には紗月と綾の二人が立ち行く手をふさいでいた。
「何だよあんたら。どけよ」
「まだ伊織さまがお話の途中ですよ」
「ごめんだけどもちょっと待ってもらえないかな?」
口調は穏やかで優しかったが、目は有無を言わさない威圧が込められていた。
ごめんと謝罪の言葉はのべられているが、どう見ても座れと命令されている様にしか感じない。
俺は苛立ちを露骨に現し舌打ちすると、もう一度座っていたソファーへと腰掛けた。もっていた鞄を足下へ放り、足を組んでソッポを向く。
納得いかない。
あぁ納得いかねぇよ。
何で俺がこんな奴らの言うことをすごすごと聞かなきゃなんねーんだ。
ぜってー納得いかねー。ちくしょう……。
俺の帰る気が完璧に失せ腰を落ち着けた事を確かめると、紗月と綾の二人も扉の前から身をひいた。
それを見て、俺はもう一度舌打ちした。
「ごめんなさいね楓くん。でも帰ると言われてどうぞなんて言えないの私達も」
「何がだよ」
伊織の言葉に少し引っ掛かりを覚えぶっきらぼうに聞き返す。
そうすると、伊織はもう一度ごめんなさいと謝罪した。
「貴方も先程みたでしょう、あの地縛霊を」
言われ、俺の脳裏に思い出される女の化物。ハッキリと明確に思い出されたそのイメージに、俺の眉間に皺が寄る。
「私達はね、あの霊達からこの学園を守る様にと集められた部員なのよ。その名も新撰部」
「し……新鮮部? 野菜か何かの名前か?」
「鮮度の"新鮮"じゃなくて、新撰組の"新撰"ですよ」
俺がボケると、すかさず山南さんからツッコミが入る。
それに俺は慌てて
「知ってるよ!」
と返した。
「んで、その新撰……部っての? それって、ゴーストバスターとかそんな感じの奴なのか?」
コホンと咳払いし改めて問えば、今度は土方さんから笑い声がもれた。
「なんだよ!?」
「いやいやごめん。なんか可愛いくて」
「はぁ!?」
ごめんって、目に涙溜めて言われてもムカつくだけだっつの!
「なんか。なんかさ、楓くんって……」
ククッと笑い声をもらしながら土方さんが山南さんと伊織に交互に視線を向ける。そして我慢が出来なかったのか、プッと吹き出した。
それを合図に、前にいた伊織も声をあげて笑いだした。
「こらこらお二人共、失礼ですよ」
「そんな事言ってテメェも笑ってんじゃねーよ!」
二人に制止をかけた山南さんが一番に笑ってんじゃねーかよ!
ったく……。
怒鳴ると同時に乗り出した身体を、もう一度ソファーの背もたれに埋めると腹の辺りから込み上げて来た物を静かに口からもらした。
「……ククッ」
「あれ?」
「あら?」
それに気付いた山南さんと伊織が、涙目を拭いながら此方をみた。
「なんだよ、あんたら。もぉ、訳わかんねー」
言った言葉に混ざりクスクスと溢れた笑い声に、伊織と山南さんが顔を見合わせニッコリと微笑んだ。
俺は姿勢をただし、
「で、話の続きは?」
と笑いを含んだ声で話を促した━━。