五
「━━座って。紗月ちゃん、お茶を淹れてくれるかしら?」
「かしこまりました」
言われるがままに三人の後をついて来た俺。
連れて来られた先は、まるで来賓室の様な豪華な部屋だった。
壁に飾られた絵画。棚に飾られたティーセットの数々に、綺麗に花瓶に活けられた花。
その部屋の中心には二組の黒革張りのソファーが二組置かれていて、俺はそこに座る様に促された。
「楓くんは紅茶とコーヒーどちらがよろしいですか? 玉露茶もありますが」
「えっと……緑茶で」
「かしこまりました。伊織さまは紅茶でよろしいですか?」
「ええ」
何でこいつ俺の名前知ってんだ? あの綾とか言う男もそうだけど。
「何であんたら俺の名前知ってんだよ」
「あら、だって同じ新撰組名だもの」
女の子が淹れたての紅茶が入ったティーカップに手を伸ばしながらさらりと答える。
「それ、そこの綾って奴も言ってたけどどう言う意味だよ」
「あれ、楓くん新撰組って知らないかい?」
「そりゃ、知ってるけど……」
京都で実在した歴史的人物だよな。あんま興味ないから知らないけど……。
「その新撰組の隊士に、沖田っているじゃないか。沖田総司」
「それと俺の名前知ってるのと何の関係があんだよ」
「いや、だから。俺の名前は土方綾ってさっき自己紹介したよな?」
「ああ」
覚えてねーけど。
「そんで、あの今お茶を淹れてるのが山南紗月。こっちの女の子が近藤伊織だよ……っだっ」
女の子を紹介すると同時に、綾の頭をめがけ茶っ葉の缶が飛んで来た。
「伊織"さま"だと何度教えれば覚えるんでしょうかねぇこの駄犬が……」
「すんませんすんませんごめんなさいーっっ」
紗月が手をボキボキと鳴らしながら綾を見下す様に睨みつけると、綾は泣き叫びながら勢いよく謝りだす。
「ごめんですんだら陰陽師はいらねーんだよボケがぁ!」
「ひぃーっっ」
「…………」
呆気にとられていると、伊織が「ごめんなさい」と謝罪を述べた。
「二人は仲良しさんなの。じゃれあってるだけだから気にしないで」
「じゃれあってる……ねぇ」
どう見てもそうには見えないけど……。
「それでお話の続きだけど。私と紗月、綾はその新撰組隊士である近藤勇に山南敬助、そして土方歳三の子孫にあたる家系なの。そして貴方もね」
「は、俺?」
「ええ。貴方は沖田総司の子孫にあたる家系よ」
突然何を言い出すんだこいつ。
「いや、確かに俺は沖田って名だけど、そんな名前他にもいんだろ沢山」
「ええ。だけど間違いないの。私にはわかるのよ」
キッパリとそう言い切る伊織に、俺は眉をしかめた。
「何でそう言い切れるんだよ」
「伊織、えと……さまは千里眼の持ち主なんだ」
「千里眼?」
たどたどしい言葉使いで綾が横から話に割り込んでくる。
その横では紗月がギラギラと目を光らせ綾を睨みつけていた。
「伊織さまの千里眼ってのはちょっと特殊で、目でみた相手の過去・未来を見透す事が出来るんだ」
「過去と未来?」
「そうよ。だからわかるの。貴方が沖田総司の血縁だって」