二十
「正々堂々とする勝負なら他にもあるだろ」
「俺が考えついたのがこれなんだよ。てか何、お前マジでビビってんの? しょっぼ!」
「だからそうじゃなくてだな」
あーもうなんて言やいいんだ。いっそこいつこの中突っ込んで逃げてやろうか。
なんて、半ば本気に近い考えを巡らした時だ。
「そんなに怖がるなら面白ぇじゃん。先行ってるぜ!」
「は……」
言い捨てるようにそう言って、鉄之助が余裕の笑みを浮かべ旧校舎内へと駆けていく。
ちょっと待て、と呼び止める俺の言葉も振り切り暗闇の中へと溶けるように消えて行く背中を驚きの表情で見送った後。
「マジかよ」
とポツリ言葉をもらした。
バカだバカだとは思っていたけどここまでとは思わなかった。いや、でもあいつが〝視えない人〟ならこの行動は普通なのかも知れないとも思う。
「…………」
無言で薄暗くなった空の下浮かぶ様に建つ旧校舎を仰ぎ見る。先程まで茜色の夕闇に照らされていた壁も、今ではすっかり紺に近い闇夜に陰り、不気味さが増している。
俺は視えるだけだ。何も出来ない。声は聞こえても触れもしない。もし、もしもだ、この間の女みたいな奴に遭遇すれば自分で対処出来るのだろうか。
この前は偶然あの場所に対処できる人間がいて助けられた。けど、今回は……。
どうしよう、とりあえずあの3人に連絡……とゴソゴソと携帯を探してみるが制服のポケットにそんなもの入っているはずもなく。
「そうだ、カバン教室に置いて来ちまったんだ」
取りに戻るか? いや、でも取りに行ってる間にあいつに何かあったら……。
「ああ、もう。なんなんだよ!」
別に元から友人でも知り合いでもなんでもない相手だ。止めてるのに勝手に入っていったあいつが悪い。自業自得だ。
なんて一言で済ませれるような人間に育てなかった祖父に少しだけ恨み言を並べつつ、意を決し俺も校舎内へダンッと足を踏み入れた。
暗闇へ一歩足を下ろしたその時、耳元で「アンタ、アホですね」とあの鬼畜眼鏡の嫌味を含んだ声が俺に話しかけたと思ったのは、多分気のせいだろう____。