十七
「……アホだろ」
「うるせぇ!!」
かける言葉が見つからず、ボソリと独り言の様に呟けば奴が怒鳴りながらぐるんっと踵を返す。
先程までの威勢はどこへやら。振り返った奴の顔は半ば泣きっ面になっていた。
「何泣いてんだよあんた」
俺も大概童顔だ女顔だと言われ続けては来たが、今目の前にいるアホとは比にならないと思う。
涙をためた目はうるうると揺らぎ、真ん丸に近い瞳は男のそれとはまた違った……身長もよく見りゃ俺のが数ミリ大きいし。俺より女顔とかいたのか、なんてちょっと勝った気分だ。
最近出会ったのがゴツイ男とかちょっと性格に難ありの眼鏡とかだったからなんかこういう平凡系って新鮮というか何と言うか。ちょっと可愛く見えてき…………いやいや、何言ってんだ俺。こいうはただのアホの童顔だ。うん、ただの、そうただの。
「先に殴り込んで来たのそっちのくせに、仲間に置いてきぼりくらったくらいで泣くなよ。小学生か」
「泣いてねえ! てかお前先輩様に向かってその口の聞き方ぁなんだ! 敬意を払え敬意を!!」
敬意を払えって……ぐしゃぐしゃの顔して言うかそんな事。
「あーはいはい、すいませんしたー」
「それが馬鹿にしてるっつんだよボケ!」
何を言っても気に入らないようで、気にするなと笑えば「馬鹿にするな!」と怒鳴られ、じゃあごめんなさいと謝れば「男が簡単に謝ってんじゃねえ!」と怒られる。
どうしろというんだ、どうしろと。
最後面倒になった俺。わかったわかったと両手を挙げ降参のポーズをとる。
「勝負な、勝負。こないだのやり返し、あんたの好きなような勝敗で決めていいからやろうぜ」
殴り合い以外でいいからと付け加えれば、鉄之助の顔がパァっと笑顔へと変わる。
「マジで!?」
「どうせ殴り合いじゃあんた俺に勝てないし」
「一言余計だっつの。まあいいや、じゃあそうだなー。俺の好きに勝敗が決められるんだな。だったら……」
どうせくだらない内容だろう。内心早く終わらせて帰りたいと深く溜息をつく。
けど、アホはやっぱり思考もぶっ飛んでるっていうことを奴の提案した勝負方法を聞いて悟り、俺はさらに大きな溜息をつく事となる。
「だったら肝試ししようぜ!」
ニッカリ満面の笑顔でそう言われた言葉に、俺は「肝試し!?」と素っ頓狂な声をあげた____。