十六
俺が近付けば奴らが一歩下がる。俺が止まればバカだのアホだの罵声を浴びせ、そして俺がまた一歩踏み出せば後退る。
こいつら、何がしたいんだ?
俺は1人、相手は帰ってったあの兵藤ってやつを抜いても6人いる。1対6だぞ。あっちのが人数的に勝ってるのに何なんだこの体たらくは。
「だーかーら……お前ら何がしたいんだよ。俺を潰しに来たんだろうが!」
なのになんで逃げるんだ!? かかって来いよ!
相手の情けない態度にイラつきを覚えダンダンと床を蹴飛ばしながら言えば、6人はお互いを見合いながら「だってなぁ?」と肩を竦める。
「俺らはやめようぜっつったのに鉄ちゃんがさぁ」
「そうそう、鉄之助が腹の虫がおさまらないって言うから付き合いで来たっつーか」
だよな? うんうん。とまるで井戸端会議のように円になって話始め、最終じーっと先程一番俺に噛み付いて来ていた奴に視線を向ける。
「おっ、お前らだって一年に舐められたままじゃ2年の面子丸潰れだっつってたじゃんよ!!」
「言ってたけどさー。相手はあの沖田だぜ? 早々手ぇださねぇって。なぁ?」
「んだんだ」
「おっまっえっらっなっあ!!」
…………。
えーと。で? こいつらは結局どうしたいんだ?
ポリポリと頬をかきながら、話の脱線を始める奴等を遠目から眺める。どうやら要件の標的が俺から鉄之助と呼ばれた男へと向けられたみたいだ。
「だって兵藤もいねーし、結局こないだと状況一緒じゃねーかよ」
「俺らじゃ沖田に勝てねーし?」
なー? と、チロリ俺に目配せしつつ頷き合う五人。それに鉄之助は不満満杯と言ったように眉尻を釣り上げる。
「べっ、別に兵藤なんかいなくたってこんなクソガキ一人しばくぐらいできるっての! 見ろ! 相手は一人、こっちは六人いるんだぞ。勝敗は見えてるだろ!?」
っていいながらかかってきてボロ負けしたのそっちじゃねーかよ。なんてあえて口には出さねぇけど。
「じゃあ鉄ちゃん一人でやればいいだろ。俺次問題起こしたら退学なんだよなー」
「はあ!?」
「兵藤がやり合うってなら面白そうだしついてきたけどあいつどっか行っちまったし。俺も帰るわ」
「はい!? ちょっ……」
ちょっと待て! と叫ぶ鉄之助の言葉も虚しく、オレも、じゃあオレもと一人また一人と教室から出て行く。
「じゃあまた明日な鉄之助」
ピラピラと手を振りながら出ていった最後の一人を見送れば、残ったのはパクパクと口をわななかせ固まるアホと俺の二人だけで……。