十一
「伊織、なんか言ってくれよ」
土方さんのヘルプ要請に伊織は困った様な笑みを見せると紺色の制服から白く長い指を伸ばし、パチンッと指を鳴らした。
するとその音に反応するように、額に貼られた札の先に青い火柱が立ち上がり、ボッと音を鳴らして一瞬で真っ黒な燃えカスとなってしまう。それがはらりと床に落ちると同時に身体に感覚が戻り、俺はガバリッと上体を起こした。
「さすが伊織さま。私の呪術を一瞬で解いてしまわれるとは恐れ入ります」
大丈夫か? と声を掛けてくれる土方さんを横に、仕掛けた張本人は眩しい笑顔を浮かべ、まるで子供を褒めるかの様に伊織へ盛大な拍手を送っている。それがなんか無性に腹立って何か一言言ってやろうかと思ったけど、流石に二度同じ事されちゃたまらないと出かかった言葉を胸の内へと飲み下した。
「まぁ身を持ってわかっていただけたと思いますが私の呪術は例え札一枚だったとしても強力な結界をはることが出来ます。たかが紙、されど紙、ですよ」
自慢げに腕を組んで言いながら、眼鏡の奥から切れ長の瞳で俺を見下ろしてくる山南さん。
強力なのはわかった。わかったけどそれを人相手に使うってのはどうなんだこの鬼畜野郎!
「でも最近になって予期せぬ出来事、というのがありましてね」
「予期せぬ、出来事?」
「紗月の結界を掻い潜って外に出てくる奴らがいるんだ」
「は!? でも今俺最強みたいな感じに言ってたじゃんか!」
ビシッと指さして言えば、山南さんの眉がピンッと跳ねるのが見えた。それに気がついた土方さんが慌てて俺の口を塞いだ。
「ま、まぁほら、動きが予測できないのが心霊だからさ。しかも長くいる御霊程力を蓄えているから何しでかすかわからないし。だから紗月の結界くらい簡単に……」