始まり
小さな頃、剣術道場を営む祖父からよく言い聞かされていた言葉があった。
『楓。わしやお前のご先祖様は、それはもう腕のたつ剣客だったそうだ。世のため人のために剣を振るう、それは心優しい人だったそうだよ。だから楓。その方の子孫であるわしらもそうでなくてはいけない』
『はい、お祖父様』
━━わかってる。
━━わかってるけど。
「西中の沖田だな」
「……だから?」
「その首、もらうぜ」
春四月。
桜の舞い散る時期。
この年から、清楠学園高等部に入学した俺、沖田楓は入学式が終わる早々数人の男子生徒に囲まれていた。
金髪や赤に染めた髪。手に持たれた金属バットや木刀。
どう見ても部活の勧誘って訳じゃなさそうなそいつらを睨みつける。
━━世の為人の為に
なんてお祖父様は言うけど、人生そんなに甘くないってのが世の常なんだと最近悟った。
「ったく、うざいっての」
地べたに這いつくばる様に倒れた男子生徒を見下ろしながら、チッと舌打ちする。
そしてポッキリと折れた竹刀をぽいっと放った。
祖父は剣術道場の師範。父はその後継者であり師範代。そして母も兄も。
家族全員が剣をたしなむ家庭に生まれた俺も、幼い頃から剣のイロハを教えられ育った。
生来から、不良だのなんだの言った曲がった奴が嫌いというのもあって、よくカツアゲだのしている奴等を片っ端からのしていたら、いつの間にか喧嘩無敗王なんてありがたくもない通り名までつけられて。
そのせいで、巷の不良どもに毎日の様に喧嘩を吹っ掛けられる様になっちまった。
ホント、迷惑っつーかなんつーか。
「つーか入学式当日に来んなつーんだよったく……ん?」
なにやらどこからか視線を感じた俺はきょろきょろと辺りを見渡す。
そしてふと見上げた教室の窓の一角に目をとめた。その先に見えた人影に目を細める。
1…2…3……3人か。
光の屈折で顔は確認出来なかったけど、その人影は明らかに俺をみていた。
なんだ、あいつら……。
風紀委員か生徒会か。
とりあえずめんどくさそうな奴等に目をつけられたかなと思いながら、教室へとむかった━━。
「へぇ、あれがそうですか」
「可愛らしい顔して強いなぁあいつ」
「うふふ……いいじゃないの。とっても心強いわ」
「どうしましょうか、伊織」
「どうするって、仲間にいれるっきゃないだろ。なんたってあの沖田家の実子だし」
「あんたに聞いてません。だまらっしゃいバカ犬」
「す、すみません……」
「まぁまぁ。あまり綾ちゃんをいじめないであげて紗月ちゃん」
「いーんですよこんなウジ虫は」
「ひっで!」
「沖田楓……か。とりあえず暫く様子をみましょう」
「仰せのままに━━」