3014.8.15 -The anniversary of end of the War-
『敵大型要塞、距離1000! なおも地球侵攻ルートへ直進中!』
宇宙に浮かぶ大きな戦艦、地球連邦軍の旗艦である月を改造して造られた超大型外宇宙航行艦は、全ての照準を敵の大部隊へ向けた。
『機動兵器部隊は全機発進、敵を殲滅しろ! 我々の後ろには母なる地球がある! あの怪物どもを、この先へ行かせるわけにはいかない!』
地球を侵略に来た怪物、"火星怪獣"へと。
「エミリィ、私は行くよ。怪物を倒して、地球を守る。大好きな妹のお墓を壊させるわけにはいかない・・・!」
その中で、とある機体のコクピットが表示された。そこに乗っていたのは屈強な男ではなく、ぶかぶかな軍服を身にまとった少女だった。歳の頃にして、15前後と言ったところだろうか。
『軍曹、聞こえるか』
ロボットのインターフェイス画面に、50歳前後の初老男性の顔が映る。
『我らアースセイバー隊、特に軍曹とその機体は連邦軍の切り札だ。私に何かあったら、貴官は貴官の判断で動け』
「・・・イエス」
浮かない顔をしている少女に向かって、初老男性は言う。
『貴官は、日本の生まれと言ったな』
「・・・イエス」
『その昔、日本において8月15日は特別な日だったそうだ。最後の戦争が終結した日・・・"終戦の日"と呼ばれていたらしい』
「終戦の日、ですか。戦勝の日でもなく、敗戦の日でもなく」
『私は歴史学者じゃない。その戦争がどういうもので、誰が得をして誰が損をしたのかは分からん。ただ、一つ確かなことは』
そこで言葉は一度途切れ。
『たくさんの命が消えたという事実、それだけだ』
男の言葉に、少女は目を瞑った。
『今日を、人類にとって真の"終戦の日"にするぞ』
「・・・イエス」
次に彼女が目を見開いた時。
「リーゼ・タナハシ、アースセイバーマークサーティーン、いきます!」
少女こと、リーゼは機体の操縦桿を前に押し出し、彼女の駆る機動兵器、白と金の色でコーティングされたマークサーティーンを戦艦から発進させた。
だが、状況はまさしく最悪だった。圧倒的な大きさを誇る火星怪獣の前に、次々と破壊されていく機動兵器。群を為して何とかそれを倒しても、また次の怪物が後ろからやってくる。倒しても倒しても倒しても、敵の数は一向に減らないのだ。
だが、人類には切り札があった。
「指令、主砲のチャージ、100%です!」
「よし! 主砲照準、敵大型要塞! これで我々の勝ちだ!」
月から大きく突き出した主砲、これこそが連邦軍の最終兵器。
「しかし、射線軸上に友軍機が多数!」
そう。戦場はここまでぐちゃぐちゃに泥沼化している。
この主砲を放つという事は、味方ごとあの怪物を焼き殺すという事になる。
「・・・彼らも軍人だ。地球の為なら、その命を差し出す覚悟はできているだろう。この主砲ならばあの怪物共を掃討できる。これを撃てば、地球が無傷のまま戦いを終わらせることが出来るのだ」
司令官は自分に言い聞かせるように言うと。
「主砲を発射する。たとえ友軍機を巻き込もうと、これを撃てば我々は勝てる!!」
この主砲の一発は太陽をも吹き飛ばすことのできる威力なのだから。
「主砲、発射!!」
主砲からビームのようなものが撃ち出され、射程に居た火星怪獣たちはどんどん消えていく。そしてその光はやがて火星怪獣の大型要塞も包み込み、その中の全てが焼かれ、文字通り怪物は死滅した。
「おおおおお!」
旗艦のブリッジが歓声で包まれる。
勝った。
誰もが勝利を確信した、その瞬間。
「て、敵大型要塞、健在!!」
「なに!?」
大型要塞は、消えることもなく爆発することもなく、そこにあった。
その要塞から、わらわらと火星怪獣たちが出てくる。
状況は、何も変わっていなかった。
あの光が吹き飛ばしたのは、独断で行動していた中型レベル程度の火星怪獣と。
何百万にも及ぶ、連邦軍の軍人たちだった。
「我々は、ここまでなのか・・・!?」
旗艦の前を守っていた防御部隊を全て吹き飛ばして主砲を発射したのだ。その射線軸上には、何もない。がら空きの防衛線を火星怪獣が次々と突破してく。
そして先頭の火星怪獣が主砲に組みつき、その牙でバキバキとそれを噛み砕き、数秒後には跡形もなくなっていた。
「主砲、沈黙! 敵火星怪獣のブリッジ到達まで、あと30!」
「・・・総員、退艦しろ。遺憾ながら、この月基地を放棄する」
退艦命令が艦中に鳴り響いたその時。
『私が時間を稼ぎます!』
ボロボロになったマークサーティーンが、ブリッジの眼前へ来ていた火星怪獣に、パンチを食らわせる。
「あれは・・・!?」
「アースセイバー!」
『早く逃げてください! 地球へ、1人でも多く!』
艦の兵士たちは次々と、目の前の白い機体に敬礼し、立ち去っていく。
「そうだ。それで良い」
リーゼの目は決意に満ちていた。
「ここは絶対に通さない! わたしは地球の守護者だ!」
マークサーティーンは火星怪獣たちを蹴り飛ばし、ビームの剣を使って斬り、ミサイルで撃ち落としていく。たった1機で、100万以上の兵がやる予定だったことをやっているのだ。
だが、それももう限界。
火星怪獣の一匹が、マークサーティーンの右腕を噛みちぎる。もう一匹が左足を噛みちぎった。
「ぐあぁっ!」
コクピットが暗転する。エマージェンシーを告げる警告音が鳴り響き、ウィンドウに操作不能の文字が出たかと思えば、全ての機能が死んで、何も動かなくなった。
「エミリィ・・・。私は、私は戦ったよ。地球を、守って、最後まで・・・」
彼女が目を閉じようとした、その時。
「お姉ちゃん!!」
信じられない事に、リーゼの目の前に死んだはずのエミリィが居たのだ。
「これは、幻覚・・・!?」
驚くリーゼ。
だが、違う。彼女を包む温かなこの光は、幻なんかじゃなかった。
「タナハシ!」「軍曹」「リーゼさん!」「軍曹殿」
この戦場で散っていった数百、数千万の命が、マークサーティーンへと集まっていく。
その青白い光は、まさに命の光だった。
マークサーティーンが、再び動き出したのだ。
「そうか。私は生きてるんだ。死んじゃ、ダメなんだ。だから、みんなが力を貸してくれた」
涙を拭うリーゼ。彼女は真っ直ぐに前を見据えた。
半壊したコクピットから見える、宇宙を埋め尽くす火星怪獣の群れを。
「行こう、みんな。私は生きて、地球へ帰るんだあぁぁ!!」
リーゼが叫んだ瞬間、マークサーティーンの半壊した機体からとてつもない量の光が満ち、宇宙を照らしていった。
その青白い光は宇宙を包み込み、火星怪獣を包みこみ―――
「・・・、ここは・・・?」
次にリーゼが目を開けた時。目の前には地球があった。
「月の裏側で戦ってたはずなのに・・・、なんで地球が見えるの・・・?」
後ろを見る。コクピット以外全て失われたマークサーティーンがそこにはあった。
コクピットの中から、辛うじて何か音が聞こえる。
『ザッ・・・せい・・・』
よく、耳を凝らす。
『火星、怪獣は全・・・消滅・・・には平和が・・・』
そして、リーゼは微笑んだ。
「私はまだ、生きている」
人々の、喜びの声を耳にしながら。
『戦いは・・・終わり・・・地球は・・・守られたのです』
◆
「なにコレ・・・この奇跡の押し売り感・・・」
わたしは息を吐いた。
"3014.8.15 -The anniversary of end of the War-"。
ハリウッドがとんでもない製作費と豪華すぎるスタッフ、キャストを集めて作った映画。
その出来がコレって・・・。
「えー、よかったじゃん。リーゼちゃん可愛かったし」
「可愛いのはエミリィでしょ。途中までは良かったけど、ラスト5分の超展開・・・」
"奇跡のラスト5分!""驚愕の結末に、全米が泣いた!"
これがうたい文句の映画だもんなあ、コレ。
確かに奇跡だったよ。驚愕の結末だったよ。
「だけどさあ」
ため息が止まらなかった。
この映画の列に並んだ労力と、時間と、1800円返してくれ。
「しゅ、主人公が最後に、い、妹と抱き合うエンディングはよかったじゃん!」
「確かに曲は良かったけど・・・」
毎日毎日、嫌がらせかと言うくらい、バカみたいにテレビから流れてくるだけの事はある。
でも、まさかあの映像が死んだはずの妹が生きていました、感動ですね。って展開だったなんて。
(魅力半減だわ)
心底嫌になった。あの曲、トラウマになったかも。
そんな事を考えながらネガティブオーラをほとばしらせていると。
「お姉ちゃんのバカーーー!!」
今までずっと、映画の擁護をしていた妹が、叫ぶ。
「あの内容で、あの展開で、あのエンディングで!しかもそれを妹と見に来てて!そんな事言う!?」
「へ・・・?」
「まだ分かんないの!!」
突然の事で、本当に頭が真っ白になってしまう。
「あたしもエミリィくらい、お姉ちゃんの事が大好きなの!」
「あ、ちょ、待っ」
「お姉ちゃんはあたしの事、好きなの!?」
「いや、だから」
「"はい"か"いいえ"か、ハッキリしてよ!」
妹はもう泣き出してしまいそうだ。
そんな震える妹を、わたしは思い切り抱きしめた。
「そんなの、決まってんじゃん」
普通に告白すれば良いのに。
やり方が遠回しすぎるんだよ、あんたは・・・。
「・・・イエス」
恥ずかしい。
劇中の台詞を言わされたことじゃない。
・・・ここ、かなり人通りの多いシアター前通りなんだけど。
どんなに陳腐なご都合主義でも、みんな幸せに笑って終わるハッピーエンドが良い
(TVアニメ「彼女がフラグをおられたら」第12話より抜粋)