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美少女の生血をすすらないと生きていけない

「痛っ」


 その女の首筋に噛み付くと、大層痛がった。


「ヴィルちゃん? あの、ハードなプレイも楽しいんだけど、身体に痕が付くようなものはちょっと」


 抵抗されたのですぐに歯を外したからちょっとしか吸えなかった。

 この女、人間の割には意外と力が強く、油断していたのもあって離されてしまったのだ。


「・・・探偵サン?」

「なに?」

「ユーの血、何コレ。何味・・・? まるでミックスジュースみたいデス」


 いろんな女の子の匂いが混じってて、元の味が判別できない。


(この女・・・)


 かわいい顔してホイホイ着いてきたからしばらくこいつから血をいただこうと思ったのに。


「え? それって、褒められてるのかなあ?」


 呑気な顔をして後頭部をかくこいつに向かって。


「一体どんだけの女とどんだけの頻度でヤッてんデスか! このビッチ!!」

「ええええええ!?」


 ワタシは彼女を突き飛ばす。ベッドから転げ落ちるビッチ女。


「ユーの血は不味いデス! ワタシは清涼剤が飲みたかったのに、ミックスジュース飲まされたら堪らんデス!」

「ちょ、ちょっと待ってよ。どこ行くの?」

「一週間に二桁の女と寝るビッチと一緒の部屋に居られるか! ワタシは1人で出ていくぞ! デス!」


 急いで下着を拾い上げ、パンツを穿く。


「あの、今、真夜中だよ? 女の子が1人で出歩くのは危ないと・・・」

「ワタシにとっては今がゴールデンタイムデス!!」


 最後に黒いコートを着込んで、バッグを持つとドアノブに手をかけ。


「グッバイ、ジャパニーズタンテイガール!」


 ベー、と舌を出して、その女と別れた。

 何が探偵だ。

 大の女嫌いとして知られたホームズとは似ても似つかない日本の探偵に、カルチャーショックを受けながらドアを力強く閉めた。





「夜は良いデス・・・」


 と言うか、日光を浴びたら灰になっちゃうから夜しか知らないんだけどね。

 "吸血鬼(ヴァンパイア)"と言うのはそういう生き物だ。


 そんなヴァンパイアにとって、日本は非常に住みやすい。

 まず、地下街が非常に発達している。1日中そこに居ても飽きないほどに。

 たまに地上に出たりする地下鉄には乗れないけれど・・・。


(巨大なダンジョンみたいになってる場所もあるデスし)


 毎日楽しく時間が潰せる日本は良いところ。

 しかし日本での暮らしが長くなるにつれ、ワタシの身体が衰弱していっているのは分かっていた。


 理由は1つ、主食である人間の生血を摂取できていないから。


 この1ヵ月、まともに食事をしていない・・・。

 遂に我慢しきれずさっきの女の血を吸おうとしたらあの有様だし。


「このままじゃ空腹で死んでしまうデス・・・」


 嘘です。吸血鬼は死にません。ちょっと長い眠りにはつくけど。

 これはアピール。こうやって死にそうな顔して、死にそうなことを言っていれば。


(きっと誰かが助けてくれるはずデス。ジャパニーズニンジョー!)


 う、うう・・・と。うめきながら、よたよたとおぼつかない足取りでふらついてみる。

 その瞬間。

 何かにぶつかったのを感じた。


「あ゛ぁ?」


 相手の顔を見ると、ものすごい美人。

 しかし、ものすごく鋭い目つきでこちらを見おろしていた。


「ひっ」


 あまりの凄みに、咄嗟に怯んでしまう。


「・・・ちっ。ガキか」


 その怖い女の人は面白くなさそうにコンクリートの地面を蹴ると、それ以上何も言わずに去って行った。


「君、こんな時間に大丈夫? 最近物騒だから気を付けてね」


 その女の人の後ろを歩いていたセーラー服の女子高生に、フォローをされたけど。


(あの女が1番ブッソウだったデス・・・)


 ありゃあ、人を殺ってる奴の目だったデス・・・。

 世界一安全と謳われている日本の治安に愕然とし、後ずさりながら戦慄していると。


 また、何かにぶつかった。


「ひーっ! あ、アイムソーリー、ソーリー大臣! ワタシ ニホンゴ ワカリマセーン!」


 あの探偵や、さっきの怖いお姉さんみたいな奴と関わり合いになるのはもう懲り懲りだ。

 日本でマックス困ったら言えと言われていた台詞を口にし、ワタシは思い切り頭を下げた。


「あ、え、あの。えと」


 そこに居たのは。


「あい、どんと、すぴーく、いんぐりっしゅ」


 どのくらいの年齢かはあえて伏せるけれど・・・幼い女の子だった。


(キター!!)


 思わずガッツポーズをするワタシ。


「あ、あの・・・大丈夫ですか?」


 ワタシの様子をおかしく思ったのか、心配してくる幼女に対して。


「ぜんっぜん大丈夫デス! 今、1人? 1人デスよね?」

「マネージャーさんとはぐれちゃっt」

「お姉さんが解決してあげまショウ!」


 くい気味で彼女の手を取る。

 そして、コートをばっと広げると。


「ワタクシ、ヴィル・ヘルシングと申します、お嬢さん」


 跪き、まるで女王陛下に接するようにこうべを垂れた。


「あ、はい。日本語しゃべれるんですね・・・」

「ええ。英国淑女たるもの、語学は堪能でなければ」


 そして彼女の手を取って、手の甲にキスをする。


「お嬢さん」

「あ、はい」


 キラキラと輝く、幼女の瞳をまっすぐに見つめながら。


「お姉さんと、イイコトしませんか?」


 特に深い意味も他の意味もない言葉を、投げかける。


「うんっ。よかったあ、ホテル連れてってくれるんだよねっ?」


 彼女は満面の笑みを浮かべながらそう言ってワタシの手を取ってくれた。


(ま、眩しい・・・、これが、サンシャインと言うモノデス・・・!?)


 今の台詞を本当に純粋無垢な気持ちで言えることのできるこの子にとてつもない背徳感。


 ・・・しかし。もういい加減、本当に理性が抑えきれなくなってきていた。

 空腹で気が遠くなりそうで、渇きで頭が痛くなってきたくらいなのだ。

 この子には少し、我慢してもらおう。





「わー、おっきいベッドー。ふかふかー」


 さすがに幼女をラブホには連れて行けず、ビジネスホテルの部屋に泊まることにした。

 この幼女の名前は深優(みゆ)と言うらしい。


(うん、少し首元が隠れてる服デスね・・・)


 服を破くのはさすがに憚れる。


「お着替え、シマショウネー」


 なんて言って、適当に服を脱がせることにした。


「あ、下着は替えなくていーい?」

「さすがにそれはお姉さんも持ってませんからネー」


 カーディガンと、薄い長そでのTシャツを脱がせる。

 ・・・結構マセた下着つけてるね。上も下も淡いピンク色でかわいらしい。


「あ、ちょっと良いカナ?」

「うん?」


 その、一瞬の隙に。


「はむ・・・」


 ワタシは深優の首筋にかぶりつく。


「ひゃんっ」


 彼女は最初、くすぐったそうな声を上げた。

 そりゃあそうだ。甘噛みもしていない、唇を首筋に当てただけなんだから。


(血管の位置・・・ここで良いか)


 出来ることなら痛くしてあげない方が良い。

 とはいえ、気休め程度の緩和にしかならないだろうけれど。


「かぷ」


 ワタシは歯を立てて、思い切り深優の首筋・・・うなじの下あたりに、噛み付いた。


「いっ、いたっ・・・!」


 久々の吸血だ。

 相手が子供だという事を考えて、あんまり量は吸わないように。


「きゃあああ! 痛い、痛いよお姉さん!」


 でも、抑えられない。

 吸血衝動を、抑えることがどうしてもできない。


「やだ、放して! やだ、やだよお!」

(ん・・・美味しい・・・)


 空腹が満たされ、乾いた喉が潤っていく。

 この子の血・・・すごい。未熟なのに、変なみずみずしさはなくて、新鮮さだけが残る。


「痛い!痛いぃ! 助けてお母さん! いや、いやあああ」


 それに何より、深優の泣き喚く声・・・堪らん。良い声で鳴くわ。

 耳の膜が良い感じに刺激され、頭が心地いい気分で満たされる。


「ぷはっ」


 どれくらい、吸血をしていただろう。

 深優の首筋から口を放す。


「・・・ごちそうさま」


 最後の方は泣くことも出来ず、声を出すこともできないようだった深優は。


「痛い・・・痛いよぉ」


 かすれそうな声で言うと、涙でぐしょぐしょになった顔を覆い、さらに泣き出してしまった。

 そんな彼女を―――


 ワタシは、ぎゅっと抱きしめた。


「よく耐えてくれたネ・・・ごめんなさい、怖かったでショウ?」


 まるでふわふわの綿菓子を抱くように、力を加えず。包み込むように。


「ワタシはね、吸血鬼なの」

「きゅうけつき・・・?」

「人間の血を吸わないと、生きていけない生き物デス。許してくれとは言わない・・・。ワタシ達も、他に食べるものがあればそうしたいデス。でも・・・」


 ううん。こんなのただの言い訳だ。

 幼い女の子に本当の事を言わないでこんなところに連れ込んで、血を吸ったのは紛れもない事実。


 深優に殴られても蹴られても、ワタシは決して抵抗することはしない・・・それだけ、心に決めていた。


「それしか、ないの・・・?」


 ワタシは、黙って頷いた。


「じゃあ・・・しょうがないね」


 ハッと、顔を上げる。


「痛かったし、怖かったけど・・・。お姉さん、真剣に謝ってくれたから。だから、最初の1回だけは・・・許してあげる」


 嘘・・・でしょ。

 こんな小さな子が吸血の痛みに、恐怖に耐えられるわけがない。

 なのに、どうして深優は笑っていられるんだろう。

 まさか。目の前に居るのは・・・。


(天使・・・!?)


 彼女から後光のようなものが差しているように見えた。


「こ、これがサンシャインデスか・・・!!」


 あまりの眩しさに、腕で目に入ってくるものを遮る。


「次からは・・・ちゃんと、言ってね」


 ワタシの腕に包まれている女の子は、深優は、そんな事を言って、また微笑む。


「ま、また血を吸っても良いんデスか・・・?」

「うん・・・。お腹減るのも、喉が渇くのも、辛いもん。それに、他の子にこんな痛い思いはさせたくない。わたしが我慢して済むのなら・・・それでいいの」


 ワタシは全身が震えていた。

 この子は聖女ですか? この年にして、この達観の仕方は尋常じゃない。

 何より。


(これは将来、よからぬ輩に捕まったら大変な事になるデス・・・!!)


 さっきの探偵みたいなビッチ女とか! 探偵みたいなビッチ女とか!


「守らねば・・・」

「?」


 ワタシの小さなつぶやきに、深優は頭の上でクエスチョンマークを浮かべていた。

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