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百合探偵シャロちゃん最期の事件

「この写真の女性を探して保護していただきたい」


 そんな言葉と共に渡された1枚の写真。

 随分とかわいい女の子だった。年齢は・・・わたしと同い年くらいか、制服着てるし。


「・・・この仕事をどうしてわたしに?」

「捜索が袋小路に達したから、でしょうか。しかし最後の最後に学生と一緒に居たとの情報を掴みましてね」


 目の前の黒スーツを着た随分と目つきの悪い女は煙草を灰皿に押し付けながら言う。

 今まで目つきの悪い人間を幾人と見てきたけれど、こんなに目つきの悪い人を見たのは初めてだ。


「で、高校生探偵であるわたしに辿り着いたのか」

「学生のコミュニティというものは独特で、そこに深く入り込むのは至難の業・・・。しかも我々のような者は学生相手にはどうにも不向きなようでして」


 ソファに座る女の背後で、手を後ろに組んで背筋を伸ばしている相当ガタイが良い男達をちらりと見やると。


「確かに、アンタ達じゃ話しづらいかもな」


 だって年端もいかない女の子が話すには怖すぎる。どう見てもカタギの人間じゃないもの。

 だからこそわたしは普段使っていない、とあるビルの4階に入っている"オフィス"で待ち合わせをしたのだ。


「・・・わかった。この依頼、名探偵シャロちゃんが任されよう」

「ありがとうございます」


 断ったらタダじゃ帰してくれないでしょ。

 わたしはガラにもなく、頬を伝う脂汗の感触にどうしようもない気持ち悪さを覚えていた。





「りーちゃん、なんか疲れた顔してるねえ」

「うん、最近ちょっと寝不足で」


 ふわ~、とあくびをして見せる。


「また他の女の子とえっちなことしてるの?」

「それだけじゃないよ」

「・・・否定しないんだ」

「嘘はつきたくないから」


 すると彼女はにっこりと笑って。


「たまにはあたしもりーちゃんとえっちな事したいよ?」


 と言って、わたしの腕を掴む。


「今から?」

「ううん。今日はいいや。りーちゃん疲れてるし・・・それに」


 わたしは小首を傾げる。

 いつもの彼女なら、もっと押してくるのに。そんな事が頭を過ぎる。


「あたしは待てる女だから」


 そう言った彼女があまりに可愛くて、唇が合うだけのキスを反射的にしてしまう。

 それで満足してくれたのか、彼女は嬉しそうに帰っていった。


(ここもダメ・・・、か)


 あれから1週間・・・、もう少しで"核心"に触れられそうなのに、寸前のところで指の間を通り抜けてしまう。わたしなりの手段で色々な学校の各学年、グループに接触し続けてきたけど、未だ本丸が見つからない。


 この地区も高校と中学には当たった。

 小学校の可能性は薄いと思うけれど、一応ダメ元で南小へ行った時の事だ。


「お姉ちゃん、探偵さんなの!?」

「そうだよ~。ほら、漫画とかで見たことない? 虫眼鏡」


 小道具でしかないそれを、小学生の女の子たちに見せびらかす。

 そうすると彼女たちは喜んでくれるのだ。幼j・・・じゃなかった、子供がよろこぶ姿は良いもんだ、うん。小学生は最高だね。


「この人、知ってるかも」


 そして、とうとう突き当たった。


「お姉ちゃんのお友達・・・、おうちに遊びに来たところを何度か見ました」

「詳しくお話聞かせてもらっても良いかな?」

「う~・・・ん・・・」


 わたしは満面の笑みを浮かべながら女の子に言い寄る。

 見よ、この完璧な営業スマイルを。作り笑顔の天才と呼ばれたわたしの力は小学生にも通用する、するはず。


「・・・わかった。探偵さんなら良い・・・よね?」


 したぞ。押し切った。


 わたしは彼女の家へ上がり込むと、すぐに手籠めにすることに成功する。


「ん・・・ちゅ・・・」

「ちゅぱっ。ふう、紗希ちゃん、キス上手だね。初めてじゃないの?」

「は、はい。同級生の男の子と前に・・・」

「そっかそっか。今度は女の子としてみたら? 今みたいにすっごく気持ちいいから」


 彼女は少しだけ何かを考えたのか、返事に戸惑うと。


「はい・・・」


 と言って、顔を赤らめた。堕ちたな。


「貴女、妹に何かしました?」

「え? 何もしてないよ?」

「しらばっくれて。ホントに探偵なんですか?」


 お姉さん登場。

 妹ちゃんと違って真面目な子だね、一目でわかった。南高の生徒にしては珍しいくらいの真面目ちゃんだ。


「探偵だよ。だから知ってるの」

「何を・・・」

「極悪非道会のお嬢さんが行方不明ってこと」


 その名前を出した途端、彼女はびくんと身体を震わせた。


「その反応、何か知ってるよね?」

「知りません・・・」

「あのね、真貴ちゃん。今、あの子を探して組の怖い人たちが街中探し回ってるの、知ってる?」

「・・・」

「あの子と真貴ちゃんが友達だって知られたら、真貴ちゃんにも被害が及ぶかもしれない。それを止めたくてわたしは来たんだよ」


 こんなかわいい女の子に脅しみたいな手を使うのは主義に反するけど・・・、今は許してほしい。


「ど、どうすれば良いんですか?」

「お友達が行きそうな場所、知ってること・・・どんな些細なことでも良い、何か知らない?」

「い、行きそうな場所は、ゎ・・・わかります」


 ビンゴ。


「それはどこ?」


 ・・・真貴ちゃんは混乱している。攻め落とすなら、今。


「あ、あのっ。落ち着いて聞いてくださいね・・・。へ、変な意味じゃありませんからっ!!」


 そこで一泊を置き。


「ラブホテル街」


 真貴ちゃんは囁くように小さな声で呟いた。





「・・・確かに今、ここに入っていったね」


 ネオンが光る夜の街。ピンクの看板の建物の前に、わたしと真貴ちゃん。


 2人で顔を確認して、ほぼ間違いないという"人影"がここに入るのを見た。しかも一緒に入っていったのは同い年くらいの女の子だ。


(長めの家出をしたと思ったらカノジョ作ってラブホ渡り歩いてるとか。あーあ、お盛んだこと)


 状況報告ではなく保護の仕事で助かった。


「ほ、ホホホントにここに入るんですか!?」


 隣でわたしの腕の中に居る真貴ちゃんが声を震わせながら話しかけてくる。


「別に入るだけだから何の問題も無いでしょ? それとも何かしたい?」

「したくありません!」

「あら残念」


 今回はしてる時間も無さそうだし仕方ないか。

 2人組がエレベーターに乗るのを確認すると、ラブホの中へと入り、すぐにエレベーターが止まった階を確認する。


「5階か・・・」

「見失っちゃいましたよ?」

「いや、見失ってない。奇数階のカメラを押さえてある。ほら、見てこれ」


 1つのスマホを取り出し、画面表示を切り替える。

 そこには5階の廊下カメラ3台の映像が3分割されて映し出されていた。


「・・・」


 さすがに異常さに気づかれたのか、真貴ちゃんはドン引きしているご様子。


「あ、あなた、何者・・・?」


 肩を抱いているのに、真貴ちゃんがすごく遠く見えた。

 でも。この手の質問には答えが用意してある。


(ほう)()()斜理(しゃり)、探偵さ」





「あ、あの! こんなことして良いんですか!?」

「勿論よくはない・・・。でも、もう真貴ちゃんも共犯だからね」

「そんなぁ!」


 部屋のカードキーにハッキングを仕掛け、手元のタブレットでセキュリティを解除していく。

 その間紗希ちゃんにやってもらってることは・・・。

 他の部屋から誰か出てこないように、監視してもらうことだ。


「セキュリティ解除!!」


 わたしは端末を投げ捨て、ドアを勢いよく開いて部屋の中に突入する。


「探偵だ! 大東亜朱莉ちゃん、一緒に来てもらうよ!」


 そう叫んだ瞬間、蹴りが飛んできた。

 瞬時に防御したものの、それでも。


「!!」


 何も考えられないくらい防御に使った両腕が痛くなった。

 CQCを一通り会得したわたしが耐えられないほどの蹴り、・・・これは。


「朱莉ちゃん、だね」


 目の前に居たのは上も下も下着のまま蹴りの姿勢でこちらを睨みつけている美少女。

 保護対象である"大東亜朱莉"、その人だった。


「・・・あたしの攻撃を防ぐなんてね。相当な手練れと見た」

「まあね。さ、家へ帰ろう」


 わたしがそう言って、彼女が何かを言い返そうとした瞬間。


 腹部に、嫌な痛みが走った。


「・・・!?」


 そこを見てみると。

 わたしのお腹に何かを突き立てている、女の子の姿。


 その女の子の顔を確認した後。

 わたしの視界は急速に暗くなっていき、そのまま意識が遠のいていった。





「・・・偵さん!探偵さん!」


 ハッと、意識を取り戻した。我に返ったと言っても良い。


「まき・・・ちゃん・・・」


 まだ視界と思考がぼうっとする。真貴ちゃんの顔がよく見えないし、口がまわらないのだ。


「よかった、よかったよぉ。探偵さん、生きてて・・・」

「わたし、どうして・・・」

「探偵さん、スタンガンで気絶させられてたんだよ!?」


 あの時、誰かに刺されたと思ってたけど、スタンガンだったのか。


「刃物じゃなくてよかった・・・」


 はは、と空笑いをする。


「良くないよ! 探偵さん、死んじゃったのかとっ!」


 真貴ちゃんは本気で心配してくれていたようだった。


 ・・・でも、失敗したな。

 あの大東亜朱莉と付き合おうって子だ。タダモノじゃないとは思っていたけれど、まさか"朱莉の為なら人殺しちゃう系女子"だったなんて。

 さすがに想定外だった。


「あーあ、これで捜査はスタートに逆戻り。ここまで結構苦労したのに」

「そんな事より自分の心配をしなよ!」


 真貴ちゃんがボロボロと零した大きな涙が、わたしの顔の上に落ちてくる。


「ねえ、真貴ちゃん。ここ、どこ?」

「朱莉が居た部屋っ! もう誰も居ないけど、ここしか逃げ場が無くて!」

「そっか、はは・・・」


 それだけ確認できたら十分だ。


「真貴ちゃん、わたしの最期のお願い、聞いてくれる?」

「うん・・・うん。聞くよっ」


 真貴ちゃんは口を押えながらこくこくと頷く。


「えっちしたい」


 依頼がパーになったイライラと、身体に力が入らないモヤモヤと、ラブホに来たと言うモンモンと。

 全てを解決するにはもう、それしかなかった。


 にしても驚いたのは真貴ちゃんがもう脱ぎだしてる事だ。

 ・・・ノリノリじゃないですかやだー。

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