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サ・エ・ラ  作者: 望遠鏡
プロローグ
1/1

終わりは突然に

暗闇の中、一人の少女が立っていた。

その少女は全身血塗れだった。少女の足元には何人もの死体が伏している。その中で少女はただ哄笑していた。

一頻り笑うと少女は死体の一つを手に取り、揺さぶった。


「ねぇ、おじさん。もっと遊ぼうよー。もう、一体いつまで寝転んでるの?」


そう呼び掛けて強く揺さぶるが、その死体が動くことは無い。ただただ重そうにゆっくりと揺られ続けていた。少女は少しの間そうしていたが、やがて諦めたのかぱっと手を離して死体を放った。そして他の死体に手をかけ、同じことを繰り返す。幾度かそうした後、どれからも反応が返ってこないことを悟りようやく少女はそうすることをやめた。

少女は手に付いた血を服の裾で乱暴に拭うと、その場を後にした。










昨夜は不吉な日だった。

月の神が顔を隠したからだ。およそ一月に一度月の神はお隠れになる。そういう日は不吉とされ、窓を閉め灯りを灯さず部屋でじっと夜が明けるまでやり過ごす。それをせず、もし何かしていたら月の神の怒りに触れて災いが降りかかると昔から言い伝えられてきていた。

そんなことだから、昨夜の事件は天罰が下ったと町では専らの噂だった。あんな夜に盗みを働こうとするから月の神が天罰を下したのだ、と。

昨晩、何を思ったかこの町に盗賊が入った。商人に上手く化けてこの町に潜り込み、夜に盗みを働く予定だったようだ。それが発覚したのは今朝。死体となった盗賊達が道端に転がっていたらしい。死体はとても直視できるようなものではなく、惨い殺され方をしていたと聞いた。幸いなことに何も盗まれてはいなかった。人々は神の采配と囃し、何かの祝い事のように酒を飲んでいる。私が働いている酒場でも昼間から酒が飛ぶように売れている。普段嫌みばかりの意地の悪い店長はしたり顔でお金の勘定をしている。機嫌が良いと嫌みも減るので、それだけは嬉しい。

けれど私は知っていた。これは月の神のお陰では無いと。




仕事が終わると私は家へと帰る。家は今にも倒れそうな粗末な造りで、私はそこに一人で住んでいる。職場である酒屋からは徒歩で約一時間程かかる。帰る道中には大抵いつも邪魔が入るから、家に着くにはそれの二倍の時間はかかる。今日も例に漏れずそうなりそうだった。


「おい、リリエラ!」


不機嫌そうに私を呼び止めたのはアートルム商会の一人息子である、セルベールだ。アートルム商会はこの町一番の商会で、この国でも三本指に入る程だ。セルベールはそこの一粒種で、大切に育てられている。だからこの町では誰にもセルベールに強く言えない。セルベールは尊大な態度で私の前まで来た。


「お前まだあんな貧乏臭い仕事をやってるのか?」

「は、はい。あそこは未成年でも雇ってもらえるので…」

「はっ、そうだったな。お前には親もいないから自分で稼ぐしか無いんだった」


そうセルベールは鼻で笑った。セルベールは嫌みしか言わないのに毎日毎日私に会いに来る。どうしてか何て分かっている。そういった機微を察せない程鈍い訳ではない。けれど、あえて気付かない振りをする。こうやって子供のように気を引こうとしている内は構わない。実家の力を持ち出して強行しないなら私はこの茶番に付き合うつもりだった。

私は平和に暮らしたい。ただ、それだけ。


私が黙っているとセルベールの機嫌がもっと悪くなるのが分かった。セルベールは苛々したように舌打ちを一つし、私をじろりと眺め回した。そして唇を持ち上げる。嫌な笑い方。


「まったく、粗末な服だな。そのお給金じゃ服も買えないのか?」

「あ、朝夕のパンを買うお金しか無くて…」

「パン?まさか今手に持っているそれか?俺には鳥の餌のように見えるが?」


私はそっと今日の夜と明日の朝の分のパンを買う背に隠し、顔を伏せた。

セルベールは笑いながら、「お金が無いなら俺がやろうか?ただし…」と言った。


「ごめんなさい…でも私、それは受け取れません…」


セルベールは苦々しい顔付きになって、「俺に媚びないなんてバカだ」と罵った。それから少し私の返答を待って、私が何も言わないのを悟ると顔を赤くして足早に去っていく。

大体いつもと同じ流れだった。私はほっと溜め息を吐くと家への帰路を急いだ。



この家にはもう実家を飛び出してから五年余り住んでいる。

一人は寂しいけれど、もうあの私を下げずむような目を見なくて済むと思うとほっとする。ここは私の居場所なのだと思えるから。

見た目は古くて壊れそうな家だけれど、私は結構気に入っている。そこに、自分でお金を稼いで暮らしていく。それは、なんて幸せなことだろう。これだけは奪われたくない。そう思っていた。

それなのに何て言う皮肉だろう。

私の家は私が帰る前から灯りが灯っていた。窓から大柄の、おそらく男だろう人影も複数見える。私は独り暮らしだ。それなのに、おかしい。その内の一人の、窓から外を見張っていた男と目が合う。私は咄嗟にもと来た道に引き返そうとした。だけと怖くて足が縺れて転ぶ。派手に転倒して膝を擦りむいた。膝から来るじわじわとした痛みと恐怖に体が痺れたように動けなかった。怖い。

後ろからドアが開く音と男達の声がする。立ち上がろうと手を地面について足に力を入れるが、上手く入らない。近づいてきた男の一人が私を強く蹴った。私は顔から地面に突っ伏した。


「嬢ちゃん、運が悪かったな。こっちも見られちゃ困るんだよ」


上からしゃがれたような男の声が聞こえる。


「悪く思うなよ」


そう言うのと同時に背に激痛が走る。それは胸にまで届いて、刃物で心臓を刺されたと気付いた時には私はもう死んでいた。





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