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門出

あれから二週間たった・・・・


黒服に胸を刺され、顔が変わり若返り、ゴーレムに襲われ、そして・・・・羽衣を纏う少女・奏と出会った・・・・・。

多くの異常な状況に、助かった後、ほとんど家から出ようとしなかった。

また、あんな化け物に会わないとは言い切れないからだ。


奏に助けられた後日の朝、テレビでは襲われた公園が報道されていた。

公園は破壊されていたため、ニュースでは爆破テロと報道され、近所は大騒ぎになっている。


しかし、その破壊はゴーレムだけではなく・・・・その半分ほどは俺が破壊したらしい・・・・・


奏曰く・・・・


そのため、人目を気にして外に出ないようにし、様子を伺うが俺の元には警察関係などは来なかった。

その間、俺は黒い戦斧・シオントーレを出そうとしたが、全く出てこずにいた。

やはり、あれはユメだったのか・・・・・


しかし、奏のあの必死さと涙は本物だった・・・・

「いやいやいや!!!!何思い出してんの!俺は!!」


そんなこんながあり、二週間を過ぎる頃に俺は・・・・再び、懐かしの中学校に入学することになった・・・・


4月8日


「海里〜!早く朝ごはん食べちゃいなさい!!」

母親の声が聞こえてくる、しかし、すでに俺は起きていた・・・否・・・眠ることが出来なかった。


それは、懐かしの母校に入学する事が嬉しいのではない・・・嫌なのだ・・・恐ろしいのだ!!


いくら、本当の年齢だろうとも、トラウマである記憶を思い出すのは恐ろし事はない・・・・そこため、懐かしくそして、天敵たちと再び、学校生活を過ごすことに恐怖を感じ、眠れなくいた。


しかし、当日の朝になると、あることに気づいた・・・。


どうしてかは分からないが、今の俺は過去にいる・・・・それは、未来を変えられる事でもある。

よくあるタイムパラドックスと言うものを聞いたことがあるが、そんな物はどうでもいい・・・・出来なかったこと、やりたかったこと、なりたかったものになれるかもしれない・・・


そんな身勝手な理由を胸に希望と絶望を抱いていた。


北原西中学校・・・・そこそこ長い歴史がある学校だが、俺が入学する前に校舎全てを補修した(していたはず・・・)為に綺麗な校舎、そして、市内にある中学校では校庭も含めると1、2位を争う敷地になっている。

しかし、この学校はある特徴が大きく現れる。

恐らく、他の学校でも、よくある事なのかも知れないが、生徒が荒れているのが特徴になっている。


一年毎に不良・・・と言われるお年頃な子供達が入学するしてくる。

俺の時期は、よかったら事に、そこまで問題をよく起こすような子ども達はいないはずだ。


「海里!!早く降りてきなさい!!」

学校の事を考えていたら、母親の怒鳴り声が聞こえる。

「はぁ〜・・・・今いくよ!!」


複雑な気持ちで、一階のリビングへ重い足取りで降りて行く・・・・・・

そこには、すでに朝食が準備されていたが、何か小箱が一緒に置いてあった。

「何んだ?これ・・・」

俺は包装されていた小箱を手に持ち、母さんに問いかける。

「あぁ!それ?今日の朝に玄関前に置いてあったのよ。この手紙と一緒にね。」

そう言う母が手紙を渡してくる。

白い封筒に入っているダイレクトメール・・・しかし、切手貼っておらず、ただ『瀧峰 海里様へ』しか書かれていない。


この時代は、ようやく携帯電話が普及し始めたばかりで、中学生が携帯電話持っているのは、稀だった。

それでも、切手もない手紙は気味が悪い・・・


恐る恐る手紙を受け取り、封を開け、手紙を取り出す。

そこに書かれていた内容に顔が青ざめて行く。

「なに・・・・これ・・・・」

『瀧峰 海里様 これを読まれていると言う事は、まだ生きている事だろう。おめでとう。君は、新たな人生を歩み始めた。しかし、何も代償も無く、そんな事をさせると君も思っていないだろう・・・君にはこれから幾つもの障害が現れるだろう。本当の君の人生と同じ道を歩みたくなければ、生き残りたまえ。 小箱の中には、私からのささやかなプレゼントを送らせていただく。 ・・・良い過去と未来、人生を歩みたまえ。 S』


読み終わると、手紙を持つ両手が震え、用紙にシワを作る。

(こいつ・・・俺の事・・・・知ってる・・・"黒服"!!)

俺は黒服を思い出した・・・正確には、セリフをだ。

『いってらっしゃい。良い過去を・・・』

まるで、オーディオプレーヤーでリピートをしているように、頭の中で何度もこだました。


(俺は・・・また殺されるのか?・・・)

そんな事を考えながら、包装されていた小箱を手に持ち、見つめる。


「どうしたの!?顔色悪いわよ!!」

「な、なんでもない・・・・朝飯いらないから、行く準備してくる・・・」

母は俺の顔を覗き込みながら、驚いている。

そして、俺はカラ元気に笑顔になり、小箱を持ったまま、部屋へ走り戻る。


部屋へ戻ると、包装された小箱を部屋に置いてあるテーブルに置き、震える手で包装をほどいて行く。

「ば、爆発なんてしないよね?」

小箱をの蓋に手をかけようとすると、手紙の『生き残りたまえ』の言葉が蘇る。

しかし、プレゼントと言う言葉にも気になってしまう・・・それは、頭のイかれた奴が、俺が死ぬ事を前提に渡していると考えた。


もし、俺がそいつ・・・Sの立場なら、簡単には殺さないはずだからだ。

なぜなら、これはゲームなのだろう、命をかけたサバイバルゲーム・・・プレイヤーが簡単に死ぬことほど、つまらないものはない。



そう言い聞かせながら、蓋に手をかけ、開ける。

「こ、これって・・・」

そこに見えたのは、2枚のカードと四角形で液晶画面のスマートフォンが入っていた。

「なんで、これがあるんだよ・・・・」

スマートフォンなんて当分先に販売されるはず・・・今の時代では販売もしていない。

スマホを手に取ると、その下に付属品と手紙が入っていた。

そこには、IDとパスワードが幾つか書かれていた。


電源をつけ、起動するまでの間に2枚のカードをみた。

それは、銀色のカード、黒のカードが入っている。

それぞれには磁気がついており、何かの機械に使うのだと考えているとスマホが起動し始めた。


起動したが、これと言って変わった点は見当たらない。


〈メールが届きました〉


突如、メールを受信する。

着信音が鳴り響くと同時に、心臓が飛び出しそうになり、鼓動が早まる。

少しして、落ち着いたので、メールを開くと題名に"S"と書かれていた。

すぐさま開く。

『見てくれて感謝する。これは君の携帯だ、好きに使えばいい。料金は来せず、使いたまえ。あとこの携帯の契約は私だが、調べても無駄だ。悪しからず。あとカードだが、銀色のカードは銀行のカードだ・・・それは軍資金とでも言っておこう。こちらから、ランダムで入金されるので、それも気にせずに。

あと一枚は、生き延びる内に分かるだろう・・・・死ねば意味を持たない物だが、無くさないように・・・では、良い過去と未来、人生を・・・』


(・・・・・馬鹿にしやがって!!!)

些細なお茶目心が俺の怒りを駆り立てる。


先ほどの手紙の数字は、銀行のパスワード・・・・


そんなことを考えていると、扉をノックする音が聞こえる。

「海里・・・?大丈夫?学校の登校時間なんだけど・・今日は休む?」

「・・・・・・大丈夫、もう行くから。」

母の心配する声が聞こえると、俺は心臓を縛られたかのような痛みを感じた。

本当の俺は、不登校になり母に心配をかけさせてしまったのだ、でも、今は未来を変えられるかも知れない・・・・不安な思いをかけさせないで済むかもしれない。

その思いを抱えながら、ポケットにスマホを入れ、荷物を取り、扉を開けた・・・表面だけども、笑顔の顔で母にいった。



学校までは、歩いて10分ほどで着く。

向かうと、桜の花びらが舞ってくる、その光景は懐かしいと思ってしまう。


校門をくぐり、生徒用の玄関に向かうと新入生達が、これから過ごす学校生活に目を光らせている。

友達と話し、笑っている姿を見ると、中身は大人の俺は微笑んでしまった。


「おっ!海里じゃん、オッス!!」

懐かしい声に振り向くと、心臓が苦しくなる。

そこに居たのは、当時のいじめの主犯だった男性生徒・・巻島 浩介がいた。

巻島は、背もそこそこ高く、運動神経が良いタイプなため小学校の頃はガキ大将的な存在だった。

その上、性格横暴なため、俺のようなタイプをいじめるのが楽しいのだろう・・・昔はよくカツアゲなどされ、不登校になる原因なる男だった。


巻島は不敵な笑みを浮かべ、俺に近づいてくる。

「お、おはよ・・・巻島・・・」

すると、巻島の腕が俺の首に掛り、顔を近づけてくる・・・そして、周りに聞こえないように小声で話し始めた。

「俺さぁ〜この前、ゲーセンでこずかい使いすぎちゃってさぁ〜今、金ないんだわ・・・貸してくれねぇー?」

(キタコレ!!予想どうり・・・)


首に掛かる力が増し、軽く首を締め始める。

「えぇ〜っと・・・・今、金持ってないんだよ。悪い!」

早くこの状況を打破したい思いで、口を動かし、両手を合わせ笑顔で謝る。

その行動に当然、巻島は俺を睨みつけてくる・・・・そんな時、教師の声が聞こえてきた。

「新入生は、玄関前に書類を提出し、自分のクラスを確認してください。」と言う拡声器で放送している。

「ほ、ほら・・巻島もまだ書類出してないだろ?さっさと出しちまおうぜ!」(先生!ナイスタイミング!!!)


巻島の腕から抜け出し、玄関に向かう。

その時、後ろの方から舌打ちをする音が聞こえた・・・・俺は恐怖のあまり後ろを見ることが出来ないでいた。


書類を提出し、クラスを教えてもらった。

1-C組・・・・既に分かりきっていることなので、驚く事なく教室に向かう。


すでに半数以上のクラスメイトが集まっており、各小学校毎にグループを作り、しゃべっている。

俺は当然、懐かしい面々なので、嫌な思い出でも嬉しくなっていた。

机に名前が書かれており、自分の机を探した。


名前順ではなく、バラバラに設置されていたが、過去の記憶を思い出し、机を探すと窓側に席が見つかり、席に座る。


(はぁーこれからどうなんだよ・・・・)

朝から重い出来事があり、さらにはトラウマによるダメージで落ち込んでしまい、机に顔を埋める。

周りの皆は新しい門出でも、俺にとっちゃ殺されるかもしれないのだから、喜ぶ隙もない。


「おい、海里。何、落ち込んでるんだ?」

「秋・・・あっ!お、おはよう。」

「おう!マジで元気ないな。どうした。」

横から現れたのは、俺と同じぐらいの体型と身長の懐かしの幼き幼馴染の姿だった。

琴浦 秋哉・・・・幼稚園からの腐れ縁の幼馴染、本来の時代でも仲良くしてくれいた心強い親友だ。



「マジ、どうした?また、変の食ったのか?」

「違うわ!!何その大食いキャラの設定は!!」

「いや・・・お前、馬鹿だからな、心配するだろ。」

「心配はありがたいが、馬鹿は余計だ!」


秋とのたわいのない、話に少し落ち着いてきた・・・

(あんがと・・・)

心の中で、感謝をし元気そうな演技をする。


「だけど、怖ぇ〜よな・・・あの公園の爆発テロ、近くだし」

ギクッ!!


秋の言葉に体が震えてしまう。

「そ、そうだな・・・でも、もう逃げたんじゃねぇ?・・・」

「かなぁ〜、まぁ本当にいたら、頭イカレテルよな。はははっ!!」

(秋・・・すまん・・・頭はイカレテないが俺もその一人だ・・・・)


秋の無邪気なセリフが俺の良心に突き刺さり、痛い・・・・

「そうそう、トモもこのクラスなんだぜ!また、三人でつるめるな!」

「そうなんだ・・・」


トモとは俺らのもう一人の幼馴染・・・眞崎 友久、彼は今日登校しないはずだ、なぜなら、親族の不幸で田舎に行っているはずなのだから・・・


ガラガラッ

教室の扉が開き、担任の先生がやってきた。

「はい、皆さん。席に着いて! 出席確認するわよ!」

(幸子先生懐かしい!!・・・それでも、この時もジャージかい・・・)

幸子先生はバリバリの体育会系の女性教師だ。


先生の声に生徒は自分の席に着き始める・・しかし、俺の隣の生徒はまだ来ていない。

トモではないはず、秋がさっき席を教えてくれたからだ。

よく見ると、俺が知っている生徒数が一人多いのに気づいた。


(誰だ・・・?)

多分、俺の勘違いだろう・・・実際、そこまできちんと思い出すことができないのだ。


「先生、ここの席の人まだ来てません。」

クラスの女子が先生に告げると、先生も困った顔をしていた。

「あら?そこの席の子・・・」


ガラガラッ!


教卓方面の扉が突如、開いた。

その音に、俺も、クラス全員で見つめてしまうと、そこには人影があった。

「すみません!遅れました。」

聞き覚えのある少女の声・・・俺は、目を凝らし見つめる。


「えっと、あなたは・・・・」

「はい、里音 奏です。遅れてすみません!急用で連絡できなくて!」


彼女は、先生に頭を下げ、謝っている。


ザワザワ・・・

入学式に遅刻とはさすがに度胸がすわっていると、考えながら後ろ姿を見ていると、誰かに似ている。

(サトオト カナデ?・・・ん?んん?)


その様子を周りの全員が話しはじめる。

「ハイハイ!皆静かに!、もういいから席に着きなさい。里音さん、あなたの席は彼の隣よ」

「はい、わかりました!!」

彼女が、振り返る・・・そこに見えたのは、見覚えのある顔・・・しかも、つい最近見た、奏本人だった。

しかも、先生は俺の横の空席に手を指している。


(えっ?えっ?えっぇぇぇぇぇ!!)

「?・・・あぁ!!海里!一緒のクラスだったんだ!」


全身から、嫌な汗が吹き出てくる・・・目を外らすものの、鼓動も早まり、耳の近くで鳴っているかのような錯覚を起こす、さらに言えば、逃げ場がない。

ゆっくりと近づいてくる奏は満面の笑みで歩いてくる。

周りの生徒たちは、俺の事を見ながら、叫んだことで俺にも、注目が集まる。

そして、ついに奏が席に着くと、俺は反らした目線をゆっくりカナデに向けると、そこには今までに見たことの微笑みがあった


不覚にもその笑顔が可愛く、ドキッとしてしまい、頬を赤くする。

(いやいやいや!!ドキッじゃないだろ!!!俺!一度こいつに殺されかけたんだぞ!・・・・まぁ助けてもらったけど・・・)


心のなかで、必死に反論する俺に先生は、更なる羞恥のきっかけを作り出した。

「じゃあ、ここで自己紹介タイムにしましょう!あなた・・・迷惑かけたんだから、初めに自己紹介して、そのあとは壁側から順にするわよ」


(いや!、幸子さんや。この混乱状態で自己紹介ですと!!)

更なる混乱が訪れるが、こうなったら腹を決めるしかない。

順番がくるまでの間に、自己紹介だけでもしなければ、新しい人生にまた、壁を作ることになる。


すると、奏も席から立ち上がる。

その時、俺を見るなり、満面の笑みで微笑みを見せた。

「里音 奏です。横浜から引っ越してきました。皆さんよろしくお願いします。」

(横浜からきたのか・・・・)

素朴な疑問が解消されると、奏は俺に対し、手榴弾並みの爆弾を落として来た。

「あと、隣にいる海里君の"彼女"です♡」


ドッカーン!!!!!!


「へっ・・・・・・えっ・・・・・はい?」


「「「「「「「「「「「「ええええぇーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」」」」」」」」」」


クラスメイトの悲鳴にも似た驚きの声が、学校中に響き渡った。


「な、なななななな、何言ってんだよ!お前は!」

横にいる奏に体を出し、見上げる俺に対し、奏はしてやったり!!と言わんばかりの笑みを浮かべる。

「海里!!テメェーいつの間に彼女なんか作りやがった!!」

廊下側の席から秋哉がものすごい速さで走り込んでくると、俺の胸倉を握り絞めてきた・・・・それも、驚きと怒りの表情を浮かべながら・・・。


「ちょ・・く、首・・・締まって・・る・・苦しい・・・」

「お前って奴は!!俺にまで隠して・・そんな、うらや・・いや、如何わしいことをするようになった!!」

秋哉は今にでも、泣きそうな目で睨み付けている。


俺は、秋哉の手を振り切りった。

「ち、違う!俺はこいつと付き合ってない!」と弁明をすると、「ひどい・・・あんなことしていて、そんなこと言うなんて・・」

「おいコラ!何勘違いするような事言ってん・・・ひぃ!!!」


奏の悪意ある発言に、文句をつけようとした途端・・・・クラスの男子は怒りと嫉妬を込めた目と、けがわらしい物を見るような、または、幼い自分が知らない世界に興味を持つ女子の目線を一斉に受けてしまう。

そんな視線で睨み付けられたら、言葉など出ず、脅えてしまった。


先生もまた、奏の発言に言葉を失っている。


俺はこの時代に来て、よくわからない事に巻き込まれてしまい、気づかずの内にストレスを感じていた。

そんな状態で、周りはがやがやと俺の事を言われてしまっては、堪忍袋の緒が切れる。


(だぁ~~~~!!!うるせぇ~!!!)

俺は心の中で叫び、勢い良く立ち上がる。

すると、クラスの罵声は一時的に止む、その場を見逃さなかった。

奏の手を掴み、教室を飛び出していく。


この後、何を噂されるかわからないが、今この大問題を解決せねば、この先など考えられない。


走りだしたが、学校は住宅街に囲まれて居るため、完全に誰にも見られないと言える場所はない。

そんな時、安易な場所を思い出す。


「はぁ、はぁ、はぁ・・・ここなら・・・少しは大丈夫・・・なハズ」

そこは屋上・・・よく屋上などに場面で来るのはよくあるが、自分がやるとは思っても見なかった。


「何よ・・・いきなり・・」

一緒に走っていた奏も、息を切らしながら文句をたれる。

「うるせぇ・・・元はと言えば、お前が変なことを言うのが原因だろ!!・・・それに、なんでここにいんだよ・・」

俺は息を整えつつ、言い放つ。


すると、奏は下を向き黙り込む・・・・そして、顔を上げると真剣な眼差しで俺を見つめる。

「・・・君と行動を一緒にした方がいいと思ったのよ・・・自分の身を護る意味で・・・」

「・・・それって・・・本当にお前も・・・」

「そうよ・・私も、”黒服”に殺されたのよ・・・13年後の未来で!」

やっぱり・・・奏の言葉を聞くと、今まで話していたことにつじつまが着く。

そのまま、俺は彼女の話を聞くことにした・・・いや、聞かせて欲しかった・・・同じ犯人の手で殺された同士だから。


「私は25年の8月に殺されたわ・・・横浜でね、胸を一突き・・・気が付いたら、私はこの体になっていたわ・・・それも2月に・・・」

(俺が目覚める一か月前!!・・・)

よく考えれば、あの力を扱えるのが昨日今日では、無理に決まっている・・・・・


「2月の時は、まだ横浜にいたけど・・・そこで私は、あの化け物と初めてあったの・・・」

奏は一瞬、何かを言おうとしたが、唇を噛み締め、俺に背を向けた。


「お前も、俺と同じなのは分かった・・・そこで、いくつか質問がある・・・あの羽衣とか戦斧はなんなんだ?・・・それにあの空に、化け物とか知ってること教えてくれ・・・あと、俺を殺そうとした理由とか・・・・」

最後のは必ずにも聞いて置かなければなるまい・・・


「知っている限りでいいなら・・・でも、大したこと知らないわよ?・・・私・・・・」

彼女は振り返ると”それ、聞いちゃうの?”と言わんばかりの表情を浮かべていた、そんな彼女を見て、俺は少し心配になった・・・・

(大丈夫かいな・・・・・)



「コホン・・・い、いい?あの武器はなんで出るかは知らないけど、私たちがイメージすればいつでも出てくるわ。  私のオリヒメは攻撃能力は低いけど、防御と回復が出来るわ・・あなたが倒れた時も私が治したのよ。」

「マジで?」(治されてたということすら知らなかったんだけど・・・)

内心、知らなかったことに正直、恥ずかしくなる。


「あと無界は、あの化け物が現れると一定の距離で作られるの・・・・まるで、卵の殻みたいにね。 あの中で、化け物が完全な姿になろうとしているみたいなの・・・」

「完全な姿?」

「と言っても、それは私の主観だからよくわからないけど・・・何度か戦った化け物は初めてみた時と倒した時と形が変わってきていたみたいなの・・・」

彼女は自分が説明しているのが、少し恥ずかしそうになっていた。


確かに、こんな話をするのは、中身が大人ならば仕方がないだろう・・・こんなおとぎ話みたいな話をするのは。

しかし、俺はその話を真剣に聞いた・・・あの手紙に書かれたことを気にして・・・

(あっ・・・手紙!!)


「おい、”S”って奴知ってるか?」

その言葉に彼女も恥ずかしそうな顔から真剣な顔に変わる。

「海里のとこにも来たの?・・それじゃ・・・」

そう言って制服のポケットから何かを取り出した・・・それは、薄ピンクの四角い物・・・スマホだ!

俺もポケットからスマホを取り出す。


「やっぱり・・同じ・・」

色こそ違うものの、形状などはまったく同じものだった。


「それ、家の前に置いてあったの?」

俺は、頷くと奏が考え込む・・・・

「俺もって事は、お前もか?」

「そうよ・・・・ところで・・・・海里!なんで私の名前言わないの?」


奏は俺の顔に自分の顔を近づけてくる。

(ち、近い・・近いです・・・)

「い、いや・・・里音は・・」「か・な・で!!!」

名字を呼ぼうとしたら、名前で呼ばせようとする奏に再び、ときめいてしまう。


「いや・・でも・・」

「私は、あなたを海里ってもう呼んでる!だから、海里も私の事を名前で呼んで!!ほら!」

「・・・・・・・か・・・・奏・・・・・」

名前を呼ばなかったのは、急にはマズイと思っていたからであり、対はない・・・しかし、いざ、呼ぼうとすると些か緊張してしまう。

名前を呼ぶと、「それで良し」と満足そうな顔で言った。


「で?なんで、俺を殺そうとしたんだ?」

「えっ?あぁ!」

俺は赤くなった顔を隠そうとしながら、再び問いかける。

「それは、君が公園にいた時、あそこで化け物の気配がして向かったら、化け物がいない・・・周りを探したら、あなた一人いたから・・・その・・」

「勘違いた・・・と・・・」


奏は恥ずかしそうに頷く。

俺はため息をついた・・・勘違いで殺されたら、たまったもんじゃない。


「!・・そういえば、なんであんなことがあったのに俺らの事知られんかったんだ?」

現場が報道されたのは、俺が家についてしばらくのことだった・・・。

「それは、無界のせいよ・・・あれはたぶん、海里や私みたいな人間にしか入れないし、”わからない”のよ。」

「わからない?」

「そう、無界が出来たら、普通の人はあれの事どころや、無界の範囲の事が分からなくなるのよ・・まるで、そこには何もない・・みたいな感覚みたいね。」


そんなことがあるのだろうか・・・しかし、そうでなくては、つじつまが合わない。

無理やりにでも、納得するしかない・・・・・・・・


「じゃ・・最後、なんでここに来た・・・なぜ付き合ってると言った・・・」

危ない所だった・・・危く忘れるトコであった。


「そ・・・それは・・・言ったでしょ!!?海里と一緒の方が色々と都合がいいと思った・・・のよ・・・・それに・・・ああ言っておけば・・・」

「何?」

まるで、恋する乙女だ・・・・正直、そんな反応されてしまうと、こちらも顔を赤くなってしまい・・・何とも言えない空気になってしまった。


そんな空気に慣れていない俺は、後先考えずに沈黙を破る。

「まぁ・・いいや、わかった。俺も奏がいた方が安心できるしな。」

「ほ、ほんと!!!!」

「何が・・?」

「私がいた方がいいって!!!!言ったよね?」


勢いよく向かってくる奏は迫力があり、頷くしか出来なかった・・・・


「~~~~~~~よし!!」

「う~ん、まぁ~宜しくな、奏!!」

「うん、よろしく」


その後、再び教室に戻ろうとした時、武器の出し方と戦い方を教えてくれるように頼むと奏は条件付きで、了承してくれた。


これから出来る限り、二人でいる時間を作ること、あとは・・・・ほかの仲間を探すこと・・・・・

俺ら二人だけだとは考えたくない・・・・


それに納得をし、教室に戻って行った。


その後は、当然、幸子先生に叱られ、クラスでは物珍しいもの見るような目線で見られていた。

ドタバタな入学式だったが、その後は滞りなく進められていった。


「はい、お疲れ様。これで入学式は終わりです 。しかも、明日は土、日曜日は休みになりますので、月曜日にまた会いましょう。」

体育館での長い校長の話が終わり、教室に戻った後、幸子先生のそのセリフで入学式が終わることになった。


「う〜ん・・・終わったね!海里、これからどうする?」

「ん?・・そうだな。この後、秋達・同じ小学校メンバーで小学校に行くはず、何だが・・・」

「じゃあ、私も行く!!」

「いや、無理だろ・・・・だめ、絶対に駄目だ!!!」

危うく、見逃してしまいそうになってしまい、慌てて言い放つ。

もし、このまま一緒に行ってしまえば、更なる境地に立たされるだろう・・・

そんなことは知らずに奏は、頬を膨らませ、睨みつけている。

「いや、そんな顔しなくていいだろ・・・・仕方ないだろ?こう言っちゃ悪いが、奏は部外者なんだから・・・」

「いいじゃん!!ケチ!!いいじゃない、こっちにきて友達居ないんだから!!」

「「・・・・・・・・・」」

言い争いをし、二人は無言の睨み合いが始まってしまった。

例え、どんな理由であろうと、今後の俺の人生が決まってしまう。


だが、もうすでに、俺らも2人を見ている目線はどうしようもない。

そんな時は、空気を読まない男が間に入った。


「おーい、お二人さん!痴話喧嘩はいいじゃねーか!!」

(出しゃばるな!!!秋!!!)

現れたのは、秋哉だった。

しかも、なぜか不気味なほどの笑顔で話しかけている。


「いいじゃんよ、海里。里音さんも行きたがってるしさ!連れて行ってやろうぜ?」

「うるせぇー!!お前には関係ねぇd・・」「本当!!!いいの?」

俺の言葉を空かさず、大声で遮る奏・・・しかも、めちゃくちゃ嬉しそうだし・・・


秋哉は秋哉でニヤニヤしてるし、なんだが・・・ムカついてくる。


結局、俺の意見など通ることなく、奏を連れて小学校に行くこととなった・・・

自由参加の為、集まったのは俺らを含めて、10人ほどだ。


秋哉は他のメンバーに奏の事を説明しに、先に校門前に向かって行き、俺と奏は教室に残る。

「お前・・・マジで来んのかよ?」

「当たり前じゃない。新しい人生を過ごすんだもの、色んな人と友達になって損はないわ!」

両手を胸の前で組み、堂々としながら、語る奏を見た途端、深いため息をついてしまう。


「・・・あっ!そう言えば、お前とのアドレス交換まだだったよな?」

驚くほど、奏と打ち解けていたので、忘れていたが、お互いにスマホを持っているのに、連絡先すら教え合っていなかったのを、思い出す。

「そう言えば、そうよね!・・・今のうち、登録しとこ♪」


なにやら、ウキウキし始めた奏は、スマホを取り出す。


「なんか、こういうの楽しいわよね!」

「何がだよ・・・もしもの時に必要だからやるんだろ?楽しむとこかよ」

笑顔で話す奏に対し、些か冷たい態度を取ると、奏は少し悲しそうな顔をした。

「そ、そうだよね・・・・でも!楽しんでもいいじゃない!」

突然、奏は大声を上げた・・・今にでも泣きそうな顔をして・・・

俺は、その顔を見て固まってしまった。


「あ・・・いや・・・悪い・・・」

「!!・・・・こっちこそごめん・・・・さっさと交換しよ・・・」

自分が大声を上げた事に気まずそうにしている奏は、下を向き謝ってくる。


(気に障ること言ったかな・・・)

アドレス交換をしながら、俺は考え込んでしまう・・・そこまで、冷たく言ったとは思っていなかった分、彼女の反応は気がかりでならない。


考えいるうちに、アドレス交換を終える。

「これで良し・・じゃあ、琴浦くんのとこ行こう・・・」

「あぁ・・・・・」

肩を落とし、落ち込んだ表情のまま、奏は歩き出した。

俺は、何も言えずに奏のあとを追うように、机から立ち上がる。

その瞬間、スマホが異様な音を発した。


<警告・ストリィーン発生>


二人は、ほぼ同時に液晶画面を確認すると、警告文が表示されていた。

「なんだよこれ?おい、奏!!」

「し、知らないわよ!私だって初めてよ。こんなの・・・」

奏も驚きを隠せないように、慌てていた。


(ストリィーンってなんだよ・・・)

俺もまた、慌てながら考え込む。

画面には未だに警告が表示されている・・・俺は、その表示に触れる。

すると、警告は消え、違うアプリが起動した・・・「地図?」


それは、俺たちがいる学校を起点とした地図が表示された。

そして、GPS検索をするかのように、自動で地図が動くと黒い円で囲まれた地域を表示する。


「何よ、この黒い円は・・・しかも、ここって、駅じゃない?」

奏も、同じように画面に触れたらしく、俺と同じものを見ていた。

そう地図に示されていたのは、この学校から少し離れているとこにある駅を示していた。


「おい・・・これってまさか!!」

「無界?」

俺らは、全く同じことを考えていた。

黒の円が示しているのは、おそらく”無界”・・・奏が話していた、あの化け物が現れる所・・・このスマホはそれを警告しているのだと理解した。


「ど、どうする・・・」

「どうするって・・・行って、倒すしかないじゃない!!」

「でも、あそこには俺ら以外入れないんだろ?だったら・・・」

動揺を隠せない俺は、奏に問いかける。

無界の中に入れるのは、俺たちのように未来から過去に戻ってきた者だけ・・・それならば、自分から危険な所にいかない方がいい・・・俺はそう思った。


「・・・言ったでしょ・・・もし、あれが私が想像している事と同じなら、無界は殻なのよ・・・化け物が完全な形になって・・・無界から出れるようになったら・・どうなると思う?」

「それは・・・・」

奏の言っていること・・・それは、あの化け物が普通の人たちに見えるようになれば、パニックになるに決まっているし、俺のように襲われ・・・・そして、殺されてしまうだろう。


「そ・・・そうだよな・・・・行くしか・・ない・・よな・・・」

俺の中に恐怖が込み上げてくる・・・ゴーレムを倒せたのは、偶然でしかない。

シオントーレも、奏のように自在に操れない今の俺は、無力で足でまといでしかない。

すると、奏は俺も目の前まで戻ってくる。


「海里・・・怖いのは私も一緒・・・私だって死にたくない・・・でも、あいつらはきっと私たちを追ってくるわ・・・それで、他の人が死ぬの・・・だから、お願い・・一緒に戦って・・」

「でも、俺・・・まだ、力の使い方わかんねーし・・・」

「大丈夫・・・コツさえ分かれば、なんとかなるわ・・・それに、私がついてるから・・・」

先ほどまでの、奏の表情とは一返し、優しく語りかけてくる・・・しかし、その瞳には潤んでいた。

怖がっている・・・そう瞳は語りかけてくるように、俺を見つめてくる。


奏の必死の言葉に、俺は頷く。

ここで死ぬのは嫌だ・・それでも、彼女一人だけを向かわせる訳にもいかない・・・俺は、恐怖を押し込み、決心した。


奏も、俺を受け入れたかのように頷き、俺たちは走り出した、無界のある駅に向けて。


校門前を通りかかると、秋哉達が待っていたがすり抜けるように走り抜ける。

「秋!悪い!急用が出来たから、行けなくなった!マジでごめん」

そう言い残し、走って行くと秋哉は何かを言っている。


おそらく、ろくでもない事を言っているのだろう・・・気にも止めずに足を動かす。

「でも、ここから駅まで、チャリでも30分はかかるぞ!間に合うのか?」

走りながら、奏に問いかける。

「多分、間に合わないけど・・・方法はあるわ!こっち来て!!」

そう言うと、奏は駅の方角とは違う方に走り出した。


止まるように、言ったがそれすら聞かずに走り続ける奏を、追いかけた。

そこは、人通りの少ない道に入ると、立ち止まり周りを確認する奏。

「おいって!こっちは駅の方じゃないぞ!」

「・・・よし、今なら・・・・海里、今から言う通りにして!」

周りを確認し終わると、真剣な顔で俺を見る奏に、少し戸惑いながらも、頷く。


「いい?足に意識を集中させて・・・できる限り、遠くまで飛べるイメージをして」

「何、言って」「いいから!!早く!!!」

俺の言葉を遮るようにして怒鳴りつける奏の迫力に、言葉が出ず、言われた通りに集中する。


(足に・・・意識を・・・遠くまで飛べる・・・)

言われた通りに、目を閉じて集中すると、少しずつ両足が熱くなってくる。

それを感じた俺は、再び、目を開くと・・目の前に見覚えのある2色の光が見えた。


「こ、これって・・・」

目に見える光に驚きながら、下を見るとそこには、あの時、現れた魔方陣が浮かび上がっていた。

「よし、じゃあ・・飛ぶよ」

「へっ?・・・飛ぶ?」

そう言うと奏は、俺の手を握る・・・・


シュッ!!!


突如、空気が切れた音ともとに、俺の周りに景色が変わり、住宅街の景色から青一色に代わっていた。

「へっ?・・・・・えっ・・・・・う・・・・・うあぁぁっぁぁ~~~~~~~~!!!!!!」

俺は、青い世界を見渡し、下を向くと、ミニチュアのような家が見えていた。


そう、空を飛んでいた・・・・どのくらい高さを飛んでいるかは、わからないが建物の小ささを感じ見ると、かなりの上空を落下していると理解した・・・・したくなかった・・・・。

落下していくため、風が顔に突き刺さるような痛みが感じて、恐怖が強まっていく。


「海里!!!落ち着きなさい!大丈夫だから!!」

「大丈夫って・・・・大丈夫って言ったって!!!!!!!!!!」

人生初のスカイダイビングが、パラシュートなしの・・・しかも、突然の事に、俺は混乱していた。

これから、化け物と戦う決心がついたと言え、こんな事になろうとは・・・・・・・


慌てふためく、俺をあざ笑うように、真下にはビルの屋上が近づいてくる・・・いや・・・・俺たちが近づいていく。

「し、し、死ぬ~~~~~~~~~~~~~!!!!!!」

落下していく、このまま行けば、つぶれたトマトのようになってしまう。

あまりの恐怖に、瞳を瞑る。


一瞬、内臓が浮かぶような違和感を感じたが、痛みは感じないでいた。

そんな時、「もう大丈夫だよ。」と奏の声が聞こえた・・・・その声を信じ、瞳をゆっくりと開いていく。

初めに見えたのは、コンクリートの床・・・しかし、桜花色の魔法陣が浮き出ている。

その光景で驚いていたが、何か違和感を感じた。

30ぷん

俺は、その違和感が何なのか、一瞬わからなかった・・・体を見ると、俺は浮いていた・・・。

「う、浮いてる・・・・?」

「ふふっ!言ったでしょ?大丈夫って言ったでしょ?」

隣で俺と同じように魔方陣の上で浮いている、奏が笑いながら俺を見ていた。


すると、奏先生の講義が始まった・・・

「私よくわからないけど、オリヒメが使えるようになったら、出来るようになったわ・・・しかも、オリヒメを使わなくても、さっきみたいに常人よりも高く飛べるし、車みたいに重い物でも、小石を持つように簡単にできるの。」

「車を・・・小石のように!?・・・・まっさかぁ~wwww」

「マジマジ!!」

正直、そんなことを信じられない、のだが、奏は真剣な顔で語っていた。



「マジで?」

「だから、マジで!何回・・・あっ!こんなとこで、話している場合じゃない!!海里!!また飛ぶよ、もう大丈夫だよね?」

「あ・・・あぁ、大丈夫・・・だと思うけど・・・・って!コラ!!」

思い出したように、慌て始め、再び、飛び跳ねていく。

俺の話など聞かずに・・・・・・


「ったく・・・大丈夫か・・・・?」

先に行ってしまう奏を追う為、気持ちを落ち着かせ、集中する。

再び、黒と金の光の魔法陣が現われる。


「神様、仏様、なんでもいいから、着地では死にませんように!!つぶれたトマトになりませんように!!」

天に祈りをして、飛び跳ねる。


そして、いくつもの建物を飛び越え、本来30分かかるところを、10分ほどで目的地に到着する。

正直、初めての事をして心配だったが、意外と早くに慣れてしまい、楽しくなってしまっていたのは、奏には言えない。

「あった!!無界よ!!」

「マジで?」

建物の屋上にたどり着くと、そこは駅の近くにあるデパートの屋上だった。

そこは6階建のため、周りがよく見えていた。駅前にあるため、ゲーセンや、本屋、ファミレスなどの店が多く、人通りも多い。

そんな中、無界も見たくはないが、よく見える。


本来、そこそこの広さがあるえきだったが、今ではそれがすっぽりと黒いドームに囲まれていた。

「とりあえず、歩いて向かいましょう・・」

「お、おう・・・・」

緊張して言葉がつっかえてしまう。


奏の指示どおりにデパートの屋上から、地上へ向かう・・・

デパートの中を通り、下へ従業員に気づかれないようにしながら・・・・


「マジで、誰も騒いでないな・・・てか、俺らがおかしいのかな?」

「まぁ・・・どちらも正解なのかもね、誰だってあんな化け物を見たいとは思わないわよ。見えない方がいいかもしれないし、初めから見えて言えば、もしもの時に混乱せずにいられるかもしない・・・」

そんな事を話しながら、駅へ向け歩いている。


俺たちには、黒いドームが見ている・・・しかし、他の人は騒ぐことなく、普通にしている・・・しかも、奏の言った通り、無界をうまく避けるように、黒い壁の向こうに誰も、進もうとはしていない・・・。


そして、ある事が気になった。

「なぁ?奏・・・もともと無界の中にいた人はどうなったんだ?」

「あぁ・・・たぶん、全員外に出ているは・・・無意識のうちにね。」

「そうなのか?・・・よかった・・中で死体とかあったら、ビビるかと思った・・・」

「ふふっ、大丈夫よ。ほらあそこ・・・」

笑いながら、奏が指さすと方を見ると、そこに鉄道会社の制服を着ている人達がいた。


「ほんとだ・・・あれ、大丈夫なのか?」

「まぁ、無界が消えたら、慌てるだろうけど・・・死ぬようなことはないでしょ!」

(無責任だな、お主・・・・)

「ほら、入るわよ。心の準備はいい?」

心を和ませようしたが、それすらさせようとはしない奏・・・しかし、気持ちの整理は出来ている。

俺はその問いに頷き、答える。


「じゃ、行こうか。」

そういいながら、目の前の黒い壁に入り、消えていく。

俺も、深呼吸をし、ドームの中に入っていく


そして、中に入ると懐かしい光景が広がる・・・この駅は数年後に改装が入り、見違えるほど変わってしまうので、こんな状況で来なければ、懐かしんでいただろう。


後ろを振り返り、空を見上げるとあの夜と、同じ灰色の空があった・・・・。

「ほんとに、不思議ワールドなんだな・・・」

空を見たのち、周りを見るとそこには、奏の姿はない・・・


俺は、奏探す為に改札方面へ向かう。

すると、そこに階段の先に、奏の姿を確認した。

「いた!おい、奏!!」

大声で呼ぶと、俺の方を慌てて向くと、人差し指を口元に縦にあて、無言を主張させる。


その慌てた様子に、俺はもし分けなり、右手で頭を掻きながら、苦笑いをする。

階段を足音を鳴らさないように、歩いて行くと、奏は壁に体をつけ、何かを隠れながら覗き込んでいる。

「大丈夫か?」

「大声出さないでよ・・・見て、あれ」

何かを見ている奏が少し後ろに下がり、俺に覗かせようとする。



言われてた通りに、身を隠しながら、見るとそこには2体の人影が見える・・・その影の片方は、2~3㍍ほどの身長で筋肉が盛り上がっていて、それはボディビルダー以上の筋肉、もう片方は、真逆に小さい・・150㎝ほどの身長だが、頭が大きく、人の2~3倍の大きさ・・・二体の共通点は肌が緑色だった。


「何あれ?・・・あれって、ゴブリンとトロールだよね?」

「よく知ってるわね。ゴブリンはわかるけど、大きい方はしらなかったわ。」

長い間、ゲームをやり続けている俺は、ファンタジーキャラをある程度ならわかる・・・しかも、その特性も・・・。


「ヤバいぞ!!それって!!」

「何が!?」

慌てて、奏に伝えようとすると、誰かの視線を感じた・・・


俺は、その視線に気づくと同時に、背筋が凍る。

殺意・・まるで、獲物を狩る猛獣に狙われるかのような・・・・しかも、一人の視線でない、いくつもの視線が俺達にのことを見ている・・・


「上!!」

視線は上から感じた。

天井を見上げるとそこには、いくつもの紅い光は怪く輝いていた。


「やばい!!」

「えっ!ちょ!海里」

奏の手を掴み、走り出すと俺たちが居た地点が、爆発したかのように強い風と煙は吹き荒れる。


「なになに!!何なの!!」

「言わいる、モンスターの群れに遭遇した・・・って所?」

煙が、少しずつ消えていく。

そして、小さな影が現れ、そして、姿が見えていく・・・


そこにいたのは、ゴブリンBと言った方がいいのだろうか・・それがいた。

ゴブリンとは、基本的に集団で現れるのが定番だ。

(そんな定番いらないから!!)と自問自答のツッコミを心の中でする。


「奏!!武器の出し方教えろ。今すぐ!!」

「えっええっと!形を思い出して、出したいところに力を込める?」

なんとも、心もとない発言だが、群れに遭遇した、この時は仕方ない。


そんなやり取りをしていると、続々とモンスター達が集まってくる・・・その中にはゴブリンAとトロールもやってきていた。

全部で、5体・・・ゴブリンが4体、トロールが1体、こちらは二人・・・数では圧倒的に不利。


しかし、やるしかない・・・・やらなれば、死んでしまう。

俺は、右手を伸ばし、奏が教えてくれたようにする。

右手に意識を集中し、少ししか見ていないが、記憶をかき集め、黒き戦斧を思い浮かべる。


黒と金の光が、右手に集まり、そして形を成していく。

そして、黒き刃が顕てた。

「出来た・・・出来たぞ!!奏!」


今まで、やろうとして出来ていなかった事が出来た。

余りにも嬉しく感じてしまい、場もわきまえず喜んでしまった。


「喜ぶのは後にしてよ!!来るわよ!!オリヒメ!!」

「あっ・・・はい・・・」


喜んでいる俺に対し、呆れながら敵を見つめる奏は、オリヒメを呼び出し、戦闘体制に入っていた。

場の空気を和めせようとしたのに、その言葉に少し落ち込んでいるが、そんなことをしている訳には行かない。

シオントーレを握り、慣れないながらも、構える。

「あのさ、戦うのは仕方ないけど・・・・どう戦えばいいの?」

構えたものの、武器を振り回す事しかわからない、俺は奏に聞く。


「はぁー・・・・いい?基本的には、今までと同じ。力をどう使うかイメージするの。そうすれば、私が前に使ったみたいにできるから。」

奏が言っているのは、ゴーレム戦で使った光の壁と光弾のことだろう。


しかし、イメージする事は出来るが、実際に本番にできるかと言えば、心配で仕方が無い。


しかし、そんなことを言っている場合ではない。

すると、ゴブリンが動き出す。

手には中華包丁の様な、持ち手の部分までの長い刃があるナイフを持っている。


四匹のゴブリンがそれぞれ飛び跳ね、散らばる。

建物の壁をボールが跳ね返るように飛んでいた。

「はやっ!!!」


飛び跳ねるゴブリンの一体が、奏の前方から向かってくる。

「奏!危ない!!」

向かっている姿を見た俺は、奏に叫ぶ。

奏も気づいていたのだろう、すでに前方を向き、構えている。


そして、ギリギリまで引きつけると、上に飛び跳ね、避ける。

「甘い、あま・・・きゃぁ!!」


空中で悲鳴をあげる奏・・・そして、静止した。

奏は、逆エビの体制になっている、奏の影に隠れていたのは、もう一体のゴブリンがいた。

ゴブリンに蹴り飛ばされ、地上に落下し倒れこむ。


俺は奏の元に、走り出すと大きな影が俺を包み込んだ。横目で見た途端に、硬く大きい物に殴られた感触と衝撃、痛みが体に駆け巡る。


吹き飛ばされるように、壁に衝突し、壁が崩れる音と煙が感覚を妨げるられてしまった。

その壁に衝突した痛みと衝撃に気を失いそうになるが、シオントーレが巨大な物体とぶつかり合った為か、ある程度ダメージを軽減されていて、気を保つ事ができた。


「イッテぇ〜・・・なんだ、今の?」

ダメージが軽減できたと言っても、些細なもので、痛みは相当のものだった・・・しかし、言葉にして気を紛らわす事しかできなかった。

すると、煙が薄れていき、視界が晴れて行くと、そこに居たのは強靭な筋肉に緑の肌と、大木の幹のよう太い棍棒が見えてた。

トロール・・・・それは、知能低いが熊よりも強い力と尋常ではない生命力を持つと言う事は知っている。


本当にそうであれば、かなり不利になる、ゴブリンは四匹で奏を襲っているし、今回が始めての戦いの俺には、荷が重い。

しかし、考えはある・・・全身の痛みで、叫び声をあげそうになるが堪え、立ち上がる。

全身からコンクリートの欠片などの破片で、切り傷が出来て血を少しずつだが、衣類が赤に染めて行く。


ようやく立ち上がると、鈍重なトロールが棍棒を振り上げながら、こちらに向かっている。

俺は、シオントーレを両手で持ち、瞳を閉じた・・・・集中するために。

(イメージし・・・あのでかい体を止めるイメージ・・・)

拘束-------それが、俺の考えた作戦、イメージで光を操り、防御や攻撃に使えるなら、拘束もそれ以上の事も出来ると考えた。


拘束するもの、縄や手錠と言った物はイメージできるが、トロールの力ではすぐに、壊されるだろう。


硬く、丈夫でトロールを拘束できるもの・・・・鎖。

イメージができた途端、身体からあの光がこみ上げってくる、そして、俺はトロールの周囲、5箇所から出すようにイメージする。


「いっけぇぇえー!!!!」


叫び声と共に、力を込めると、トロールの首の後ろ、両手首、両膝の5箇所から小さな魔法陣が現れ、そこから黒い鎖が飛び出ていく。

そして、トロールの体に巻きつくのを確認すると、「ロック!!!」と言葉を出すと同時に、鎖がピィンと張りつめる。


トロールは、声にならない叫び声と共に、動きが封じられた。

「出来た・・・・出来た!!」

俺は、始めて力を使う事に成功した。

しかし、やはり喜んではいられない・・・思い出すように、奏を探すと上にいた。

奏は宙に浮き、壁を飛び交う四体のゴブリンの攻撃を避けている。

しかし、奏もまた、俺のようにかすり傷が全身に出来き、息が切れている。

どうやって、空を飛んでいるのか、分からないが助けなければ危険だ。

俺は、痛む体に鞭打ち、奏の元に飛び上がった。そこに、奏の後ろからゴブリンが向かっていた。

しかし、今回は蹴りではなく、手に持つナイフを振り上げている。最悪な事に奏は周りを見るのに、夢中で後ろに気がついていない。



全力で飛び上がる俺は、ここまで跳ねてくる時よりも、速く進んでいき、戦斧を振り上げた。

「奏ぇーーーー!!!!避けろ!!!」

「海里!!なんで・・はっ!!」



俺の叫び声に奏は驚くと、後ろの気配に気が付いたのが、後ろを振り返る。

しかし、振り返られても、防御が間に合わない。

恐怖のあまり、目を瞑り、両手を前に出し、体を丸くする。

「間に合えーーーーーー!!!!!」


俺は、此処ぞとばかりに戦斧を振りかぶる。


グチャ・・・


肉を切る感触と音が伝わって来た・・・・俺はゴブリンの横腹から斬りつけた。

「ああああああ!!!!」

はじめは、骨に邪魔されたのか、硬い感触もあり刃は止まってしまったが、声と共に全力で戦斧を振りかぶると、バキッっと言う音と共に軽くなる。

そして、ゴブリンの体を二つに切り裂き、中に血の線を描いた。

ゴブリンの声が耳元で鳴り響くが、消えて行き、死体は炭のようになり、消えて行った。

やった!!と感じると、急に体が重くなる。俺は、飛び跳ねた推進力を失い、重力に従い、地に落ちて行く。


「へっ?、え?・・・・・あああぁ!!」

落ちていく俺は、往生着悪く手を伸ばすと、その手を掴む物があった。

掴んでくれたのは、奏であった。

「奏!!」

「くっ・・・重い・・・海里飛んで!!」

「飛べって!!空でジャンプ出来ないだろ!!」

「違う!!力を・・・いっ!身体中から出すようにして!早く・・・腕が千切れる!!」

地上に落ちないように、両手を使い、まるで根菜を抜こうとするような体勢で、耐えてくれていた。


俺は、慌てるように言われたようにすると、身体から光の塵のようなものが出てくると、体が浮き始めた。

「うぁ!!う、浮いた・・・?」

「はぁ、はぁ、海里重いよ・・・ダイエットしよう・・・」

「いや、しないから!!」

奏のボケについツッコミをしれてしまう、しかし、空を飛ぶなど危険が無い為、姿勢が落ち着かなく、ジタバタしてしまった。


「それで空を飛べるわ、思える通りにね・・・・・あの・・・さっきは・・」

きっと、お礼を言おうとしているのだろう、少し照れくさそうにしれいるが、中々、口に出せないでいた。

ふっと、先ほどと同じ視線を感じた俺は、続きを話そうとする奏、掌を出し、騙させる。


俺は、周りを見るとゴブリンたちは、3階の手すりに並び、立っている。

恐らく、仲間が殺られたので、様子を見ているのだろう。


すると、奏も理解したのか、真剣な顔になる。

「どうするの?あいつら早いわよ?」

「拘束出来ればいいけど、あんなに速くちゃ、捕まえられないし・・・」

(一撃で、三匹同時に倒せれば・・・捕まえて、一撃で・・・)


トロールはまだ鎖で繋がれたまま・・・しかし、素早い動きのゴブリンを一体ずつ倒していたら、トロールが動き出す。


「・・・!?、ちょ!海里、それ!」

「?・・何?」

奏が何かに驚き、指を指している・・・その先にあるのは、シオントーレ。

「えっ?ちょい、なになになになに!!」

その手に持つ武器見ると、金色の靄がシオントーレを包み込んでいる・・・それは、少しずつ膨れ上がり、戦斧の形状から形を変えていった・・・。


半月型の刃が、三日月のように長く、そして鋭くなり、石突にも黒い刃が付いた錨のような形に変化した・・・。

「えぇ!!大鎌?錨?何これ?どうなってんだよ!!」

突然の変化に、戸惑いを隠せないでいる俺は、奏に助けを求めるが・・・・・


「私だって知らないわよ!!海里がやったんじゃないの?」

「お、俺!?」

二人で、慌てているとゴブリンたちは、隙を見つけたかのように、再び、跳ね回る。

(き、来た!!!)


俺たちは、背中を合わせるようにして、構えるが変化した大鎌に、つい気がいってしまう。

「もぉ~!!どうすんの!一体ずつやる?」

焦らすように奏は言ってくるが、正直、それしかないとも思っていた。


完全な形になられる可能性はあるが、倒せなければ意味がない。

「もう、それしか・・・・!!」

やるしかないと考えた瞬間、頭の中に何かが流れてくる・・・・それは、言葉や音を聞き、頭で理解するものではなく・・・イメージが流れ込んできた。


それは、今この時、手にしている大鎌の使い方・・・・。

まるで、シオントーレ自身が教えてくれるかのように、正確にどのようなことが出来るのか、どんな特徴を持っているのか、知らないはずのことが分かってくる。


流れてくるイメージが終わると、同時に活路が開かれた。

「奏!!一度、散らばって、そのあと、あいつらを一か所に集められるか?」

「な、何をいきなり?」

「いいから!!出来るか!出来ないか!!」

俺の問いに慌てる奏に、大声で叫んでしまう・・しかし、時間があればどうにかなるが、時間はないのだから、仕方がない。


「一瞬・・・ほんの一瞬だけなら・・・一か所に集めればいいの?」

「頼むよ~せ・ん・ぱ・い!」

緊張する奏が、心配そうに答えてくれた。

対して、俺は少しふざけて頼み込むと、強張っていた表情が、緩み「バーカ!」と笑いながら、言ってくる。


ゴブリンたちは、さらに速度を上げながら襲い掛かってくる。

それを避けるように散らばる俺たち・・・空を飛ぶのは初めてなことで、些か危なっかしくなってしまうが、慣れないなりに、静止する。


すると、奏はゴブリンの攻撃を避けながら、天井ぎりぎりまで向かう。

そして、体を反転させると、あの時のように、光球を作り出した・・・しかし、その大きさは以前の3倍の大きさ、以前のが野球ボールとしら、サッカーボール並みの大きさが3つ作り出されていた。



「咲け・・皇華!!」

名を呼ぶと光球は、飛んでいく・・・そして、三匹が飛び交うところまで、行くと素早いゴブリンを追いかける。

すると、三匹がほぼ同時に壁を蹴る・・・集中していくと、スローモーションのようになっていく。

そして、カメラのシャッターが押されるかのように、一コマ一コマゆっくりと見えていた。


すると、三匹が交差しようとした時、俺はシオントーレの石突・・錨の方を構える。

「当たれ~!!」

その言葉を叫ぶと同時に、錨がまるで大砲のように、飛んでいく錨には黒い鎖がついていた。

まさしく、アンカーのように飛んでいく。

それは、三匹が交差しようとしたところで、俺は鎖を引っ張った。


すると、鎖にゴブリンが引っ掛かり、錨が方向転換し、二匹、三匹目と鎖に引っかかる。

そして、三匹が一か所に集まり、黒い鎖に拘束された。

「戻れ!!シオン!!」

シオントーレを勝手に略称してしまったが、こちらの方が俺的にはこちらの方が、好ましい。


名を呼ぶと、鎖が巻戻っていく・・・それは、つまり鎖の繋がれたゴブリンも、近づいてくる。

そして、巻戻る鎖がある程度戻ると、俺は大鎌を構え、近づいてくるゴブリンたちに、長く鋭い刃を振りかぶる。


初めのように、手に肉を切る感触が伝わってくるが・・・刃が止まることなく、シュッ!!っと鳴る音が聞こえる。

三体のゴブリンが一瞬で、切り裂いた。

まるで、骨の硬さなどまったく感じることなく、簡単に切り裂いてしまう。


「海里・・・凄い・・・」

奏は、驚き言葉を漏らしている・・・対して、俺はまるで、本来であれば驚いているはずなのに、不思議と当然のような心境でいた。

俺は、奏を見ると何も変わらずに、語りかける。

「奏、あと一体・・・行こう!!」

「は、はい!!」


奏は、はっと我に返ったのか、慌てて敬語で返事をした。

そんな姿を見た途端、ふっと微笑んで、下の階のトロールを見た。


トロールにかけた拘束の鎖は、やはりヒビが入り、脆くなっている・・・もう、そうは持たないと考え瞬間に、鎖は砕け、光の粒となり消えてた。

当のトロールは怒りを露に俺たちを、睨み付けている。


しかし、俺は・・・・恐怖を感じなかった・・・・今なら、全てがうまく行く・・・そう自信を持って言える。

「奏!!行くぞ!!」

「うん!!」

俺たちは、海に潜るように急降下し、トロールの元に突っ込んだ。


すると、敵は巨大な棍棒を振り回し、建物ごと叩きつける。

奏は障壁を張り、瓦礫から身を護る・・・それは、止まることなく瓦礫を掻い潜り、トロールの脚に切りつけた。

トロールは痛みで、唸り声を上げるが、すぐにその傷は塞がってしまった。


生命力の高いトロールは、再生力も桁外れだった。

しかし、それでも動揺はせずに、シオンを構え、浮かびながら魔方陣を顕す。

なぜだろう・・・こんなに力を使えるのは、先ほどでは飛ぶのですら、必死にやっていたのに・・・力を使い、飛ぶことも、防ぐことも、ましては攻撃も・・・今は、自然にできる・・。


そんなことを考えていると、俺の周りに黒い光が、槍のように鋭く、尖り、10本ほど創り、撃ち放つ。

「貫け・・・黒槍!!」

10本の槍が、勢いよく飛んでいく・・そして、トロールの全身を貫く・・

「奏!!」


その瞬間、上にいる奏を呼ぶ・・・そこには、すでに光球を造り出していた。

「穿て、桜華!!」

いくつもの、桜花色の光がトロールに降り注ぐ・・・効いている・・が、傷は見る見る再生していく。


しかし、俺は駆ける・・・大鎌を振り払う・・・・今まで、棒術・・いや、武術など習ったことがないのに、歴戦の勇士が扱うかのように、鎌を扱い、トロールの身体を切り刻んだ。


初めは首を、そして、胴体を8等分に切り裂く・・・唸り声すら聞こえずに、肉塊は黒ずみ、炭のように崩れ消えていった・・・。


「はぁ、はぁ、はぁ・・・・終わった・・・倒した・・・」

切り裂いたのち、地面に着地すると今まで、忘れていた、疲労感・・そして、激痛が全身を襲う・・・・あまりの痛さに膝を折って、右手を床に付かせてしまった。

「海里!!!大丈夫?」

「あ、あぁ・・・ちょっと痛いだけ・・・他は大丈夫だ。」


空から、落ちるように降りてきた奏が、俺の肩に手を添え、心配してくれた。

「ここから出よう!もうすぐ、無界が崩れるから・・・」

そう、奏は言い、俺の腕に頭を通し、肩を貸してくれながら、空へ逃げていく。


奏の推測は、間違えていなかった。

その後、俺らが駅から出て、ビルの屋上に着くまでに5分ほどかかった処で、無界が崩れて言った・・・。

無界の瓦礫は、落ちても建物を壊すことはなかったが、下では色んな叫び声が聞こえている。


「危なかったね!!もう少しで、中で私たち見つかるとこだったよ・・・」

屋上から、身を乗り出し、下を眺めている奏がまるで、第三者目線だったのが、些か気になるが・・・痛みのせいで、ツッコミすらすることが出来ず、消防タンクに体を預けている俺だった。


すると、痛がっている俺に気が付いたのか、小走りで戻ってくる奏・・・俺の前に立ち、再び魔方陣を顕す。

「海里・・ごめん・・傷治すの忘れてた・・・」

「・・・治してもらうから、これ以上文句は言わんが・・・忘れんでくれよ・・・・」

奏は恥ずかしそうにしながら、オリヒメを飛び出す。


「オリヒメ・・・海里の傷・・・服も少し治してちょうだい。」

まるで、生き物にお願いするように言う奏・・・すると、オリヒメが奏から離れ、俺を囲むように伸びると、桜花色の光が俺の傷口を癒していく・・・奏は集中するように両手を伸ばし、目を閉じている。

今、声をかけるのはマズイ・・・言いたくても言えないが・・・・そのまま、黙っている。

(暖かい・・・)

光は傷を癒していると、そう感じてしまった。


10分ほどかかったが、全ての傷が癒えた・・・全身の痛み、切り傷、破けた服までも治っていた。

奏に礼を言おうとしたが、奏は次に自分を治して、集中している。


さらに10分すると、奏もすっかり全快になって、体の確認の為に無駄に跳ねている。

「サンキューな、奏!てか、オリヒメすげぇ~!」

「でしょ?でも、建物やとかは治せないのよ」

「えっ?でも、服・・」

「これぐらいなら、なんとかなるけど、大きい建物とかは無理・・・だから、戦うといつも大騒ぎになっちゃうの・・・そんなことより!!海里、初戦闘でこんなにできるとか凄過ぎでしょ!!」


少し、落ち込んだように見えたが、すぐに喜びの表情を見せて、俺の顔に近づいてくる。

「い、いや、俺もなんであんなに出来たのか、俺も解らねぇーんだよ!!」

あまりにも、奏の顔が近く、顔を赤くしながら、説明する。


「ほんと?」

「ほんと、ほんと!!てか、武器って変形すんのかよ?」

「知らないわよ!少なくても、オリヒメはしないよ!私だって初めてみたし。」

シオンが変形も驚きだったが、俺はそれ以外に気になる事がある・・・それは、力を完璧に扱えたこと・・・大鎌に変形し、その使い方がすぐに出来た事・・・・色んなことが気になるが・・・「「もう・・・・疲れてた・・・・」」


同時に、同じことを言った二人は目を合わせ、笑ってしまった。

「じゃあ、取り合えず、今日は帰ろうか!」

「そうだな・・・確かに、色々と疲れた・・・明日、連絡するから」

「・・・何よ、いきなり・・・」

「いや、明日休みだから、仲間探しとかしようなって・・・事だけど・・・」

その言葉を言った瞬間、奏は急に顔を赤くなっていた。


「もう!!知らない!!」

「何がですか!!!」

俺のツッコミも、無視して飛び跳ねて行ってしまった・・・「なんなんだよ・・・・あいつ・・・」



(2)終

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