三つの濡れ衣を堂々と否定し続けたら、黒幕令嬢の化けの皮があっという間に剥がれました!〜そんな覚えはございませんわ、と言い切っている内に気づけば逆ハーレムに!?〜
「フィオナ・ラッセル! 貴様の罪状をこれより読み上げる!」
夜会の中央、婚約者だったアシュトン様の傍らで令嬢マグダレナ様が勝ち誇った顔で立っていた。
「まず、下級生への執拗ないじめ.......次に、教会への寄付金の横領.......そして、婚約者アシュトン様への不貞行為だ!」
会場中に響き渡る三つの罪状に、わたくしは静かに一呼吸置いた。
「――そんな覚えはございませんわ」
短くきっぱりと言い切った一言に、会場が一瞬、しんと静まり返った。
「な……何を悠長な.....!? 証拠もあるのだぞ!」
「あら、証拠がおありなら、堂々とお見せくださいませ。ちなみに、いじめの証拠とやらはどちらの下級生からの証言かしら?」
「そ、それは.....! 複数名から寄せられて――」
「複数名、とは正確には何名なのかしら。三名? 五名? 具体的な数字もなく『複数』とだけ仰るのは、随分と曖昧な告発ですこと」
淡々とした切り返しに、アシュトン様が困惑した顔でマグダレナ様を見た。
「い、いや......確かに具体的な人数までは、私も聞いていないが……」
「殿下も混乱していらっしゃいますわね。マグダレナ様、まずはその『複数名』のお名前を、一人でもよろしいので挙げていただけまして?」
「そ、それは、その.......皆、お前のことを恐れて名乗り出られないだけで……!」
「あら、都合の良い理由ですこと。証言者が恐れて出てこない、というのは、証拠がない場合の常套句のように聞こえますけれど」
わたくしの冷静な指摘に、マグダレナ様は明らかに動揺を見せ始めていた。
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「い、いじめの件はともかく、横領の証拠は動かぬものだ!」
苦し紛れに続けたマグダレナ様に、わたくしは静かに首を傾げた。
「あら、横領、ですって? そんな覚えはまったくもってございませんわ」
「はっはっは! 帳簿にお前の署名があったが、それでもその言葉を撤回せずにいられるかな?」
「あら、それは奇妙ですことね。わたくし、教会の寄付金に関わる書類には、一度も署名した記憶がございませんもの」
わたくしの毅然とした態度に、会場のざわめきが徐々に変わり始めていた。
「――少々、よろしいでしょうか」
そこに割って入ったのは、騎士団に所属するローガン様だった。
「フィオナ嬢の筆跡を以前公務で拝見したことがあります。この帳簿の署名、明らかに癖が違いますね」
「なっ……!?」
「それに、フィオナ嬢が下級生をいじめているという噂、私は一度も見聞きしたことがありません。むしろ、彼女が下級生を庇っている場面なら、何度か目撃しておりますがね」
「っ.....!? ど、どのような場面ですの!?」
(あの時はとっさに庇いに行ってしまい、周りをよく見てませんでした。私としたことが.....不覚ですわ)
思わず尋ねてしまったわたくしに、ローガン様は柔らかく微笑んだ。
「先月、庭園で泣いていた新入生に、優しく声をかけていらっしゃったでしょう。あの時のフィオナ嬢の様子は、いじめとは対極にあるものでしたが」
「あ、あら、見られておりましたのね」
「ばっちり動画も撮ってあるので、証拠という面でも安心してくださいませ!」
「なっ.......!? そのお言葉、今の状況としては、とても嬉しい限りでありますけれども、後で絶対に消してもらいますからね!」
思いがけない場面を持ち出され、わたくしは少しうれしいような、恥ずかしいような.......そんな複雑な気持ちになった。
きっぱりと告げるローガン様の証言に、マグダレナ様は明らかに動揺していた。
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「そ、それは、ローガン殿が知らないだけで……!」
なおも食い下がろうとするマグダレナ様の前に、今度は文官のフェリックス様が進み出た。
「少々失礼、横領の件について、私からも一言よろしいでしょうか」
「あ、あなたは……まさか......!?」
「教会の経理を担当しているフェリックスという者です。実は先日から、帳簿の不審な記載について調査しておりまして」
フェリックス様は懐から一枚の書類を取り出した。
「この署名、筆跡鑑定の結果、フィオナ嬢のものではないことが判明しております。むしろ――」
「む、むしろ......?」
「筆跡の特徴が、マグダレナ嬢のものと酷似しているという結果が出ておりまして.....」
会場が一斉にどよめく中、マグダレナ様の顔からみるみる血の気が引いていく。
「な……なぜ、そんなものを……!?」
「あらあら、随分と分かりやすい反応ですこと。それに、いじめの証言とやらも『複数』の割には、随分と名乗り出る方がいらっしゃらないものですね?」
わたくしが淡々と追い打ちをかけると、マグダレナ様はとうとう反論の言葉を失った。
「フェリックス殿、この筆跡鑑定はいつから進めていらしたのですか?」
ローガン様の問いに、フェリックス様は静かに答えた。
「二週間ほど前からです。教会の帳簿に不審な動きがあったので、念のため調べておりました。まさか、こんな形で役立つとは思いませんでしたが」
「随分と用意周到でいらっしゃいますことね」
わたくしの言葉に、フェリックス様は柔らかく微笑んだ。
「フィオナ嬢の潔白を証明できて、何よりです」
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「さ、最後に、フィオナが私への不貞を働いたという件は――」
震える声で最後の罪状を持ち出そうとするマグダレナ様に、アシュトン様が静かに首を振った。
「マグダレナ嬢、その件については私から申し上げよう」
「あ、アシュトン様……!?」
「フィオナが私を裏切ったことなど、一度もない。むしろ、彼女ほど誠実な女性を私は他に知らない」
きっぱりと告げるアシュトン様の言葉に、わたくしは思わず彼を見つめた。
「あら、随分と信頼していただいているようですこと」
「当然だ。婚約者として、彼女の人柄は誰よりも私が知っている。それに、先ほどまで疑いもせず糾弾に加わっていた自分を今は恥じている」
殊勝な様子で告げるアシュトン様に、わたくしは小さく息をついた。
「殿下......次からは、証拠もなく人を疑う前に、まずご自分の目で確かめてくださいませ」
「......肝に銘じる」
真剣な眼差しでそう告げるアシュトン様に、マグダレナ様は完全に追い詰められた様子だった。
「な、なぜ、皆、フィオナの味方ばかり……!」
「あら、味方も何も、事実を申し上げているだけですわ。それとも、根拠のない噂話に振り回される方が、正しい態度だとお思いですの?」
淡々としたわたくしの指摘に、会場の空気が完全にマグダレナ様への糾弾へと傾いていった。
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「――というわけで、皆様。この罪状、全て根も葉もない捏造だったようですわね」
わたくしが静かに締めくくると、マグダレナ様はその場に崩れ落ちた。
「わ、わたくしは、ただ.......アシュトン様に振り向いていただきたくて……!」
「ふふふ、それが動機でしたのね。ですが、その手段はあまりに稚拙でしたこと。三つも罪状をでっち上げれば、必ずどこかに綻びが出るものですわ」
にっこりと微笑むわたくしに、マグダレナ様は言葉を失ったまま、衛兵に連れられていった。
「まあ、今回はその全てに綻びが生じたようですけどね」
「――フィオナ嬢、お見事でした」
ローガン様が静かに歩み寄ってくる。
「あら、皆様の援護あってこそですわ」
「私も微力ながらお力になれて光栄です」
フェリックス様も柔らかく微笑んだ。
「フィオナ、改めて、私からも謝罪させてほしい。あのような場で、もっとも早く庇うべきは婚約者である私だった!」
アシュトン様の言葉に、わたくしは小さく笑った。
「ふふふ、殿方は三人揃って随分と過保護でいらっしゃいますこと」
「――随分と、贅沢な立場ですね」
ローガン様の呟きに、フェリックス様とアシュトン様が、それぞれ牽制するような視線を交わした。
「皆様そんな怖い獣のような表情をなさって、これから何を張り合うおつもりなのかしら?」
「決まっています。あなたに、誰が一番相応しいか、ということです」
「私も微力ながらお力になれた分、遠慮するつもりはありませんがね」
「元婚約者としての立場がある分、私が一歩リードしてると言ったところでしょうか」
三人がそれぞれ主張を始める様子に、わたくしはとうとう声を立てて笑ってしまった。冤罪から始まった夜会は、思いがけず、賑やかで頼もしい未来へと繋がっていくようだった。
「――さて、次はどなたが名乗りを上げるかしら」
不敵な笑みを浮かべるわたくしを、三人はそれぞれの表情で見つめていた。堂々と否定しただけの一言がこんなにも賑やかな逆ハーレムに繋がるとは、わたくし自身も思ってもみなかったことである。
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「三人の牽制合戦面白い」「マグダレナの自滅っぷりが見事」など、感想コメントもお待ちしております!
三人のうち誰が一番先にアプローチを本格化させるのか、まだまだ書きたいことがございます。よろしければ作者フォローもしていただけると幸いです!
それでは、また次のお話でお会いしましょう!




