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劇薬  作者: いのり
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はじまり

 私は本当に悲しい時、涙を流さない人間であるとわかった。悲しいという感情を抱いたのは、もちろんそれが初めてではない。しかし本当に大切なものを手放して悲しみ、悲しませ、後悔に暮れていたとき、熱いものはこみあげて来なかった。

 当初の私はさほど人に依存するような性格ではなく、恋愛で深く傷つく人の心情などまるで分からなかった。惚れるだの現を抜かすだの、他人の存在がそこまで大きくなるようなことがあるのだろうかと理解に苦しんでいた。今の自分からすれば、まだ経験がないだけである。もし恋愛がつまらないと考える人がいるのであれば、そういう事なのかもしれない。

 恋に落ちるようなこともないと半ば諦めていたが、人との出会いというのはどこにあるか分からないものである。知り合いの知り合いという、細いつながりで彼女は私の手を取ってくれた。後は落ちるだけである。人の気持ちを蔑ろにするのは気が引けるなどと自分に言い聞かせ、彼女と時間を過ごしていれば、自然と気持ちはついて来ていた。学生の春は長く、一緒にいる時間は日々増えていき、気づけばもう戻れないところまで来ていた。もし反対されるのであれば、家族を切り捨てる覚悟さえできていたように思う。

 彼女はどうやら熱しやすく、冷めやすい性格のようであった。対して私は生来執着の強い人間であったのだ。共に過ごす時間が減れば、昼も夜も離れずにいたことを恋しく思った。月日を重ね、季節が巡るとともに、彼女を抱きしめる時間はほとんどなくなっていた。もう一つ季節の節目を迎えるころには、執着と諦めという、相反するものが心身のほとんどを蝕んでいた。

 こうなることは初めから分かっていたのだ。長続きすることなく惨めに消えていく。捨てられたのではみっともないので、せめて自らのわがままで手を振るという体にした。別れ話のあの空間については、何一つ忘れることはないだろう。説明した経緯、理由、あの何もかもを諦めてしまったような切ない返事は悔やんでも悔やみきれない。

 その後彼女は、友達としての立場に落ち着きたい様子であった。それに耐えきれるような精神をしていればどれほど良かっただろう。私はもう一度手を取るか、冷たい言葉で撃ち殺すかという、2つに1つの選択を強いた。その答えは言うまでもない。

 

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