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第6話:Reverse Yggdrasil②

「――ご一緒しても、よろしいでしょうか?」


メンターがいる場所に、複数人の会員がなだれ込んだ。


言い出しっぺのライチは、端っこにちょこんと座る。


なだれ込んだ会員達の1人、20歳ぐらいの体育会系の男が、力強くかつ爽やかに言葉を発する。


「僕らは、『異世界で稼げます!』で稼ぎたいです。僕らの話を聞いてアドバイスお願いします!」


その立ち振る舞いには、覇気がありつつも、相手をどこかモヤモヤさせる 不快な威圧感は、無い。


”……カッコいいな、この人” と、ライチは思った。




メンターは一通り話を聞いたうえで、かなりエグいアドバイスをくれた。


「仲間内で協力して好レビューを作れ」

「広告打って集客して、”バカでもアホでもカンタンに稼げる” とコンサルを売れ」

「実績を誇張しまくれ」


つまり、仲間内でお互いのメディアを褒めあい、好レビューをしあう。


”お客様の声” は、お客様ではなくサクラによるやらせ、もしくは自分で書く。

(又はAIに書かせる)


そして、大金を広告費にぶち込み、集客して、超絶カンタンに稼げそうな印象を植え付け、半年間のコンサルを売るのだ。


瞬間最大風速で月収100万円を達成したら、

毎月月収100万円を得ているかの様に見せかけて、

それを実績として情報商材をセールス出来る。


しかし、『売り上げー広告費=利益』なので、ロクな利益が出ないことも多いらしい。


もちろん、利益が出ようと出まいと、その後 半年間はコンサルをしなくてはならない。


コンサルとは、簡単に言えば ”情報商材の内容を直接指導” する事であり、過酷な頭脳労働だ。


無名インフルエンサーのコンサルを受けるならば、半年間で数十万円が相場だ。

有名インフルエンサーのコンサルを受けるならば、半年間で数百万円が相場になる。


だが、コンサルを受けた者たちの大多数は、利益を出す事ができず、情報商材業界からいつの間にか消えていく。


すると、無名インフルエンサーもコンサルをしようにもコンサル生が集まらず、情報商材業界から姿を消す。


しかし、有名インフルエンサーならば、既存の影響力で多くのコンサル生が集まる。


その多くのコンサル生の中の一部から実績者(実績を出した者)が現れれば、

・自分を称賛する記事を書かせる

・対談動画などを収録・公開する


それを、有名インフルエンサーが拡散すれば、実績者は自分自身の宣伝にもなる。

有名インフルエンサーは、実績者を輩出したと宣伝して、自身の影響力をより強固なモノにできる。




数百万円のコンサル料を支払える時点で、ある程度の利益を出している者、ある程度の集客ができている実績者が集まりやすい環境だ。


したがって、有名インフルエンサーである時点で、コンサル生からは実績者(もともと出せていた)が出やすく、それが新たなる宣伝材料になるのだ。




有名インフルエンサーだから、実績者が集まりやすい。

その実績者を宣伝材料にすることで、有名インフルエンサーとしての地位をより強固にできる。


――この真実を、有名インフルエンサー達は決して口にしない――




大人数で話すことに慣れていないライチ。


ほとんど聞いて頷くだけで、ほぼ発言できていない。


だが……タイミングを見計らって、ライチは一番聞きたかったことを、メンターに向けて言い放った。


「……影響力を得ていない僕は、集客段階で上手くいっていない僕は、その後工程である教育と販売を教わっても、それを活かす機会がありません。

なので、既存の影響力を利用している有名インフルエンサーと同じ事をしても、全くうまくいきません。


”ゼロから影響力を得るには、どうすべきなのか”

……を聞かせていただきたいです。


ここにいる多くの人に、それが役立つはずです」




メンターは、少しばかりの沈黙の後――重々しく口を開く。


「地道にじっくりと 価値ある情報を発信する。

良いモノはSNSで拡散される時代だ」


模範解答だ。


ブログやWe Tubeで何回も見た・聞いた事だ。


しかし、それが一番の肝心要・核・極意なのかもしれない。


メンターは、ライチの目を見据え、さらに言葉を投げかける。


「教えたことを、地道にやりなさい。君ならできる」


ライチは、魂が震える感覚を覚えた。


煩雑な思考がシンプル化されて、方向性が定まった。


メンターを信じて、ひたすらに価値ある情報を発信しよう!


いやあ、来てよかったなあ。






――2時間後。


ライチは、とある異世界に来ていた。


巨大な氷……ではなく、巨大な水晶で形成された大陸。


遥か遠くに視線を移すと、黄金に輝くオーロラが、海から天に向かって立ち昇っている姿が見える。


ライチは、その様子を眺めながら、現世のコンビニで買ったペットボトルのカフェオレを開けて喉を潤す。


生まれて初めてのリアルセミナー。大量の情報が頭にインプットされ、深層意識は活発に稼働し、その情報を高速で処理し続けている感覚がある。


今日は、実りある1日だった……気がする。


色んな事を学べて、成長できた……気がする。


…………何を学べた……?




ふと、ライチはメンターへの質問とその回答を思い出した。


”地道にじっくりと 価値ある情報を発信する。良いモノはSNSで拡散される時代だ”


”仲間内で協力して実績を作れ。広告打って集客して売り上げを叩き出して実績にしろ。実績を誇張しまくれ”


…………………………。


あの回答って、


『「●●で稼げます!」で稼ぐ方法』なら、なんでも同じじゃね?


「異世界で稼げます!」でも、

「ブログで稼げます!」でも、

「We Tubeで稼げます!」でも。


そして、「異世界で稼げます!」でも……。


いや、本質的であり普遍的、応用の効く内容を教えてくれた……といえば聞こえはいいが……


その実、いくらでも使いまわせるアドバイスだ。


あのメンターが有名になったのは、影響力を獲得できた要因は、あの回答だけでは説明がつかない。




実績を誇張しまくって、仲間内で協力して実績を作り、ミスリードして、客に勝手に誤解させようとする無名インフルエンサーは、星の数ほどいる。


地道にじっくりと、価値ある情報を発信している無名インフルエンサーも、星の数ほどいる。


……なぜ、メンターと同じことをしても、無名なままのインフルエンサーがたくさんいるんだ?




しばらく考えてもわからなかったライチ。


おもむろに空中を二回タップ、ARレンズを通した視界に 仮想キーボードと仮想ウィンドウが浮かび上がる。


AIに聞いてみることにした。


AIは、それらしい回答を返してくれた。


だが、その回答に、イマイチ納得がいかなかったので、何度も何度も深掘りして質問を続けた。


……この業界に身を投じて数か月。ライチは、思考力が飛躍的に向上していた。




――数十分後。


ライチは、ボソボソと独り言をつぶやいている。


「今日、メンターがくれたアドバイスも間違いではない。

しかし、最も重要な部分は……隠されていた」


ライチは、1つの仮説に辿り着いた。


「有名インフルエンサー達は、”時代の波” に乗ることに成功したんだ」


”ネットで稼ぐ” という波に乗る

”Twittelで稼ぐ” という波に乗る

”仮想通貨で稼ぐ” という波に乗る

”AIで稼ぐ” という波に乗る


時代の節々で、革新的なテクノロジーが出現する。


そのテクノロジーの専門家ポジションをいち早く確立することで、時代の波に乗り、有名インフルエンサーになれるのだ。




もちろん、時代の波に乗ろうとする人間はたくさんいる。


既に有名になったインフルエンサーは、既存の影響力を最大限利用して時代の波に乗ろうとする。


――そして、他の異世界にも有名インフルエンサーは沢山いる。


機関銃マシンガンを持つ大量の有名インフルエンサーが入り乱れる群雄割拠なレッドオーシャン。

そこに無名インフルエンサーが参戦するのは、竹槍1つで挑むようなものだ。


だが、そんな絶対的不利な状況と理解したうえで参戦し、熾烈な競争を勝ち抜いていかねばならない。


それこそが、”ゼロから影響力を得る方法” なのだ。




この仮説で、今まで感じていた疑問の大部分が解決できる。


――と同時に、ライチの脳裏に焦りが生まれる。


普段の挙動からは想像もつかないくらい俊敏かつ高速で、仮想キーボードを高速タイピングしはじめるライチ。


仮想ディスプレイには、次々大量のタブが開かれ、それらを確認していく。




-ばさ……ばさ……-


突如、上空から間の抜けた音が聞こえた。


反射的にライチは頭上を見上げる。


体長数十メートルにも及ぶ、老いた巨大な鳥が……弱々しく空を飛んでいる。


ライチは、再び仮想ディスプレイに視線を戻す。




15分後、極めて重要なメッセージをタイピングしはじめる。


その送信先は、ルキ。


[異世界で稼ぐのは――難しいかもしれません]

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