第5話:Reverse Yggdrasil①
――現世・大阪の街。
その大通りには、コミュニティのリアルセミナー会場へと向かうライチの姿があった。
とあるビルの前に、男が立っていた。この顔は、毎日のようにコミュニティのオンラインサロンで見ている。
メンターの下で働く直弟子――”サポーター”と呼ばれる数十人のうちの1人だ。
ライチは、挨拶をする。
「あっ、みっきーさん こんにちは。太一と申します。」
「こんにちは!リアルセミナー会場は、このビルの5階です!エレベーターで上がってください!」
やたらハキハキした口調で返された。
(”みっきー” は、この人の 情報商材業界での名前だ。なぜかこの業界では、”ぴんきー” だの、”さいぽん” だの、珍妙なニックネームを名乗る人が多い。)
5階に上がり、リアルセミナー会場についた。
会場には、100を超えるパイプ椅子が、ズラッと並べられている。
ライチは、その一つに腰を下ろし、リアルセミナーの開始時刻を待つ。
……ひと昔前は、”●●で稼ぐ系” の情報自体が少なく、価値があった。
だが、今や無料の情報で、それらの情報自体は手に入る。
なので、情報自体にお金を払う価値はない……と言われる。
(だが、有名インフルエンサーは、情報自体の信頼性も高い……と思われてるので、情報単体、情報自体も売れる。)
だが、俺は30万円払って、有料のコミュニティに入ってしまった。
30万円あれば、様々な施策ができたはずだ。
……後の祭り。
だったら、できる限り元を取ろう。
今日ここに来た理由は、リアルセミナーの内容そのものではなく……他者との情報交換。
ここで、メンターや実際に稼いでいる会員に話を聞くのだ。
――開始時刻になった。
サングラスの胡散臭いおっさん……もとい えーと、ナイスミドルが現れた。
この人が、このコミュニティの運営者でありメンターだ。
メンターは、数年間で数億円を稼いだという、そうそうたる実績を声高に語る。
メンター自身は凄い実績らしいが、このコミュニティに30万円払って入った約100人の内 大多数が、一円すらも稼げないまま、業界から消えていくんだろうな……。
だが、セミナーの中で、時折
「貴方たちは、投資意識が高い極めて優秀な起業家です」
「ここにいる人たちとは、一生モノの付き合いにしたい」
などと言ってきた。
なるほど。悪い気はしない。
こうやって会員の気分を良くさせてリピーター化して、継続的にお金を得る狙いか。
つまり……
メンターは、『「●●で稼げます!」で稼ぐ方法』を、俺等に教えて稼いでる……?
頭こんがらがってきた……。
メンターの数十分のセミナーの後は、直弟子達によるセミナーも複数回行われた。
……数時間に及ぶリアルセミナーが終了した。
その後、近くのオシャレなバーを貸し切って ”二次会”が開催。
(参加者には、別途料金が発生)
軽食と共に会員同士の情報交換が始まった。
メンターの近くには、とうぜん多数の会員が集まり、マンツーマンでの会話は難しそうだ。
だが、俺と同じく「異世界で稼げます!」で稼ごうとする人とは、2カ月間チャット上でやりとりをしてきた。
いつもチャットしてるメンバーの1人であり、顔写真をアイコンにしている会員を発見。
陰キャなライチは、平静を装いながらも話しかけてみた。
しばらくすると、異世界以外のジャンルで稼ごうとする複数の会員も集まってきて、情報交換をすることができた。
「異世界×AIの未来予測」
「NFT・メタバースは、異世界同士を繋ぐインフラたりえるか?」
「いずれ自分でコミュニティ運営をする場合の戦略」
様々なテーマで、議論が交わされる。
高額なこのコミュニティには、向上心が高い人物が集まっており、建設的な議論が展開される。
なるほど、視野が広がった。
気になったことはすぐに質問出来て、お互いの知見を深め合える。
建設的な議論を楽しめる。クソ企業の同僚たちのように、足を引っ張り合う人間関係ではない。
……うっすらと、心地よい雰囲気が流れる。
”ここには、仲間がいる”
……だが、俺は長年のぼっち生活で、1人でいることの充実感を知った。故に、この場を冷静に俯瞰できる……つもりだ。
――孤独感が解消される……という満足感を提供することで、リピーター化しやすくなる構造なんだな。
会員同士がコミュニティ内で人間関係を構築すればするほど、それを維持するためリピーターになってくれる確率が上がる。
メンターは時折 交流のきっかけを提供するだけ。その後の手間は発生しない。
金は、懐に入る。
”孤独感の解消”
”自己肯定感の向上”
それが、コミュニティビジネスの極意なのかもしれない。
そして、ここにいる人間も、実のところ腹の探り合いをしている。
自分が狙っている市場の 具体的な重要情報は、決して口外しない。
他人に知られたら、ライバルが増えるからだ。
フレンドリーに接して、相手を褒めちぎって、グイグイ情報を引き出そうとする者もいる。
この雰囲気に、呑まれてはならない――。
一通り話した後、ライチはメンターへと視線を向ける。
その近くにいる人間は、さっきよりも少ない。話しかけるチャンス!
”メンターに、直接アドバイスをもらいたいので、失礼します”
と言っては、この場にいる人たちに失礼に当たりそうだ。
ライチは、少し考えた後に、口を開く。
「僕たちが話し合った意見を、メンターはどう評価するのか……知りたくないですか?」




