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第2話:しょーもない立志編②


――現世・日本には、10を超える財閥が存在する。


それらは、(お互いがバッティングしない様に)産業革命が起こっていない異世界の1つに行って、産業・インフラを創ろうとしている真っ最中だ。


――現世・アメリカには、5を超えるビッグテックが存在する。


それらは、(お互いがバッティングしようがお構いなしに)インターネット黎明期の異世界に片っ端から参入している。


各異世界での検証データが、相互に活用されるのだろう。




それに伴い、財閥・ビッグテックは、現世・異世界で多くの求人を出している。


しかし、何のスキルも無い人間は、そのおこぼれにあずかる事すらできない。


(いや、そもそも財閥やビッグテックは、自分が販売している異世界転移アイテムが最高の性能との理由で、その使用者を優先的に採用している。売り上げを伸ばすために、必要以上に求人を出している?)


また、複数の専門家がチームを組んで異世界に行くパターンも多い……らしい。


確かに、金属加工職人・設計士・組立技能士・プログラマ・etc.などがチームを作れば、異世界でもイチからパソコンを作れる。インターネットという革命が起こった時に、工場を建てて大量生産することも可能だ。




――2人は、流れでなんとなく情報交換をしていた。


……というより、ビッグテックや財閥が異世界でうんぬんという話は、金髪ツインテールギャルであるルキさんが教えてくれた情報だ。


そして俺は、自分の失敗の経緯を話した。


「――で、ライチも私と同じく、いろんな異世界に行っては失敗、または先客がいて撤退したわけだ」


……”ライチ” ?それ、俺の事を指してんの?


”たいら たいち” と名乗る時に噛んでしまったので、聞き間違えたのだろうか?


それとも、正確に聞き取った上で、ニックネームをつけてくれたのだろうか?


……悪い気はしない。


女の子が、俺をニックネームで呼んでくれているのだとしたら。


それは、22年間の俺の人生の中で、極めて稀有な出来事なのだ。




――俺は、北海道に生まれ、男子校を卒業後に 近所の牧場で働いていた。


朝5時出勤で4時間労働、昼に食事と仮眠を挟み、午後3時に再び出勤して4時間労働。


無心で牛の乳を搾る毎日。


凍てつくような寒い風が吹き抜ける牛舎の中で、牛たちの香ばしいウ●コを掃除する毎日。


(最初に比べて、おっぱいの扱いが かなり上手くなった。ちなみに、生涯で一度も……人間の女性のおっぱいは触ったことはない。あ、いや、乳児期に母親の……)


従業員の人数が少ないので、休憩時間も狭い部屋でソファに座り向かい合い、強制フリートークの義務が発生。


(推しVTuberのショート動画を見たいのだが)


そこまで頑張っても、手取りは16万円ほど。




絶望して退職、実家を離れて単身 本土にやってきた。


愛知県で、大手自動車メーカーの期間従業員として働くことになった。


一週間ごとに日勤と夜勤が入れ替わる、狂気のシフト。


人間の身体の限界に挑戦するかのように高速で流れる、無慈悲の生産ライン。


俺は、ただひたすらに部品を組みつけていく。


自律神経ブレイカーな労働環境により、どんどん身体は重く感じられるようになっていく。


だが、きついが給料は良い。


また、人間関係も希薄で、休憩時間は無言でスマホを眺める期間従業員が大半。フリートークの義務もない。


牧場よりはかなりマシな労働環境だ。


結果、1年間勤めた。貯金は それなりに貯まった。




だが!心身を犠牲にしていつまでも働けない!


だから、自分自身の心身を、時間を、人生を企業に捧げるのではなく、自分の為に使う。


つまり、自分の手で――異世界で稼ぐ!


そう誓って大手自動車工場を退職、もう1カ月が経つ。


そして、異世界で稼ごうとしても、失敗を重ね続け――今、俺はここで 偶然出会った金髪ツインテールギャルと情報交換をしているのだ。




「あの……ルキさん、詳しいですね。ビッグテックや財閥の動向とか」


「異世界で稼ぐための情報収集してれば、自ずと目に入ってくる……あ!悪い、電話!」


ルキは、ペンダント型の異世界転移アイテムを手に取り、電話を始める。


異世界を横断しての電話を可能とする技術も、ビッグテックが開発したのだろうか。


「なーにー、あんまー。緊急じゃねーばー、電話やあらんでLIMEかメールにしみそーれーって言うてぃるさー」


ギャルは、呪文詠唱を始めた。


「体調やなんくるねーん。なーふぁーに比べてぃ、ちょっち寒さるけど。まったく、安心、しぃーしぃー、すなーよ。また、うちに帰いるよー。くぅとぅし、家族みんなーで温泉いちゅんか?


またやーたい」


ギャルは、呪文詠唱を終えた様だ。




「あー、ごめん。地元にいるオカンからの電話。私、沖縄出身」


ライチは、鳩が豆鉄砲を食らったような表情を浮かべている。


「えーと、地元にいる家族とは、そこの方言で話すということですね?」


「つーか、本土に来てから気を許した友達とかでも、伝わる範囲でウチナーグチ混ざる」


家族、友人……。俺には、なじみが薄い言葉だ。




……………………。


いやいやいや!こんなこと考えてる場合じゃない!


俺は、異世界で稼がないといけない!!


どうすればいいんだ!!


「……話、逸れたね。異世界で稼ぐのは難しい」


感情が顔に出やすいライチの表情を見て、ルキは話を本題に戻す。


「どこもライバルだらけですね。異世界で稼ぎたい人はとてつもなく多い……」




その瞬間、ライチの脳内の神経細胞が激しく火花を散らした。


「……ライバルを客にすればいいんだっ。『異世界で稼ぐ方法』を、お金出しても知りたい人も膨大な数いるはずだ!」


ルキは、きょとんとした顔をしながら口を開く。


「いや、異世界で稼ぐ方法を教えるって言っても……そもそもライチ、異世界で稼げてないじゃん」


「俺自身が稼いでる……とは、言わなければいい。名監督が必ずしも名プレイヤーである必要はない。」




ライチは、猛烈な勢いで仮想キーボードを叩く。


「ルキさん、これ見て!……あ、同期して。同期パスワードは ”taichi” で」


ARレンズを通したルキの視界に、仮想ディスプレイが浮かび上がる。


そこにズラッと表示されているのは

「投資で稼げます!」

「ブログで稼げます!」

「We Tubeで稼げます!」

…という魅力的な言葉を並べる、インフルエンサー達のメディア。


俺も、この人達と同じように「異世界で稼げます!」と発信すればいい!


以前、興味を持って少し情報収集したものの「うわあ……胡散臭ぇ……」という印象が強く、それ以上は深入りしなかった。


故に、お金を払うこともなかった。




しかし!


”お金を払わせる側になる” という考えが欠けていた。


しかし、今この瞬間……俺はその考えに到達した。




……俺は、悪名高き業界に身を投じる。


もう、ヤケクソだ。


PDFを売ってやる!動画を売ってやる!


――情報商材を売ってやる!!

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