最終話:The Spiral Rising②
――――とある異世界にて。
夜の空には、太陽の数十倍ほどの大きさの白い月が輝いている。
大地には、果てしない草原が広がる。
その草原に、仰向けに倒れている1人の哀れな男・ライチ。
男は微動だにせず、夜空に浮かぶが浮かぶ巨大な白い月を見つめている。
その目は、絶望感にあふれている。
……全身全霊で、情報商材を売ろうと頑張ってきた。
生涯で、何かを ここまで努力したことは今までなかった。
その結果、一円も稼げなかった。
有名インフルエンサー達が、強すぎる。
特定の検索キーワードを狙って、集客するための記事を書いたとしても、検索結果の上位には 必ず有名インフルエンサー達がいる。
上位記事よりも良質な記事を書いても、有名インフルエンサー達のメディアのパワーが強すぎて、まったく太刀打ちできない。
……………………。
有名インフルエンサー達は、とっくに飽和状態になった市場での稼ぎ方(もう稼げない)を、「今も稼げる!」とかいって販売し続けている。
お得感をこれでもかと演出したサブスク課金オンラインサロンでは、20種を超える情報商材があり、それぞれの内容の1/2程が無料で見れる。
そして、20〜30万円のそれらを購入したら、必ず稼げるとセールスしてくる。
飛ぶように売れている事だろう。
集客ができている人間は、収益化する方法は多種多様だ。
……有名インフルエンサーたちは、アイドル化している?
とある有名インフルエンサー2人が「情報商材を、どちらが多く売れるのか!?」というバトルを開催していた。
その信者たちは、大盛り上がりで情報を拡散。
自分のメンターを勝たせる為、高額な情報商材をバンバン買う。
……まるでAKB商法。
エンタメ イベント化するという発想は、なかった。
……つーか購入する側も、イカれてる。
情報商材を買う理由は、自分が稼ぐためではないのか?
自分のメンターを勝たせるために買うのか?
……あそこまで洗脳が完了しているのなら、どんな手段でもお金にできる。
アイドル化こそ、神格化こそ、宗教こそ……究極のマーケティングなのかもしれない。
………………………………………………。
努力したところで、報われる補償など無い。
これまでの人生で、充分すぎるほど理解していたつもりだった。
だが、それでも……日の目を見れないのは、辛い。辛すぎる。
1年間、大手自動車メーカーの期間従業員として働いて貯めた貯金も尽きてきた。
また、あの労働地獄に戻るのか?
休日が……”何もしなくても良い安堵感” が最大の楽しみという、極めて空虚な地獄に戻るのか?
……俺は、何のために生きている?
故郷の北海道を飛び出してきて、俺は……俺は、一体何をしている?
稼いでいないのに、稼ぐ方法を教える?
机上の空論を教えて、お金を得る?
そんなこと……ダメに決まっているだろう。
……………………。
もし、情報商材が好調に売れていたら、こんな疑問も持つこともなく、嬉々として闇の中を突き進んでいたのだろうか。
俺は…………
人間の正義感は……
いや、俺の正義感は、俺の最低限の正義感は……吹けば飛ぶような脆弱な物だったのか?
-フォンッ-
ライチの背後から、3人の男たちが現れた。
転移者たちだ。
男たちは、ライチに気付いた様子だが、気にも留めずに意気揚々と会話を続ける。
「30年禁止されてたけど やっと解禁されたぜ。異世界転移が」
俺やルキさんがいる現世より、数十年分 文明が進んだ異世界からの………転移者たち!?
「異世界転移の解禁という ”時代の波” に乗れれば、無能な俺らでも稼げそうだ。
有能なライバル共が来る前に急いで影響力を獲得するぞ!」
男たちは、掌サイズのカプセルを空中にポイッと放る。
ふわふわ、と、宙に浮かぶバイクが現れた。
男たちは、バイクに3人乗りして、猛スピードで 地平線の彼方へ消えていった。
ライチの顔に、引きつった笑いが浮かぶ。
「……もう、諦めようかな」
雇用主を見つけて、奴隷になって、他人に従順に生きようか。
どんなカタチであれ、一生懸命に生きていれば、いつか必ず……。
白い月の光に照らされた草原。
――そこに、一人の女の子が立っているのを、ライチは認識した。
「――ルキさん!?」
ライチは、極めて俊敏な動きで立ち上がる。
巨大な月の白い光がルキを包み込み、どこか神々しくも感じられた。
ルキは、ライチの目を真っすぐに見据え、口を開く。
「……あの後、有名ギャル系インフルエンサー3名が、”ギャルの異世界レビュー” のコンセプトでメディアを運営し始めたよ」
ルキは、達観したような表情を浮かべている。
「正確には、”ギャルの異世界レビュー特化” のメディアではなく、以前から運営してたメディアで、手広く扱うコンテンツの1つとして扱い始めた……というべきかな。
悪く言えば……片手間で、ついでに、異世界レビューをしてる感じ」
ライチは、その先の言葉は大体予想できていた。
「――ごっそり持ってかれた。PVは激減。
あ、ぎゃうぴ さんは、ギリギリで末席にしがみついてる感じ。
そして、私は 末席にすら座れない」
ライチは、かける言葉が見当たらない。でも、何か言わなければ。
ルキさんの心情は、俺と同じ――
「有名インフルエンサーの影響力、ハンパじゃないね。
体感できた。次に活かす」
――――――――――――。
「…………ルキさんは、強いね」
「ずっと歩き続けるつもりだからね。常に全力疾走は無理。
ターゲット層が、見てて面白いメディアを創っていく」
「…………俺、今までの人生で一番頑張った。けどダメだった
……終わりだ」
ルキは、怪訝な表情でライチを見据える。
「――俺は、ルキさんの様に……強くない」
「なーんだ、諦めちゃうの?
……自己実現を諦めて、妥協しまくった人生を正当化する有害極まりないスキルが、一段と磨かれちゃうね」
何時になく、食ってかかる物言いをするルキ。
「…………………………………………。
俺は―――――――――――――――」
-ゴオォッ-
轟音が響きわたる。それは2人の頭上、遥か上空から発せられている。
2人は、同時に空を見上げた。そして、同時に目を見開いた。
遥か上空に浮かぶ巨大な白い月のまばゆい光の中、それは姿を現した。
生命力にあふれ、前を見て、命を燃やし尽くさんとする その姿。
赤い炎を発する巨大な鳥が、大空で力強く羽ばたいている。
ライチは、ルキの顔に視線を戻す。
「―――――――――――――――」
空を見上げているルキの顔は、とても可愛らしかった。
ライチの顔から、さっきまでの情けない表情が消えていく。
「……俺、続けるよ。終わりは、次のストーリーのスタート地点でもある」
ルキは、ライチの顔に視線を戻した。
「俺は、”異世界陰キャ起業家” になる。
異世界で稼ぐための旅を、稼ぐために見苦しくもがく姿を、発信していく。
うまく行かない方法を次々と見つけ、それを発信する。
俺の発信を見てくれる人に、同じ轍を踏ませないために。
『”異世界で稼ぐ” で失敗する方法を知りたいなら、ライチに聞け』
そういわれるくらい、ビッグな男になってやる。
自分を偽らず 等身大で、ビッグな男になってやる」
ルキは、ライチの表情を見据える。
「ビ、ビッグな男…………」
……頼れる男に、俺はなる。
ルキの口角が、少し上がった。
「その生き方、いいかもね。
徹底的にパクってもいい?ライチの側で」
ライチは、鳩が豆鉄砲を食らったような表情を浮かべている。
「……別に、いいけど……えーと、ルキさんは陽キャ…………。
あっ!もしかして、プロポーz……」
「にふぇーでーびる。やー、顔赤いさー」
ルキは、呪文詠唱を始めた。
「にふぇ……?」
ライチは、鳩が豆機銃掃射を食らったような表情を浮かべている。
「闇落ちから立ち直って、ひとまず ”立志編は完結” ってトコやっさー」
「???」
呪文詠唱を終えないルキは、ライチの顔を見据え、微笑んだ。
「ドロッドロのドス黒い世界で、もがきながら傷つきながらも、まっすぐに夢を追い続けて、生まれ変わろうとする弱者男性……。
書いてて面白い 長編小説になりそうさー」
モノクロの世界から、鮮やかな色で輝く異世界に転生した。
少なくとも、そんな気がした。




