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なりゆきで妻になった割に大事にされている……と思ったら溺愛されてた  作者: 藤芽りあ


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6/30

6 トランク1つで



 私はトランクの前で唸っていた。


「どうしよう……服がない……」


 これまでほとんど外出をしない生活をしていたので、私は誰かと食事に行くような服を持ち合わせていなかった。

 

「仕方ない……」


 私は白のブラウスと黒のカーディガンと黒のロングスカートというモノトーン姿で女官寮の前に立った。


(は~~せめてカーディガンがもう少し明るい色ならよかった……)


 今さら悔やんでも仕方ない。

 私は深呼吸をすると辺りを見回した。みんなこの時間は働いているので寮の前には全く人の気配がない。

 

(この時間って、こんなに静かなんだ……)


 こんな時間にこの場所に立っていたことがないので、この風景は見慣れていたはずだったのに、初めての場所のようで不思議だった。静かな道に鳥の声、そして見上げれば青い空。

 ぼんやりと空を眺めていると、馬車が近づいて来た。

 そして私の前で止まるとすぐに扉が開いた。

 そして、リカルドが馬車を降りた。


「ここで待ってくれていたのですね」

「はい」

「あ、もしも運べる荷物があれば、運びますよ。何回か往復する必要があるでしょう?」


 私はリカルドを見上げて困ったように答えた。


「昨日確認したら、荷物はトランク1つだったので、何度も往復する必要はないかと……」

「え? 全部でトランク1つ?」


 私はうなずいた後に答えた。


「はい。仕事ばかりしておりましたので、服は制服しかなくて……今日の服もリカルド様の素敵なお洋服に合わせる物がなく……申し訳ありません」

「いえ、謝罪の必要はありません。ですが……もしかして、今から退寮の手続きが出来ますか?」


 私の荷物は、すでにまとまっているし、制服やドレスなどは城からの支給品なのでクローゼットに残しておく規則だ。

 

「はい。出来ます」

「では、お昼まで時間がありますし、これから退寮の手続きをしませんか?」


 まさかこんなに急に退寮することになるとは思わなかったが、やはりリカルドはお忙しいので早くラーン伯爵領に戻りたいのだろう。

 だが……


「退寮しましたら、私は本日はどこで過ごせばいいでしょうか?」

「すでに、イリスさんの泊まる場所は用意してあります。何も心配せずにお越しください」


 どうやら、すでに私の泊まる部屋を用意してくれたようだ。

 

(ラーン伯爵領は財政難だと言うお話なのに……負担にならないのかな?)


 私はリカルドを見上げながら尋ねた。


「私の部屋を別に取ってくださったのですか?」

「はい、イリスさんの部屋を……もしかして、私と同室でもよろしいのでしょうか!?」


 凄い勢いで尋ねられた。

 やはり、2部屋用意するのは経済的に苦しかったのだろう。

 王都は物価が高いので無理をさせてしまって申し訳ない。


「はい」


 1部屋の方が経済的だ。シングル二つよりも、ツインを取る方が安いという王都の宿事情は仕事柄把握している。

 リカルドは何かを悩みながら小さな声で呟いた。


「え? え? 一緒でよかったのか? それなら今日から、イリスさんと同じ部屋で……いや、しばらくは邪魔をされる可能性がある……絶対に邪魔されたくない。あ~~でも一緒に寝たい~~でも、邪魔が絶対に入る~~ん~~ん~~」


 リカルドは、何か眉を寄せて真剣に悩んだ後に、私を見て真剣な顔で言った。


「ラーン伯爵領の領邸に戻ったら、一緒の部屋でお願いします!!」

「え? は、はい」

「ありがとうございます」


 なぜ領邸に戻ってから同室なのだろうか?

 もしかして、ラーン伯爵領邸はかなり狭いのだろうか?

 そうか、わかった。これからの季節、薪代を節約するということだろう。


(うん、うん、薪代って結構高もんね……)


 ようやく理由がわかってうなずいていると、リカルドが真剣な顔で拳を握りしめながら言った。


「一刻も早く領に帰りましょう!!」


 そうだった。

 リカルドは忙しいはずだ。


(早く領に戻れるように協力しないと!!)

  

「リカルド様、退寮手続きは寮監の下で行います。寮監の方は中にいます。こちらです」

「はい。一緒に行きます」


 私はリカルドを連れて、中に入った。

 そして、寮監室をノックすると、中から声が聞こえて扉が開いた。


「イリスさん、どうされ……」


 寮監はそこまで行って眉をひそめた。

 寮監はミシェルさんと言って、すでに子供が大きくなり、旦那様と離婚され寮監になったと言っていた。


「イリスさん、家族以外の方は寮内に入れない規則です」

「リカルド様は……私の……家族です」

「家族?」


 寮監が疑わしいといった瞳を向けていたが、その横でリカルドが顔を赤くして口を押えた。


「家族!! イリスさんの家族!!」


 ミシェルはリカルドを見た後に、私を見た。


「それで、何の用ですか? 外泊届ですか?」

「いえ、退寮の手続きをお願いします」

「え!? 退寮!?」

「はい」


 ミシェルは驚いたが、すぐに姿勢を正した。


「わかりました。少々ここで待っていてください」


 ミシェルの後ろ姿を見送って廊下に二人になると、リカルドが私を見て嬉しそうに笑った。


「俺、イリスさんの家族なんですね」


 いつも《《私》》と言っているリカルドが《《俺》》と言った。それがなんだかくすぐったく感じ、リカルドを見ながら答えた。


「はい……結婚……したので……」

「そ、そうですね……」


 顔に熱が集まり、恥ずかしくなっていると、リカルドの頬も赤くなっていた。

 二人で視線をさまよわせていると、ミシェルが戻って来た。


「これに名前を」

「はい」


 廊下に置いてある机で自分の名前を書いて渡すと、ミシェルが微笑んだ。


「お幸せにね」

「ありがとうございました。お世話になりました」


 私はミシェルに頭を下げた。


「荷物はどうするのですか?」


 その問いかけに答えたのはリカルドだった。


「これから運びます」

「わかりました。制服やその他の支給服はロッカーへ、鍵は返しに来てください」

「はい」


 私はリカルドを見た。


「では、リカルド様。すぐに戻ります」

「え?」


 私はリカルドを待たせてはいけないと思い、早足で一人で部屋に戻った。


「一緒に行けないのか……部屋見たかった……」


 だから知らなかったのだ。残されたリカルドががっかりと肩を落としたことに……


 


 


 




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