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なりゆきで妻になった割に大事にされている……と思ったら溺愛されてた  作者: たぬきち25番


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29 謁見

 私は女官だったが、王族の方と直接言葉を交わすことはなかった。

 陛下や王太子殿下、そしてレイモンド殿下と言葉を交わせるのは基本的に爵位持ちの人間か、その部署の責任者だけだ。

 私のいた部署では室長が王族に謁見して仕事内容を聞いていた。

 だから、実際に謁見の間に入るのは初めてだ。


 城には謁見の間が3つある。一つ目はホールのように大きい。

 主にみんなの前で栄誉を与えられたり、外国からの要人を招く場合に使われる。


 そして、二つ目は会議室くらいの大きさだ。ここは高位貴族の方々や、数十人と会うといった時に使われる。


 三つ目は普通の執務室くらいの大きさだ。

 おそらく室長たちも毎回ここで、陛下や王子殿下と夜会の打合せをしていたと思われる。

 私たちの中では第三謁見の間と呼ばれている。

 ちなみに実際はそんな名前ではない。


「リカルド、よくやってくれた!!」


 信じられないことに、リカルドと一緒に謁見の間に入った途端に、陛下がリカルドの手を取って、ぶんぶんと振り回しながらお礼を言った。


(……陛下? イメージと全く違う!!)


 私はこれまで威厳に満ちた陛下の姿しか知らなかったので、驚いてしまった。

 リカルドは穏やかな顔で微笑んだ。


「いえいえ、これくらいお安い御用です。さぁ、陛下、これで威信は保てます。胸を張って下さい」

「ああ。そうだな……そうそう。この前、もらった香辛料は美味であった。もうないのか? 追加購入したい」


 陛下はわくわくしながら言った。


「ん~~どの種類でしょうか? 後で陛下に贈ったものを確認します。また追加購入可能かも確認します」


 陛下は「よろしく頼む」と言った後に、リカルドに恨みがましい目を向けた。


「リカルド、そなた……レイモンドとも取引しておるな?」


 リカルドはにっこりと笑って、「大変申し訳ございませんが、お答えできかねます」と答えた。

 すると陛下は不貞腐れたように「王命じゃ」と言った。

 

(ええ~~こんなことで王命!? 陛下……本当にイメージと違う!! 仕事出来る感じの指示書が回ってくるから、てっきり陛下はもっと冷静沈着な方だと思っていたわ……)


 王命とはこの国では絶対だ。こんなことで王命を使う意味がわからない。

 私は内心困惑していたが、一方リカルドが困った顔をしていたが動じることもなく答えた。


「王命なら仕方ありません。はい、レイモンド殿下とも懇意させていただいております」


 正直に言って……私は生きた心地がしなかった。

 例え王命とはいえ、王族のレイモンド殿下との秘密を話していいのだろうか?


「ふん、どうせ、余より先にあやつと絡んでおるのだろう? あいつは鼻が利くからな」


 さらに不貞腐れたように言う陛下に向かって、リカルドがにこやかに……かなりキツイことを言った。


「その通りですので、いい加減仲直りして一緒に国政をされたら良いのではありませんか? レイモンド殿下が陛下を影ながらお支えしているのはご存知なのでしょう?」


(レイモンド殿下が陛下を支える!? え!? そうなんだ!!)


 レイモンド殿下と陛下の兄弟仲が悪いのはかなり有名な話だが、私の聞いた話では、レイモンド殿下の方が一方的に陛下を嫌っているという話を聞ていた。

 だが、お二人が一緒に立たれることもあるが、王太子殿下を挟んで一言も話をしない。

 ちなみに王太子殿下は陛下のお子様ではなく、王家の次男だ。陛下はご結婚をされていない。

 

「ふん、あいつが余にあやまってきたら……許してやらんこともない」


 リカルドが眉を下げながら言った。


「それ、レイモンド殿下も同じことをおっしゃっていましたよ……陛下」

「なんだと!?」

「でも、いいではないですか、レイモンド殿下は()は大切なので、これからも陛下を影ながら支えるおつもりのようですよ」


 陛下は眉をしかめて「んんん」と唸っていた。

 すると、突然リカルドが若干目が笑っていない笑みを浮かべた。


「ああ、そうそう、イザベラ様は第三子がお生まれになり、大変お幸せに暮らしているとのことです」

「言うな!! 言わないでくれ、リカルド!! まだそのことは聞きたくない」


 陛下が突然耳を塞いで身体を揺すった。

 一体、どんな情報だろうか?

 イザベラ様とは一体誰なのだろうか?

 頭の中に疑問が浮かぶがさすがにここでは聞けない。

 リカルドは、慈愛に満ちた瞳を陛下に向けながら言った。


「陛下、いい加減前を向いて下さい。そうすれば素敵な方と巡り合えますよ。私のように!!」


 陛下がジト目でリカルドを見ながら言った。


「余の前で惚気るな!!」

「はは、申し訳ございません。幸せなものでして……」


 リカルドが陛下を煽るようなことをいうので、ハラハラしていると、陛下は肩を落としながら言った。


「ふん、まぁ船もいつまでも名前がないというのも困る。そろそろ余も……前を向く時が来たのかもしれぬな。リカルドでさえ、結婚したのだしな。あの、リカルドが!!」


(陛下随分とトゲのある言い方だな……)


「そうですよ。私でも……」


 リカルドは陛下の嫌味をものともせずに笑顔で答えた。

 そんなリカルドを見て陛下は息を吐いて、少し笑った。


「はぁ、もうよい。下がっていいぞ。船、感謝している」

「光栄にございます」


 そして私はリカルドと、二人で深く頭を下げて謁見の間を出た。

 帰りの馬車の中で私は気になっていたことをリカルドに尋ねた。


「あの、陛下とレイモンド殿下ってどうしてケンカしていらっしゃるのですか? お答えできなければ答えなくてかまいません」


 リカルドはすぐに答えてくれた。


「ああ、あの二人な……小さい頃から、イザベラ嬢に惚れ込んで『どっちが彼女と結婚するか』で散々勝負してたんだよ。だが……101戦目。お互い50勝、50敗となった記念すべき戦いの最中に、イザベラ嬢が男爵位の男性と結婚したんだ」


 私は目を大きく開けた。


「え!? そんなことが許されるのですか? 王族二人に求婚されて? 別の男性と結婚!?」


 私としては二人の王族に求婚されながら別の男性を選んだイザベラさんの行動が信じられない!!

 するとリカルドが笑いをこらえるように言った。


「ああ、ここからが笑い話、いや、悲劇なんだけどな、あの二人どっちがイザベラ嬢に結婚を申し込むかで何年も何年も争っていたから、当のイザベラ嬢は二人に想われていたなんて全く知らずに、さっさと恋人作って結婚したってわけだ」


 私はさらに驚愕して目を大きく開けた。


「え!! そんなことが?」


 何年も同じ女性が好きで争っていたのに、当の本人はそのことを知らない!?

 え?

 どういう状況!?

 それって、まずは……イザベラ嬢に言うべきだったのでは……?


「そう、笑える……悲しいすれ違いだろう? だが、イザベラ嬢は、幸せそうって評判だからなあの二人と結婚せずに済んで幸運だったぜ。どっちもかなり、ひねくれられているからな……」


 普通に考えて何も言われなければ、まさか王族が自分のことが好きで、ましてや争っているなんて思わない。

 だから、イザベラ嬢は平和に恋をして、結婚して子供を作って何も知らずにのんびりと生きているのだろう。

 リカルドの言う通り何も知らない方が絶対に幸せだ。

 いや、誰かに聞いても冗談だとしか思わない話だ。


(もしかして、そんな理由で陛下たちって仲悪いの!?)


 いや、考えようによっては何年も二人で101戦するくらい正々堂々戦っているのだから、仲が凄くいいのかもしれない。

 二人とも突然イザベラさんが結婚した時は、さぞ驚いたことだろう。

 だが、どうしようもない感情をイザベラさんにぶつけることも出来ずに、お互いにぶつけあって解消したという感じだろうか。


(うん、やっぱり仲いいよね……)


 リカルドが頭をがしがしかきながら言った。


「ったく、こっちは陛下とレイモンド殿下に挟まれて大変だぜ。王太子殿下は面倒だからかかわらないってスタイルだしな……早くあの二人が手を組めば、レッグナードだって好き勝手出来なくなるんだし、早くなんとかしてほしいぜ、切実にな……」


 リカルドは深いため息をついた。

 夫婦ケンカは犬も食わないというが……兄弟ケンカも同じよう言うのだろうか。


「仲直りできるといいですね」

「本当にな……」


 リカルドも深くうなずいたのだった。

 そして馬車は停泊中のラーン伯爵家の船に到着したのだった。

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