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なりゆきで妻になった割に大事にされている……と思ったら溺愛されてた  作者: たぬきち25番


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28 完成

「若、陛下から依頼された船が完成しました!!」


 私がラーン伯爵領に来て4ヶ月経った頃。

 リカルドと一緒に仕事をしていると、おめでたいニュースが飛び込んで来た。

 これまでリカルドが陛下の威信をかけて必死で材料を集めた船がようやく完成したというのだ。


「とうとう出来たか……よし、確認に行こう」


 そしてリカルドと共に船の確認に行ったが、中はとにかく豪華絢爛で眩しいいほどだった。

 さすがは、陛下の船というだけあって豪華絢爛な船が完成した。

 リカルドがすぐに陛下に連絡をすると、すぐに持って来てほしいという連絡をもらったので、私もリカルドと共に王都に行くことになった。


「後は、ここに陛下が金のエンブレムを付ければ完成でさぁ」


 一番大きな台座の上には、陛下の紋章を埋め込む場所が作れていた。


「これは、完成披露式で陛下自らの手で入れることになっている……つまり、俺たちはもうすることはねぇ!! この船は完成だ!!」


 リカルドの声で造船にかかわった全ての人々が「おぉぉ~~」と雄叫びを上げた。

 そして次の日に、この船に関わった人とその家族に対して船がお披露目された。

 みんな嬉しそうに目を細めていたのだった。








「今回、俺とイリスさんは、陛下から船の完成披露の夜会に呼ばれているが、随分と大きなお披露目式が開かれるらしいぜ」


 領内でのお披露目から半月後。私たちは再び王都に向かう船の上いた。

 今回は陛下の船を運ぶというので、帰りのこともあり、二隻での旅立ちだ。

 ロダンたちが陛下の船を操縦して、リカルドと私たちが以前も使った船に乗っていた。

 どうやら以前陛下に運河の掃除を任された理由は、この新しく出来た船を無傷で王都に運ぶためだったようだ。

 ちなみに今回は陛下直々にリカルド宛てに招待状が届いたので、私たちはれっきとした招待客だ。


「そうなのですね……大きな会……たった半月で準備……」


 そう聞いて私が思い出すのは、自分の過去だ。

 昔はこういう時、必死で準備する側だったのでつい、イベントを支えるみんなのことを考えてしまう。


(……今回は陛下主催のパーティーってことか……室長たち、今頃、大変だろうな……)


 陛下が主催ということは仕切っているのは恐らく、私が元いた部署の人たちだろう。

 しかも、陛下主催の大きな会なら、いくつかのチームで連携を取って動いている可能性もある。

 大きな会なのに準備期間がたった半月……短い、短すぎる!!

 まぁ、これからの時期、外国からのお客様も増えるので、お披露目式を急いで、船をこの国の技術力を見せつけるために会場に使うのだろうが……それにしても半月は短すぎる。


(せめて、1ヶ月は欲しいよね……みんな寝れてるかな……)


 私が思わず元同僚を心配していると、リカルドが心配そうに私の顔をのぞき込みながら言った。


「イリスさん、何か気になることでもあるのか? それとも気分が悪いのか?」

「心配かけてごめんなさい。気分は悪くありません。ただ……今頃、室長たちは大変だろうな、と思って」


 リカルドに心配をかけないように考えていたことを伝えると、リカルドがうなずいた。


「ああ、なるほど、そういうことか……つまり、あのイヤなヤツがいるのか?」


 イヤなヤツとはピルオン公爵家のサイモンのことだ。

 私の元同僚で、私を苦しめた調本人だが、彼は絶対に陛下主催の催し物担当になるはずがないので、会場には招待客としている可能性はあるが、運営としてはいないと断言できる。


「いえ。あの人は王太子殿下主催のパーティーの担当のはずです。最低でも、5年は経験を積まなくては、陛下主催の催し物の担当にはなれませんのでだから今回は運営としてはいないはずです」


 それに陛下の催し物を担当するのはみんな切れ者ばかりのベテランだ。

 サイモンがあの中に入れるとは思えないし、正直に言って王太子殿下の催し物だって彼にはかなり荷が重い役目だろうと思う。

 さすがに、いくらサイモンがピルオン公爵家の人間だからと言って、前例を無視して陛下の催し物担当になるようなことはないだろう。


「ああ、それは陛下も安心だな。せっかく無理して資金をつぎ込んだ船の完成披露会だ。イヤなヤツに邪魔されたくねぇよな……」


 リカルドも空を、見上げながら言った。

 以前は彼のことを思い出すのもイヤだったのに、今では笑い話になっているので不思議だった。

 そのくらい、今の私にとって王都で過ごした日々は遠い昔のことになっていた。

 

「王都が見えて来たぞ!!」


 見張り台から声が聞こえて、リカルドを顔を見合わせた。


「イリスさん、そろそろ王都だ。王都に着いたら、すぐに謁見だ。そろそろ着替えるか」

「はい」


 私たちは船を届けたことを陛下に伝えるために、到着したらすぐに陛下に謁見する予定になっている。さすがにこの服ではお会いできないので、お互い謁見用の服に着替える予定だ。

 ちなみに今回の謁見用と、お披露目会用の服を作ってくれたのは、リカルドの服はアランで、私の服はアランの師匠の親方だ。どちらも私が着るのが申し訳なくなるほどの出来だ。


(さぁ、着替えなきゃ!!)


 私は急いで、謁見用の服に着替えた。




 私とリカルドは馬車乗って、城に向かった。


「ふふ、そのドレスも似合うな。ああ~~本当に可愛いな~~」

「ありがとうございます」


 どうやら、イリスの花の色も紺色と言っても様々な紺色があるようで、今回のドレスはその繊細な色を表現することに情熱をかけた染師と、親方とのタッグで出来合った渾身のドレスばかりなのだそうだ。

 そう、今回の謁見用と、船の完成披露会用と2着もドレスを作ってくれたのだ。

 かなりお高いとの噂なので、汚さないように細心の注意を払う必要がある。ちなみに、お披露目会で何も食べられなくても終わったら、リカルドといつか行った麺を食べに行く予定なので、食べなくても問題ない。


 城に到着すると、リカルドだけが先に文官との段取りを話すというので、私は控室で待っていた。


「イリス!! 久しぶりね」

「本当に、突然いなくなるから驚いたわ!!」


 どうやら、この部屋の担当の女官は、かつての女官寮の時の隣の部屋で仲良くしていた二人だった。

 一人はかつて財務に努めており、この子にラーン伯爵領の多額の借金があることを聞いた。


「イリス聞いたわ。あなた、ラーン伯爵家に無理やり嫁いだんだって?」

「え?」


 どうしてそんな(デマ)が広がっているのかわからずに首を傾けた。


「そうそう、しかもよりにもよって、多額の借金のあるラーン伯爵家!!」

「本当にあなたって昔から苦労性よね……本当に可愛そう。早く戻って来なさいよ」


 この言葉にはたぶん、彼女たちの本心だ。

 全く悪意などない。

 でも、その言葉は私を酷く不快にさせた。


「私、戻らないわ。リカルドを……愛してるの」

「え?」

「嘘!」


 驚く二人に私はうなずいた。


「だから、無理やりじゃないわ。私は望んで彼の隣にいる……これからもずっと……彼の側にいたい……」

「そんな強がり言って」

「そうよ、借金持ちの男なんて条件のいい女に奪われるわ」

「それでも、私は彼を愛してるの」

「バカみたい……」

「イリス……変わったね……」

「うん。そう思う」


 私がそう言い切った瞬間、ごほごほと咳払いが聞こえた。

 そして、彼女たちは「それでは失礼いたしました」と去って行った。

 振り向くと、リカルドが立っていた。

 控室に二人になり、私はリカルドの顔を見れずに顔をそらした。


「リカルド……今の聞いて……」


 リカルドに悪口など聞かせたくはなかった。

 きっとイヤな気持ちになったはずだ。

 リカルドはずんずんと歩いてくると、私の顔をのぞきこんだ。


「今の、本当か?」

「え?」


 顔を上げると、嬉しそうににやけた顔のリカルドが立っていた。

 悪口を言われたのにどうして笑っているのか不思議に思っていると、リカルドが照れたように言った。


「あのよ……さっきの言葉、俺、まだ直接聞いたことねぇんだけど……イリスさんの口から……」

「さっきの……言葉?」


 リカルドがそわそわしながら頭を掻いた。


「その……あ、あ、愛……してる……って」


 気が付けば、私の顔も真っ赤になっていた。

 でも……これは私の本心だ。

 私はリカルドを見上げた。


「……愛してます。誰よりも」


 すると嬉しそうに破顔するリカルドに抱きしめられた。


「俺も、愛してる!!」


 ようやく口に出来た言葉。

 こんな形だったけど、ずっと言いたくて、言えなかった言葉……

 きっかけは最悪だったが、リカルドに本心を伝えられて……よかった。

 リカルドは私を離して腕を差し出した。


「さぁ、行こうか」


 私はリカルドの腕を取ってうなずいた。


「ええ」


 廊下に出ると、さっきの二人が気まずそうにこちらを見ていた。

 私は二人にお辞儀をして、リカルドの隣を歩いた。

 もう私は彼女たちを振り返ることはなかった。

 

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