表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
なりゆきで妻になった割に大事にされている……と思ったら溺愛されてた  作者: 藤芽りあ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/30

25 外洋船


「嘘だろ……もう、終わった……!!」


 リカルドが両手を伸ばすと、ロウが無表情で拍手をした。


「若、素晴らしいです。あんなにたくさんあったのに……」


 リカルドが私を見て笑いながら言った。


「全部イリスさんのおかげだ。書類を確認するのに全て必要な物が揃っているから楽だった。思えば、書類ごとにどんな資料が必要かを考えて、それを探すっていうのが想像以上に手間だったんだな……」

「ふふふ、ありがとうございます。しっかりと管理されていましたので探すのも簡単でした。リカルドの日頃の管理の賜物です」

「はは、そいつはありがとな。ふぁ~~疲っれたぁ~~」


 リカルドが伸びをしながら言った。

 今回書類や保存してある資料を見て実感したが、彼はかなり優秀な領主だ。

 おそらく大切なものがしっかりとわかっているので、どんな事業をしたらいいのか、どこに資金を回せばいいのかよくわかっている。

 さらに学校があると言っていたが、その学校もかなり機能している。

 実は領主の下には城主と言って領内をいくつかにわけて、城を持ち管理しているのだが、その城主から上がって来る書類も全てが完璧だ。

 他の領ではこうはいかない。

 ラーン伯爵領の城主の方が、サイモンよりも確実に書類を不備なく作れる。きっと領内に学校があることで無理なく通うことができるのだろう。

 書類仕事が終わって、3人で少しのんびりとしていると、ノックの音が聞こえた。


「若、入ってもいいですか?」

「入っていいぞ」


 リカルドが声を上げると、扉が開いて兵士のような身なりの男性が入って来た。


「若、見張り台から信号です。お館様の船が見えたそうです。もうすぐ港に到着するとのことです」


(お館様の船?)


 不思議に思っていると、リカルドが立ち上がった。


「帰って来たか……」


 そして兵士に「わかった。ありがとな」と言った。兵は「見張りに戻ります」と言って去って行った。

 

「半年ぶりですね」


 ロウが楽しそうに言った。

 

「ああ、ロウ。宴の用意を」

「はい。では、失礼します」


 ロウはすぐに部屋を出て行った。

 リカルドは私を見て微笑んだ。


「イリスさん。ちょうどよかった。親父が帰って来たようだ」

「リカルドのお父様……」


 どうやらリカルドのお父様はお館様と呼ばれているようだった。

 リカルドは、立ち上がると私の手を取った。


「イリスさん、これから港に行かねぇか? ラーン伯爵領の外洋航行用の最新鋭艦に案内するぜ」


 ラーン伯爵領と言えば造船だが、その中でも外洋航行用の船はかなり大きいと聞いている。

 私はリカルドの手を取った。


「はい。ぜひ」


 そして私は再び馬車に乗って、港に向かった。






 港にはすでに連絡が来ていたのか、凄い人だった。

 ロダンやガイの姿もあった。二人とも随分とラフな服装だった。

 ガイは小さな男の子を二人両手に両肩に乗せて、船を見せていた。その傍らには明るい雰囲気の女性が寄り添い、腕に小さな女の子を抱いて、楽しそうに笑っている。


(ガイには、3人もおこさんがいたのか)


 船の中でも、ガイは何かと気を遣ってくれていたのを思い出してほのぼのとした気分になった。

 ロダンは眠そうな顔でぼんやりと立って、たまに女性に声をかけられ、楽しそうに話をしており、いつの間にか女性に囲まれていた。


(ロダンはモテるんだ……もっと近寄りがたい雰囲気かと思った……)


 みんな船の上と陸の上では印象が違った。

 そして人々から歓声が上がった。


「イリスさん、船が見えたようだぜ」

「え?」


 そして空が茜色に染まる頃、離れた場所に大きな船が見えた。

 離れているのにとても大きい。きっと近くで見たら、かなり大きいのだろう。

 船がゆっくりと近づき、港に到着した。

 見上げると首が痛くなるほど大きい。

 マストの数も多いし、帆の大きさも数も段違いだ。

 船中に巧にロープが張り巡らせて、どこからでも風を受けて走れるように工夫がある。


「本当に大きい……」


 私は大きな船を見上げて、息を吐いた。


「な、デカいだろ?」

「はい」


 リカルドと並んで船を眺めていると、大きなタラップがかけらた。

 私たちの乗って来たタラップなど目じゃないくらい広い。


「イリスさん、行こう!!」

「はい」


 リカルドに手を引かれて、馬なども通る大きなタラップの端を移動した。


「ん~~どこだ?」


 リカルドが周りを見ていると、頭上から声が聞こえた。


「リカルド!? 隣の美しいお嬢さんは誰だ!!」


 声の聞こえた方を見て、私は驚いてしまった。


(リカルド、そっくり!!)


 きっとリカルドがもう少し歳を取ったらこんな風になるのだろうと想像できるほど、顔が似ている男性が立っていた。


「ああ、実は俺、結婚した」


 リカルドが照れながら言った。


「若が結婚!?」

「嘘だろ!?」

「あれ? 俺たち竜宮城にでも行ったのか??」

「ここを出たのはそんなに昔だったか?」


 船に乗っていた大勢の人々が口々に声を上げたが、リカルドのお父様はリカルドを見て、石のように固まった。


「お~~い、親父。イリスさんって言うんだ。聞いてっか?」


 リカルドは私の名前を教えていたが、リカルドの父親は全く反応を示さない。


(……私ではやはり、リカルドさんにはふさわしくないのかな?)


 あまりにも反応がないので段々と不安になってきた。


「おい、親父!! イリスさんが不安になってるだえろうが!! なんとか言え!!」


 リカルドが声を上げると、リカルドのお父様がはっとしたように声を上げた。


「け……」

「け?」


 リカルドが眉を寄せると、リカルドの父親はリカルドの両肩を持って叫んだ。


「け、結婚式は終わっちまったか? どうして俺を待たなかった!! はっ!! もしかしてもう孫がお腹にいるのか!? そうなんだろ!!」


 リカルドが顔を真っ赤にして大きな声を上げた。


「孫!? いねぇって!! 結婚式もまだだ」


 リカルドの父親は、リカルドから手を離してほっとした後に言った。


「そ、そうか。よかった。うっかり結婚式を欠席しちまったと思ったぜ。式を待ってくれてありがとな」


 そして今度はリカルドによく似た顔で微笑まれた。

 彼はそれから私に手を伸ばしながら言った。


「俺はリカルドの父のエルドだ」


 私はリカルドのお父様の手を取りながら言った。


「はじめまして、イリスと申します」


 二人で握手を交わすと、リカルドが口を開いた。

 握手をしたが、随分とゴツゴツとして働き者の手だった。

 手を離すと、リカルドが彼の父親を見た。


「イリスさんに、少しこの船を見せてぇ」

「ああ、ぜひ見てくれ!! 自慢の船だからな。俺は先に戻ってる」

「わかった」

「じゃあ、ゆっくり見て行ってくれ」


 私たちはリカルドの父親の背中を見送ると、顔を見合わせた。


「あれが親父だ」

「リカルドにそっくりですね」


 私がリカルドを見上げて微笑むと、リカルドが困ったように言った。


「あ~~それ、よく言われる……さてと、まずは操縦室に行くか」

「はい!!」


 私はリカルドと一緒に船を探検することにした。









 船を見て回って甲板に戻った頃には、人もまばらになり、辺りも暗くなっていた。

 だが、また荷下ろしが終わってないようで、松明を付けて荷下ろしをしていた。


(これだけ荷物降ろしているのに、まだ荷があるのね……)


 私が大量の荷物の量に驚いていると、リカルドが私を見ながら言った。


「イリスさん。ラーン伯爵領があちこちの領から借金しているって聞いたんだろ?」

「はい」


 甲板から町を見ながらリカルドが呟くように言ったので、私はすぐに返事をしてリカルドを見上げた。

 リカルドは私を見て静かに言った。


「それな……正確には借金ってわけじゃねぇんだ」


(正確には借金じゃない??)


 一体どういうことなのだろう?

 意味がわからなくて、私が困惑していると、リカルドが困ったように言った。


「ん~~何って説明したらいいのかな? 俺たちは、他の貴族から資金を集めて、外洋に出て他の国から珍しい物を持ち帰ってんだ」

「え!?」


 リカルドは困ったように言っているが顔は、とても嬉しそうに目を細めた。


「俺の親父はな、昔から船に乗って知らない土地に行くのが好きで……見知らぬ土地で言葉も通じねぇのにすぐに現地の人間と仲良くなって、色々な物を交換して帰って来てたんだ」


 知らない土地に行って、言葉も通じないのに仲良くなる!?

 しかも、何かを交換して帰って来るってものすごい交渉術じゃないだろうか?


「それはすごい仕組みですね……」


 リカルドは嬉しそうに笑って言った。


「だろ? だから……折角の特技をただの道楽にするのはもったいねぇと思ったんだ。それにもしも、上の人間が親父が珍しい物を持って来ることに嫉妬して、侵略だの、越権行為だの難癖つけられたくもねぇ。だから、巻き込んでやったんだ。財力を持ってる好奇心旺盛な連中を……」


 私は目を大きく開けた。


「では、お父様のためにリカルドが、他の貴族から資金を集めて、新しい仕組みを作ったのですか?」

「ああ。親父は……俺のせいで最愛の人を亡くしたからな……これ以上、あの人の好きな物を奪われないようにしてぇんだ。人間ってのは案外幼稚で、他の物が良く見えると、平気で潰して奪おうとするからな……」


 リカルドが泣きそうな顔で海を見ていた。


「資金を出した貴族に、いくら預かったって書類を作って、その資金に応じた珍しい物を分配してる。だがな、みんな城に財務の報告するのに、その資金をどうやって書くか困って、借金って項目で出してんだ。だからうちの領はみんなからとんでもない額の借金をしているってことになってる。だが、実際は……借金じゃねぇんだ」


 私はリカルドの話を聞いて頭にあることが浮かんだ。


(あれ……待って、この仕組み……どこかで聞いたことがあるような……裕福な貴族から資金を集めて、船を出す。そして持ち帰った物を分配する……何だった? どこで聞いた?)


 私は必死で記憶をたぐりよせた。


「あ!!」


 私は思わず大きな声を上げた。


(思い出した!! これって株式会社の原理だ!!)


 つまり借金として報告するしかない資金は、出資金という扱いになって、誰がどれだけ出資したのか書き示す証書が株券というわけだ。

 私は気が付けば興奮気味にリカルドに尋ねていた。


「香辛料……もしかして、香辛料もですか?」


 リカルドは、驚いた顔をしながら言った。


「あ、ああ。よくわかったな。料理に使うスパイスも、色々なところから集めてくる。ちなみに一番人気だぜ。みんな旨い物には目がねぇからな……」


 リカルドが嬉しそうに笑った。


(そうか……それでこんなに食事が美味しいのか!!)


「あ、もしかしてライドさんが『ディルッソ』に貸しがあるっていうのはもしかして香辛料ってことですか?」


 リカルドは少し考えた後に答えた。


「ライドがそう言ってたんならそうかもな。あいつは、貴族の資金に応じた物資を提供した後、残ったものを高く一般に売りさばいているからな。まあ、報告書には詳しく誰に何を譲ったか書いてあるはずだ。俺は金額くらいしか確認しないけどな」


 つまりリカルドたちは、株式会社のような仕組みで外洋航海に出てたってこと!?

 私は全く想像もしていなかった展開に眩暈がしそうだった。


「そろそろ、宴の用意も出来る頃合いだな。家の帰ろうか」


 リカルドとの楽しい時間が終わってしまうことに急に淋しさを感じた。だが、食事の時間が迫っているのなら戻る必要がある。


「はい」


 うなずくと、リカルドが私の髪に触れて呟くように言った。


「帰りたくねぇな……」


 リカルドと同じことを思っていると、彼が船の淵に両手を乗せて顔をその上に起き、目線が私と同じ高さになった。

 

――してもいいか?


 ゆっくりと動く唇から目を離せなくてうなずくと、リカルドの顔が近づいて来た。

 目を閉じると、唇に柔らかさが触れた。


 キス……された――唇に……


 リカルドの紺色の瞳がゆらゆら揺れて、とても綺麗だ。

 見とれていると、リカルドが背筋を伸ばして、私の手を取った。

 心臓が早い。

 身体中の血液が高速で動いている感覚になった。

 彼を繋いだ手から体温が伝わってくる。


「結婚式が終わったら……イリスさんと、同じベッドで寝たい」


 そしてリカルドが私をまっすぐに見ながら言った。


「この意味、わかるか?」


 私はゆっくりとうなずいた。

 するとリカルドが目を大きく開けて、嬉しそうに言った。


「式は恐らく、半年後くらいになると思う。それまでに……覚悟を決めてくれるか?」

「覚悟?」

 

 リカルドは真剣な顔で言った。


「そう、俺と本当の家族になる覚悟」

 

 私はリカルドを見てうなずいた。

 海はすでに真っ暗だったが、星が少し見えて、月も上がっていた。

 月の光で揺れる波はとても……穏やかなに見えた。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ