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なりゆきで妻になった割に大事にされている……と思ったら溺愛されてた  作者: 藤芽りあ


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19/30

19 一人時間





「若、話は出来ましたかい? まぁ、その様子だと出来たんですね」


 食堂にはすでにガイが座っていた。

 ガイの視線が私たちの繋いだ手に向むけられていて、私は恥ずかしくなったが、リカルドは全く気にする様子はなく、私の椅子を引いて「どうぞ」と座らせてくれた。「ありがとう」と言ってリカルドの手を離すと、ガイに言っているのか私に言っているのかわからないが、私たちの方を見て真剣な顔で言った。


「確かに話は出来た。だが……もっとゆっくり話がしてぇ……絶対的に時間が足りねぇ」


 リカルドの気持ちはよくわかる。

 私たちはまだ出会ったばかりなので、お互いわからないことが多すぎる。

 確かに話をする時間が必要だと思ってしまった。

 それに……


(リカルドと話をするのは、楽しい……でもリカルドはこれから会議があったり、夜も仕事があって忙しいんだろうな……)


 リカルドは否定しないので、安心して話をすることが出来た。もっとリカルドと話をしたいと思っている自分に気付く。

 だが、同時に彼はとても忙しそうなので、私との話す時間をとってもらうのが申し訳なく思えた。

 私も話がしたいと思っていると、ガイが口を開いた。


「ん~~俺たちの食事が済んで、次の第二班の食事が終わったら、若は会議だし……そうだ、夜にでも二人で話をしちゃどうだ?」

「夜だって!? そんな!! 危険だ! イリスさんと密室で二人きりなんて!!」


 リカルドが大きな声を上げた。するとガイが頭をかきながら言った。


「あ~~、もし密室で二人ってのが危険だって言うなら、甲板の上部に椅子とテーブルでも用意しようか? ライドに言えば、何か軽くつまめそうなものを作ってくれるんじゃねぇですかい? そこでゆっくり話をすればいい。今日の停泊地はゴズの町だ。景色だって悪くない。それに、今日の夜は晴れそうだ」


 リカルドが小声で何かを呟いた。


「(今日の停泊地は、夜景もそれなりに綺麗に見えるし、何より今日は晴れ……月も星もそれなりに見えるだろう……)」


 そしてリカルドは、顔を上げてガイを見た。


「頼む。イリスさんともっと話がしてぇ」


 ガイが親指を立てた。


「任せろ!!」


 夜にリカルドと二人で話をすることが決まってしばらくすると、鐘がなった。

 この鐘でみんなが一斉に両手と指を合わせて、目を閉じて祈りを捧げる。

 いつの間にか……この静寂が心地よいと感じるようになった。

 自分の肌で流れる時間を感じ、厨房から漂ってくる美味しそうな匂いが届くと、これから食事をするのだ、と頭が切り替わる。

 身体に……血肉となるものを届けるのだと伝えるような時間だ。


 そして再び鐘が鳴ると、みんなが一斉に席を立った。

 列が出来ていたが、いつもの半分の人数なので、すぐに進む。

 私たちも自分で食事を取りに行き、しっかりと美味しい料理を堪能した。

 食事が終わって「ごちそうさまでした」と手を合わせると、リカルドに声をかけられた。


「イリスさん。俺はこれから会議だが……イリスさんはどうする?」

「私は……部屋で本を読んでもいいですか?」


 夜に読むよりも、昼間に読んだ方が経済的だ。

 それに、甲板もみんなが忙しいそうだし、リカルドたちは会議なら、私は邪魔にならないように部屋にいた方がいいだろう。

 リカルドが私を見てうなずいた。


「わかった。じゃあ、鐘が鳴ったら、食事に来てくれ」

「はい」


 リカルドが私を送ろうとしてくれたので、私は彼を見上げた。


「一人で戻れますよ?」


 するとリカルドが困ったように言った。


「あ、ああ。そうだよな……すまねぇ……じゃあ、また後で」

「はい」


 私はリカルドと食堂で別れて、自分の部屋に戻った。

 そして部屋に着くと、私は書店でリカルドに買ってもらった本を荷物の中から探した。

 城にも図書館はあったが、ほとんど実用書ばかりで小説のような本は置いてなかったので、小説を読むのは久しぶりだった。

 ちなみに昨日の夜はなんだか落ち着かなくて読書という感じではなかったのだ。

 

(久しぶりの小説楽しみだな……)


 荷物の中から本を探していると、鐘の音が鳴った。

 きっと二番目の食事をするグループの集合の合図だろう。

 そんなことを思いながら本を探したが、見つからない。


(……あ、もしかしてリカルドの荷物の中かな?)


 よく覚えていないが……書店を出る時、私は手に本を持っていなかった気がする。もしかしたら、木箱に私の本も入れてくれたのかもしれない。あの日はどこかふわふわしていたので記憶が曖昧だ。

 私はすぐに時計を見た。


(まだ食事が始まったばかりだから会議は始まっていないよね……)


 今はまだ食事中の人たちもいるので会議は始まってないだろう。

 私はリカルドに『本を取ってもいいか』聞きに行くことにした。





 甲板に向かうと、すぐにリカルドを見つけた。呼びかけようとしたが、すぐに目が合い、リカルドが大きな声を上げて、こっちに走って来てくれた。


「イリスさん!? どうした?」


(すごい、あんなに軽々と……)


 私は軽く手すりを使って飛び降りて、目の前に舞い降りたリカルドに見惚れていたが、急いで意識を彼に向けた。


「本を読もうと思ったのですが……リカルドの買った本と一緒に入れてもらったので……私の買ってもらった小説をいただいてもいいでしょうか?」

「ああ、そうか。悪いな!!」


 リカルドは、甲板の上を見上げて叫んだ。


「ガイ!! 悪いが、少しこの場を離れる!!」


 ガイがこちらを見て叫んだ。


「ああ、わかった!! こっちは問題ない」


 リカルドが私を見て笑った。


「行くか」

「はい」


 リカルドに手を差し出されたので、彼の手を取った。

 彼の手は大きくてあたたかい。私はすでにこの手のことを愛おしいと思っていた。

 そして、少しだけゆっくりと歩いてリカルドの部屋に行くと、リカルドが釘を抜く道具を持って木箱を開けてくれた。


(そうか……木箱は……釘でフタがしてあるんだ……)


 こっちの世界では段ボールやガムテープのようなものはなく、大抵は木箱やフタ付きの箱に入っている。

 私の洋服は全て箱に入っていたが、本のように重い物を運ぶ場合は木箱を使うようだ。


「開いたな……さて、と……どれだ……」


 リカルドが、木箱の横に座り込んだので、私もすぐ隣に座った。


「これでもねぇ、これじゃねぇし……」

「あ、これです」


 私が本を手にしてリカルドの方を見た瞬間、目の前にリカルドの紺色の瞳が見えた。

 まるで吸い込まれそうな深い紺色が美しく、しばらく動けなくて見つめ合っていると、リカルドの唇がゆっくりと動いた。


――キスしてもいいか?


 音のないサイレント映画のようにリカルドの唇が動き、耳ではなく心で内容を理解して、ゆっくりとうなずいた。

 するとさらにリカルドの整った顔が近づいて来て思わず――目を閉じた。


 その後、おでこに柔らかさを感じた。


(おでこ……?)


 目を開けると、リカルドに再び熱を帯びた瞳で見つめられた。


――もう一度してもいいか?


 またしてもゆっくりとリカルドの唇が動き、私は再びうなずいて、目を閉じた。

 今度は頬に柔らかさを感じた。

 

 パサリと私の手に持っていた本が、再び木箱の中に落ちてしまった。


 そして柔らかさ感じた頬と反対側にあたたかさを感じて目を開けると、リカルドが私の頬に手の平を付けて、愛おしそうに見ていた。

 リカルドの手の触れている場所が――熱い。


 あ互いの視線が重なり、耳のすぐ近くに心臓があるように感じるほど大きく聞こえる。

 再びリカルドの顔が近づいて来た。

 目を閉じようとした時、リカルドの手がゆっくりと離れて行った。


 そしてリカルドは、きつく拳を握った後に、私が木箱の中に落とした本を拾ってくれた。

 さらに2冊と共に合計3冊の本を私に手渡してくれた。


 そしてリカルドが立ち上がると、私に背を向けたまま言った。


「この続きは……ちゃんとイリスさんの気持ちが俺を向いてくれてからにするから……」


 リカルドは、そう言うと私を見た。


「すまな……」

「あやまらないで!!」


 気が付けば私は声を上げていた。


「お願い、リカルド……あやまらないで……」


 なぜこんなことを言ったのか自分でもわからない。

 でも、謝罪は聞きたくなかった。

 どうしても……聞きたくなかったのだ。

 始めは驚いていたリカルドだが、私を見て笑った。


「ああ、じゃあ、またあとで」


 リカルドは、そのまま部屋を出て行った。

 彼のいなくなった後、私は思わず持っていた本を抱きしめていた。

 その後私は、自分の部屋に本を持って戻ったが、小説を開いては閉じ開いては閉じを繰り返し、結局1行も読めなかったのだった。




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