11 王都でのお食事
そして陽が傾いた頃、私たちはあの超一流レストラン『ディルッソ』に到着した。
(初めて側で見たけどすごい……)
私は外観ですでに圧倒されていた。
だがリカルドは臆することもなく、堂々としてエスコートしてくれるので、本当に頼りになる。
(リカルドって、やっぱり伯爵様なんだな……)
なぜだろう、レストランでの堂々とした佇まいを見て、私は心からリカルドが伯爵様なのだと納得した。
「お待ちしておりましたこちらへどうぞ」
このお店はどうやら、完全個室のようで私たちは上等な黒服を着た男性が案内してくれた。
「こちらです」
「ああ」
リカルドは、彼に心づけをスマートに渡していた。
(チップとは別に個人にも渡すの??)
高級なお店では、チップも料金に上乗せするものだと聞いているが、高位貴族はテーブルサーブスタッフにも渡すと聞いたことがある。
(伯爵家ってそういう地位なんだ……)
私は伯爵家の格の高さを思い知った気がした。
椅子に座ると、目の前には2席の空席があった。
私は隣に座っているリカルドを見た。
「他にも誰かいらっしゃるのですか?」
リカルドは、はっといて慌てて口を開いた。
「ああ、悪い!! 浮かれてて、言ってなかったな!! 実は……」
リカルドの話を遮るように、扉がノックされた。
「お連れ様がお着きです」
そう言って扉を開けて、私は驚いてしまった。
「お父様、お母様!!」
「イリス!! 結婚おめでとう!!」
「突然で、びっくりしたわ!! でもよかった、おめでとう」
両親が部屋に入って来ると、リカルドが音もなく立ち上がり、二人の前に出て手を差し出した。
「リカルド・ラーンです。この度は、ご足労いただき誠に感謝いたします」
両親が慌てて手を出した。
「いえ、秘書の方から結婚までの経緯はお聞きしましたし、そちらからの誠意は有難く頂戴いたしました」
(誠意?? 一体、何のことだろう?)
私も遅れて立ち上がると、父が今度は私を見ながら言った。
「話は全て、リカルド殿の側近の方から聞いた。よい方とのご縁があってよかったな」
そして母が私を見て微笑んだ。
「ええ、本当に素敵な方だわ」
私の領は道具の制作がメインの領なので、で兄主導で生産して、使い方などの説明や販売やメンテナンスを父と母は王都で行っている。
(両親には手紙で報告しようと思っていたけれど……リカルド、忙しいはずなのに動いてくれたんだ……どうしよう、すごく嬉しい!)
リカルドが両親にすでに話をして、ここに呼んでくれたことが嬉しくて泣きそうになってしまった。
忙しいだろうと思っていたので、両親へのあいさつをこんなに早くにできるとは思ってもいなかった。
「私からも直接謝罪をさせてください。このような急な結婚になったことをお詫びいたします」
リカルドが丁寧に頭をさげた。
「伯爵、どうか頭を上げてください」
父が慌てて声を上げた。
母も「うん、うん」とうなずいた。
「本当に良い方とご縁があってよかったわ」
(二人共、この結婚を受け入れてくれたんだわ……よかった……)
ラーン伯爵家は様々な家に借金があるというのは社交界では有名だ。
両親も知らないはずはないだろう。
だから、どうやって伝えようかを悩んでいたのだが……
(秘書の方が伝えてくれてよかった……ところで秘書って誰かな?)
みんなで席について他愛ない話で盛り上がっているので、『秘書とは誰なのか』聞けなかった。
後で聞こうと思って、会話に集中した。
リカルドは本当に話題も豊富で、両親の仕事のことも良く知っているようだったので話も尽きることがない。
それから、4人で和やかに食事は進んだ。
美味しいと評判だったが、本当に美味しかった。
食後のお茶を飲みながら、母がリカルドを見ながらしみじみと言った。
「どうぞ、リカルド様。この子を幸せにしてやってください」
リカルドは、少し考えた後に眉を下げながら答えた。
「申し訳ございません。私は『幸せ』っていうのは《《具体的》》に、《《どのような状態》》なのか明確に答えることができません。どうなったらイリスさんが幸せだと思えるのか、はっきりとはわかりません。だから、私にできること……彼女を大事にします。それを約束します」
リカルドの言葉を聞いて、母はポカンとしていたが、父は「はは」と笑った。
そしてリカルドを見て笑った。
「確かに、幸せというのは人によって感じ方が違うように思いますね。いつだったか、私が妻に美しいと思った花束をプレゼントしたのですがね」
「あなた!!」
母が慌てて声を上げた。
一体、何の話だろうと思っていると、父が昔を懐かしむように言った。
「はは、もう昔のことだろう? いいじゃないか、リカルド殿に同じ間違いをしてほしくないからな」
「リカルド様が、あんな非常識な間違いをするわけがないじゃない!!」
母が不機嫌そうに言った。
だがリカルドは食い気味で父に尋ねた。
「ぜひ、聞かせてください」
真剣な顔のリカルドに根負けして、母が口を閉じると父が話を続けた。
「ええ。実は私が妻に贈った花は、死者に贈ると言われる供花だったらしいのですよ。花言葉は、安らかな眠りだったそうで、妻は『私と別れたいってことなの!?』と言ってかんかんに怒り、3日間も口を聞いてもらえませんでした」
「え? 3日も!?」
リカルドが目を大きく開けて驚いた。
「はは、ええ。私は美しい花を贈ったら彼女は幸せを感じてくれると思ったのですが、妻にとっては幸せどころか絶望だったようです」
「なるほど……」
「本当に個人の幸せなどわからない。娘を大切にすると言って下さる方が私としては心強いですな」
「イリスさんに花を贈る時は気を付けます!!」
リカルドが力強く言った。
そして父がリカルドを見て真剣な顔をした。
「どうぞ、娘をよろしくお願いします」
「はい」
そして、私たちはレストランを出た。
馬車に乗る両親を見送ると、私はリカルドを見上げた。
「ありがとうございます。ずっと気になっていたので……」
リカルドは私を見て眉を下げた。
「いや、本来なら結婚を申し込んで、ご両親に了解を得て、それから入籍するっていうのに、順番が逆になっちまった。せめてすぐに報告したかった」
リカルドの真剣な瞳を見て私は本当にかっこいいと思った。
「いつ両親に伝えてくださったのですか?」
「ああ、昨日のうちに早馬で報告して、今朝、ロダンに説明に行ってもらった」
私は食堂で見たロダンを思い浮かべた。
「ロダン様……あの方はリカルドの秘書なのですか?」
「え? ああ、そうだな……こういう場合、ロダンか、ガイ。そして、ライドの誰かが俺の秘書と言って行動してくれるが、明確な秘書っていうは特にいねぇな。動けるヤツが動くって感じだからな」
なんだかリカルドらしいと思えた。
「ガイ様にお会いしたことがありますが、ライド様にはお会いしたことがありません」
「え? あ、ああ。そう言えば、あいつは食事時はテーブルにはいないからな……今度紹介するな。ふぁ~~さぁて……」
帰るのだろうかと思っていると、リカルドが私を見て微笑んだ。
「軽くなんか食べて帰るか?」
「え?」
「顔に食った気がしねぇって書いてある気がするんだが?」
「そんな!!」
確かお料理は美味しかった。
どれも素晴らしくて文句など何ひとつない。
だが……
(確かに、なんだろう、食べた気がしない……)
「はは、運河の近くに上手い麺の店がある。そこに行こうぜ。半分のサイズもあるから」
「……ありがとうございます」
私たちは顔を見合わせて笑うと、馬車に乗り込んでスープパスタのような麺料理を食べて船に戻った。
『ディルッソ』のお料理はもちろん美味しかったのだが、このスープパスタもとても美味しくて、食べながら『あ~幸せだな』と思ったのだった。




