無遠慮な一歩
「お疲れ様です!逃げのタイガさん!」
「…逃げ?」
迷宮から帰ってきたら、リケちゃんの口から不穏な単語が飛び出した。
え?待って…それが二つ名か?俺の…
いやいや、嘘デスよね?ね?
「みなさん(竜逃げ)のタイガって言われてるみたいですよ?凄いですよね!竜から生きて逃げ切るなんて!」
「ソウデスカーハハハ…」
うーん…なんとも言えないな…
素直に喜べない…なんとなくで遠い目をしてしまう。
別にいいんだけどさあ、もうちょっとなんかないかなー。
あのクソ野郎を倒した訳じゃないから仕方ないか…ハァー…
竜種許すまじ…殺す!
決意を新た食堂で食事をしていた。
するとよく知る人物が気配察知に引っかかった。
こちらから謝りに行くべきなんだろうけど…気まずくて行けなかった人物だ。
怒ってんのかな?怒ってなかったらいいなぁー。
あんな事言っちゃったしな。
「……………」
無言で俺の隣に腰を下ろした。
無言で来られるとちょっと気まずいんですけど?カトラさん?
どうしたもんかな、これ。
「…あの時はあたってすまなかった。」
そう言いながら自分の器をカトラに差し出した。
謝りながらいつもどうりするしかない。
来てくれたのなら話くらいは聞いてくれるよな?多分。
「……………」
腕を組んで、今だに無言のままだ…
どうしよう…
気の利いた事とか俺には無理だぞ?
期待すんな、な?
えー、冷や汗出てくるんだが…
「…………お前に頼みがある…」
お?やっと口を開いてくれた。
助かった…
しかし、頼み事か…珍しいな。
「おお!出来ることならいいぞ!」
まあ、なんだかんだここで話し相手になってくれてる、そこそこ付き合いも長くなった。
信用しているし、困ってるなら手を貸すくらい問題ない!
任せろ!
「…俺もいつか冒険者を引退する時がくる!」
「おお?おん。」
いや、お前俺より若いだろ?
ピチピチじゃん…何いってんの?
「そしたら…やっぱり俺も女だ、子供が欲しい!」
「まあ、そうだな…」
あーそ言う事もちゃんと考えてんだな…
そりゃそうか、普通は。
「その時は手伝ってくれ!一緒に居てくれとは言わねーからよ!」
ん?
え?
なんて言った?
冒険者を引退する時がくる、俺も女だ、子供が欲しい、手伝ってくれ?
………
え?
「いや…いいのかよ…俺で…」
「お前がいい!」
…かなり男前な事言われてます…
えー、いや…えー
いきなりだな…えー、えーと…
嫌じゃない…それだけ分かってればいいか?
どうなんだろ…
いや、それだけでいいだろ。
「分かった…」
「本当か?ハッハッハ!言ったな!逃がさねーからな!ハッハッハそうかそうか!いいならいい!ハッハッハ!ウメーなこれハッハッハ!」
嬉しそうに飯、食い始めた…
いいのかそれで…お前さんは…
まあ、本人が良ければいいのか。
強いな…コイツは、在り方が強い。
そう思う。
そんなコイツに好かれた部分が、俺にあるのが嬉しいな。
何処か分かんないのが残念だけど…仕方ない。
なんとなくだけと…カトラのこうやって無遠慮にこっちに踏み込んでくる一歩に、何度か救われてる気がするな…
死ねない理由ができちまった。
悪いことではない、嬉しそうなカトラの横顔を見てるとそう思う。
一緒に暮らすかどうかはその時になったらでいいか…
こっちが暮らす気でいても、嫌がられるかもしれないしな。
物理的に尻に敷かれそうな雰囲気があるけど…まあ、悪くないんじゃない?多分。
その日は、会話こそ多くはなかったがいつもより明るい時間が流れている気がした。




