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可愛いあの子は。  作者: ましろ
第一章【ヴァレリー編】
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4.時期外れの転入生(4)


A組での出来事はあっという間に学園中に広まりました。

羨ましいと囁く声、フィリス様をはしたないと貶す声。そして、婚約者としてディーン様とフィリス様のあの様な行動を抑えることができなかった私を嘲笑う声。


やはり、学生とはいえ貴族としては許されざる行動だということなのでしょうか。

父には、もうなってしまったことはどうしようもないし、学生時代の戯れだと許される範囲だろうと、なんともいえない言葉を貰ってしまいました。

お父様は基本的に王家の内情を、たとえ父であろうとも語るべきではないというお考えです。

分からないこと、不安なことは、まずディーン様に相談するようにと、これまでも幾度か(たしな)められてきました。

確かにそれは理解できます。でも、ディーン様に頼りきりでいるのはどうしても恥ずかしく、できるだけ自分で解決したいと、烏滸がましくも思ってしまうのです。


それから、表面上はフィリス様は学園に馴染み、勉学も真面目に勤しんでおられます。授業態度にも問題はなく、友人も増えたみたいです。


ただ、気になる点があるとすれば、人との距離が少しだけ近いことでしょうか。

会話中に相手の顔をのぞき込んだり、用がある時に軽く相手に触れるなど。

ただ、これは本人も気を付けようとはしているようで、やってしまった後できちんと謝罪をするのです。


あ、ほら。


「すごいです!ヴェラ様はどうしてそんなにも美しいステップが踏めるのですか?!」


興奮しながらヴェラ様の手を握り、


「じゃない!すみません、勝手に触れてしまって」


慌てて手を離し謝罪をしています。

どうやら興奮すると男女構わずボディタッチが増えるようです。


「もう、フィリス様ったら。そのように気軽に触れてはいけませんよ?」


普段は気難しいヴェラ様がフィリス様のミスを笑顔で許していました。


「すみません~。だってとっても素敵なのですもの。言葉だけでは伝え足りなくてっ!語彙力を増やさなくてはミスが減りませんね」

「ふふっ、フィリス様はどうも憎めないわ」


周囲にいる人達も皆楽しそうに笑っています。そんな光景に違和感を覚えるなんて……。


「ヴァレリー、どうしたんだい?」

「あ、いえ。フィリス様がすっかりとクラスに馴染めたなと感心していましたの」

「本当にね。彼女も苦労しているだろうに、まったくそういう姿を見せないから。凄いと思うよ」

「……そうですね」


でも、はしたなくも大きく口を開けて笑っていますよ?これが王子妃教育の先生ならばきつく叱られているでしょうに。

私はフィリス様の自由な行動がどうしても気に掛かり、何故皆様が微笑ましく見ているのかが理解できませんでした。



◇◇◇



生徒会での仕事が終わり、ディーン様と歩いているとフィリス様がいらっしゃいました。


「フィリス嬢、今帰りか。ずいぶん遅いな」

「ディーン様にヴァレリー様も。今まで生徒会のお仕事ですか?」

「ああ。君は?」

「そろそろ試験がありますので、図書室で勉強していたらこんな時間になっていました」

「まあ、立派だわ」

「だが、あまり遅くなるとご両親が心配するぞ」

「……そうなんですよね。急いで帰ります」


何となく、いつものフィリス様とは雰囲気が違う気がしました。


「何かあったのか」


やはりディーン様も感じ取ったのでしょう。


「あー……。何でもないと言っても信じてくれないですよね」


どうやら彼女は嘘が下手なようです。本当に貴族としては致命的です。この程度の腹の探り合いなど、上手く躱せるようにならなくては今後困ってしまいますわ。


「よし。話してみなさい」

「え!嫌ですよ」

「王子に向かって嫌と言うな」

「学園では王子は関係ないと言ったじゃないですか」

「そうだな。だが、友達だろう。解決はできなくても話くらいは聞いてやれる。な?」


……どうして?どうしてディーン様がそんなにも優しい声で……

ディーン様はいつもお優しい。でもこの優しさは、いつもの分け隔てない優しさとは違う気がするのは私が気にし過ぎなだけなの?


「……ディーン様、駄目ですよ」


フィリスが小さな声で諭しました。


「何がだ」

「キラキラ王子様にそんなに優しくされたらよろめく乙女が現れちゃいます。しっかりとご自覚なさいませ」

「なっ、私はただ!」

「私はパトリシア王女ではありません。……私はもう誰の身代わりにもなりたくない」

「!」


普段とは違う、フィリス様の凪いだ瞳がディーン様を突き放しました。


「……なんて冗談です。お先に失礼いたします」


その時、初めて彼女を見た気がしました。

そして。ディーン様はその後、別れの挨拶以外は一言も話さずに馬車に乗って帰っていかれました。




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