12.変えられなかった結末
結局、エディとヴァレリー様は婚約解消することになった。信じられないことに、ヴァレリー様は本当にエミル・サージェントを選んだのだ。
エディへの愛はどこに行ったの?と、首根っこを捕まえてガクガク揺さぶって尋問したい。
「どちらにしても、一度白紙に戻さないとどこにも進めないから」
そう言われてしまうと納得するしかないけれど。
でも、エディが私を選んだかのような発言をしたことが腹立たしかった。
狸と狐はさも辛そうにしているから思わず笑ったら怒りやがるし。そんなくだらないお芝居に参加しているエディを見て、この人もしっかり王族なのだなと少し悲しくなった。
ヴァレリー様は結局何も知らないままだ。
この別れが周囲の大人達に作られたものであることに気付いていない哀れなお姫様。
婚約が無くなればヴァレリー様に話していいと言われていたのに、彼女は逃げてしまった。
……弱虫って言ってしまったわ。
「フィー!」
「パティ。どうしてここへ?」
「あなたにお別れを言いに来たのよ」
「……どういうこと?だって、あなたの嫁入りの周知なんてされていないわ」
「そうね。私は留学生として行くの。そこで陛下と恋に落ちる予定よ。目指せ!できちゃった結婚?」
「………なによそれは」
「どこも王族は面倒くさいってこと。子どもを作らせたくない連中がいるみたい」
……じゃあ、あなたは結婚もせずに抱かれるつもりなの?
「パティ。私はあなたが幸せじゃないと嫌よ」
「ええ、任せて。こうなったらバンバン子供を産んで妻になって、私を一番に愛するようにしてみせるわ」
そんな晴れやかな笑顔を見せられたら止めることも出来ないじゃない。
「手紙、届く?」
「もちろん。私も書くから。……メイ、幸せになろうね」
幸せになって、ではなく、幸せになろうという言葉に胸が熱くなる。
「……あなたっていう心強い味方がいるんだもの。絶対に幸せになってやるわ」
「楽しみにしてる。ヴァレリー様にもね、本当の事を伝えておいたから。後でもう少し詳しく話してあげてよ」
本当のこと?
「兄様とフィーは友達だってこと!」
「……ありがと。信じてくれるかなあ」
「どうかしら。でも、それが本当でしょう?」
「もちろんよ」
一度壊れたものは元には戻らない。
それでも。
「もし終わるにしても、エディとヴァレリー様はちゃんと話をするべきだわ」
あんな、国や大人達の勝手な思惑で終わるだなんて許されるべきじゃない。
「あと、サイクスの王女には気を付けてね」
「うん。お友達になれるといいけど」
「………フィーは大物ね」
「だって全部が腹立たしいから」
表舞台ではヴァレリー様が道化のように恋物語を演じさせられ、裏ではパティが国のために売られていく。エディは契約に縛られて婚約者を失い、私の命は軽んじられる。
国のためと言いながら、どうして私達だけがこんな思いをしなくてはいけないの?
「絶対に陛下をギャフンと言わせてやるわ」
「ふふっ、楽しみにしてるわね」
泣き寝入りなんてしてやらない。
だって。
『私はエスメラルダ王女を味方にする』
エディだって本気だから。




