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可愛いあの子は。  作者: ましろ
第一章【ヴァレリー編】
3/36

3.時期外れの転入生(3)


「今日から君達と共に学ぶことになったムーアさんだ」

「はじめまして、フィリス・ムーアと申します。半年前まで平民として暮らしていました。

至らない点が多々あるかと思いますが、早く覚えられるよう努力します。仲良くしてくださると嬉しいです」


私達にした時と同じ、何とも正直な挨拶です。

彼女にとって平民として育ったことは汚点では無いのかもしれません。


休み時間ともなればフィリス嬢の周りにはたくさんの人が集まって来ました。


「私はポーリーン・ケンプです。これからよろしくね」

「私はステイシー・カーシュよ」

「よろしくお願いします。ケンプ子爵令嬢にカーシュ伯爵令嬢ですよね?」

「あら、凄いわ。ちゃんとご存知なのね」


少し失礼な言い方ですが、確かに驚きました。貴族名鑑が頭に入っているようです。


「ふふっ、少しズルをしてしまいました。職員室で先生にクラス名簿を見せていただいたの」

「まあ!でも、それですぐに覚えたのならやっぱり凄いわ」

「ありがとうございます」


明るくて笑顔の可愛いフィリス嬢はどうやらクラスに受け入れられたようです。


「フィリス嬢、少しいいか?」

「はい、どうされました?ディーン様」


ザワッ。

突如教室の空気が変わりました。


「ああ。後で学園内の案内をしようかと」

「ディーン様。それでしたら私がフィリス様をご案内します。女性同士の方がいいですもの」

「そういうものか?」

「そういうものですよ、それでいいかしら。フィリスさん」


そんな私達の会話をフィリス様が訝しげにしながら、


「……あの、もしかして、やっぱり殿下をお名前で呼ぶのはよろしくないのではありませんか?」


とってもストレートに質問してきました。

もう少し……こう、包んでくださると……


「バレたか。中々誰も私を名前で呼んでくれないからな。君に頑張ってもらおうと思ったんだ」

「酷いですわ!嘘吐きは憲兵に連れて行かれちゃうんですよ?」

「憲兵に?王子の私が?」


そんな会話にクラスの皆が驚愕しています。

だって王子殿下が憲兵に捕まるだなんて、冗談でも言っていいことではありません。


「そうか、そうだな。誰であっても嘘は良くない。だが、学園でくらい友に名前を呼ばれたいと思うのは駄目なことだろうか」

「うっ、えっ、そんなっ……そんなお綺麗な顔でションボリなさらないでっ!

えっと、それなら!クラスの皆様が殿下をお名前で呼ぶならば私も呼ばせていただきますっ!」


……は?一体何を……


「いいな、それ。では、皆もそれで頼む」

「「「えっ」」」


もう皆、真っ青です。


「大丈夫ですよ、ケンプ嬢、カーシュ嬢。皆で呼べば怖くありません!」


誰かこの子を止めて!たぶん、クラス皆の心が一つになったと思います。


「ああ、いっそのことA組はお互いを名前で呼び合おうか。学生時代のよい思い出になりそうだ」

「まあ、素敵ですね。皆様、いかがですか?」


誰も嫌とは言えず、呆然としながらも、「畏まりました」と呟いておりました。


ディーン様とフィリス様だけが嬉しそうに笑い合っています。


……何これ……こんなディーン様を私は知りません。

こんな子供の悪戯のようなことをして、嬉しそうに笑っているなんて……。

なぜか、酷く裏切られた気分でした。


その日は、皆がギクシャクとしながらも名前呼びを頑張り──


「フィリス嬢、ありがとう。何だかクラスの皆と前よりも仲良くなれた気がするよ」

「そうね。殿下をお名前で呼ぶなんて緊張するけれど、こんなことが許されるのは学生の間だけだもの。こんなにも光栄なことはないわ。お父様に自慢してしまったわよ!」


翌日にはフィリス様に感謝を述べる生徒が多くいました。


「いえ、皆様を巻き込んですみませんでした。でも、仲良くなれたなら嬉しいです」


少し照れ臭そうに笑う姿は何とも心温まる表情で。

どうやら彼女は私の助けなど無くてもクラスに溶け込めたようです。

これは喜ぶべきことでしょう。

それなのに……なぜか、私は不安になりました。

何か、何かが変わってきている。これは本当にいいことなの?

私にはどうしても分かりませんでした。





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