13.変わりゆく関係(4)
王宮というものはどうしてこうも威圧的なのかしらね。
私が小心者なだけかしら。でも、目の前には王妃様がいるし、威圧されても仕方がないかも。
「来てくれてありがとう。最近、あなたとゆっくり話しをする時間がなかったでしょう?」
「そのように言っていただけて光栄ですわ」
胃が痛くなるので早めに本題に入ってくださらないかしら。
ティーカップをソッと持ち、お茶を一口飲む。
あ~、美味しいわ。でも、ゆっくり飲まないと、場繋ぎのために飲みまくってお腹がチャポンチャポンになってしまいそう。
「ディーンとは最近どう?仲良くやれているかしら」
……それは、仲良くやれていないのを知っているぞ、という脅しですか?それとも、仲良くできていないことに気付いていない阿呆め、という嘲りか。
「どうでしょうか。私はディーン様を大切に思っておりますが、まだまだお役に立てておりません。ですから、もっと努力せねばと」
「……ヴァレリー。役に立つとか、そういう話がしたいわけではないの。
あなた達はいずれ夫婦になるのよ?一番に考えることが役立つかどうかだなんて少し寂しいわ」
「……申し訳ございません」
役立つことの何が悪いのか。でも、違うと言われたら正すしかない。
「いえ、謝ることではないわ。私がそう思っているというだけよ」
そんなふうに意見を翻されると本当に困ります。
「あなたは本当にこういった会話が苦手ね」
「申し訳「違うわ。謝罪させたいのではなくて」
王妃様に言葉を被せられて少し驚きました。会話のマナーとしてはやってはいけないことの一つですもの。
「私はあなたの本音が聞きたいのよ」
……何それ。本音なんて軽々しく他人に晒すものではないでしょうに。
「私は嘘偽りを申しているつもりはございません」
「そうね。忖度しているだけね?」
それの何が悪いのか。だってあなたは王妃様よ。忖度するに決まっているでしょう?
「あなたはディーンに対してもそうなの?」
YES?それともNO?どれが正しいの?!
「ヴァレリー。淑女教育で感情を制御するようにと習ったでしょう?」
「……はい」
「あれはね、感情を殺せとは言っていないの。自分の感情のままに行動するのではなく、理性を持って対応しなさいと教えているのよ。感情の全てを仮面の下で押し殺す必要はないの」
「……私は理性を持って対応できていませんか」
まさかそんな初歩的なことを言われるだなんて!
「……あなたと話していると独り言を言っている気分になるわね」
「え?」
「何を聞いても、左様ですか、王妃様の心の赴くままに。そんな言葉しか返ってこない。
私が、意見を言ってね、あなたはどう思う?と問い掛けても、いえ、私などと謙遜する。
ただの貴族同士の会話なら間違ってはいないでしょう。でもね、私は王妃としてではなく、あなたの義母になる人として、家族として話したいと思っているの」
家族として?……そんな、だって、それでもあなたは王妃様なのに。
「貴族は、ましてや王族は、確かに相手からどう見られるかを常に意識しているわ。相手の気持ちをしっかりと見極めて不利益が出ないよう慎重に動かなくてはいけない。
でもね?だからこそ、家族や夫婦くらいは本音で語り合いたいと思うのよ。
そうでないと、私という人間がどこにいるのか分からなくなる。
夫婦でいる意味とは、役立つことではなく、本音で語り合える、信頼できる関係であって欲しいと私は思っているわ」
本音で語り合える?……まさかそれはフィリス様のことを言っているの?私ではなく、あの子ならと、
「……私では……お役に立ちませんか」
「ヴァレリー。私が言葉を発して、すべてに『はい』と答えるだけならオウムで事足りるの」
「……私はオウム以下ですか?」
ここまで悪しざまに言われたのは生まれて初めてです。心臓がバクバクと暴れているのに、頭はキンッと冷えるような……
「あなたが信頼のおける人であり、家族でいてくれることを願っているわ。
ディーンを崇めるのではなく、対等に隣に立つものになってほしい」
いずれ臣籍降下するのだからと言うお父様と、王族と対等な立場となれと言う王妃様。
どれが正解?私はどうすることが……
「……承知いたしました。誠心誠意努めてまいります」
「そう。それがあなたの答えなのね」
王妃様はそれだけ言うと、挨拶もなしに退室されました。
……ほら。そんな態度が許されるくせに。
どうやって対等でいろというの?
「もう……全部分からないわ」




