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可愛いあの子は。  作者: ましろ
第一章【ヴァレリー編】

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10.変わりゆく関係(1)

何となく心にモヤモヤしたものが残ったまま、それでも朝はやって来る。それもここは王宮だ。ずっと気が抜けないことが地味に辛い。


……また、王妃様達と朝食を共にしなくてはいけないのよね。

思わずため息が出そうになるのを何とかのみ込みました。


「お支度が整いました」

「ありがとう、では向かいますね」


用意していただいたドレスは私の瞳に合わせてくれたようだ。綺麗な瑠璃色の生地は品があり、スッキリとしたデザインで美しい。


少し気分が上がったかも。


女はいつだって美しいモノには弱いものよね。


「ヴァレリー様!」


食堂には、すでにフィリス様が座っていました。


「おはようございます、フィリス様。お体はもう大丈夫なのですか?」

「はい!あの、昨日はご迷惑をお掛けして本当に申し訳ありませんでした」

「私のことはいいのよ」

「よくないです、全く良くないですから!」


朝から元気だわ。この子を見ていると何ともいえない気持ちになる。

だから、クラスメイトのように彼女を手放しで認めることができない。でも、それがなぜなのかはよく分からないのです。


「分かったわ。謝罪は受け入れます。でも、まだ休んでいなくてよかったの?昨日はずいぶん辛そうだったのに」

「だって病気ではありませんし。思い出しちゃったらスッキリしました」


……やっぱり思い出したのですね。


「あの、私の事はどこまで聞いていますか?」

「……パトリシア王女殿下のお友達として王宮に招かれたこと。湖に遊びに行った時に、王女様と間違われて誘拐されたこと。……ディーン様とも仲が良かったこと、かしら」


この子があざといと感じるのはこういう所だわ。

礼儀を払っているようで、でも、こちらの反応を伺っているかのような微妙な質問。

それとも、そうやって勘繰る私の心が汚いの?


「でしたらそれで全てです」


それ以外の答えは無いと言わんばかりに、真っ直ぐに澄んだ瞳を向けられればそれで終わりです。


「……そう。分かったわ」

「いいのですか?何も聞かなくて」


これにはさすがにカチンと来ました。自分でそれが全てだと言っておきながら、どういう了見なの?

苛立つ気持ちを抑え、ニッコリと微笑む。


「ええ。だって大切なクラスメイトの言葉ですもの。信じていいでしょう?」

「ヴァレリー様は難儀なお方なのですね」

「…そうかしら。初めて言われました」


難儀って……面倒な奴だと言いたいの!?


「ふふ。仲良しのクラスメイトですもの。このくらいの軽口は許されますよね?」


私がフィリス様を敵認定した瞬間でした。




「フィー!」「フィリスちゃんっ!」


私達が笑顔のまま膠着状態になって間もなく、王妃様と王女様がフィリス様を囲んで大騒ぎとなりました。


「ご無沙汰して申し訳ございません」

「もう!もうもうっ、何を言っているの?!」


なんと、あの気の強いパトリシア王女が泣き出してしまいました。


「ごめんなさいっ、私がお揃いのお洋服を着たいだなんて言ったからっ!」


そうだったのですね、服装まで同じにしていたから……、


「パティ。私は嬉しかったわ。お揃いのお洋服は淡いピンク色でお花の妖精みたいでとっても可愛かったもの。

そうだ!また衣装を合わせてみましょうか。今度はもう少し大人っぽいドレスにしちゃう?」


……とんでもない心臓の持ち主です。

誘拐された時と同じことをしようと言い出すこともですし、たかだか伯爵令嬢が王女様と同じ衣装を着たいというだなんて……。


「……もうっ、フィー大好き。帰って来てくれてありがとうっ」

「フィリスちゃん、本当によかった……、無事でいてくれて本当に良かったわ」


──こういう時、本当なら『よかったわ』『奇跡が起きたのね』と、貰い涙を流す場面なのでしょう。


でも、私にはどうしてもできません。

だって……こんなパトリシア王女を知らない。こんな王妃様を知らないもの。

ディーン様と婚約して4年にもなるのに、こんなにも心を許している姿を見るのは初めてなのです。


「泣かないでくださいませ。こうしてまたお会いできたんですもの。お二人の素敵な笑顔が見たいです。

なんせ7歳の私はお二人の笑顔を見て、『女神様だわ!天使さまも!』と舞い上がったような娘ですよ?」

「懐かしいわね。『キラキラしてます!』ってそれはもう嬉しそうにしていた幼い子が、今ではこんなにも素敵なレディーになったのね」


それは……学園の初日と同じ反応ね。

だからディーン様はあんなにも嬉しそうでしたの?だから突然名前で呼んでほしいだなんて言ったの。

それはもう、過去の思い出ではなくなったのでは?

ディーン様は今の彼女に改めて心を惹かれたのではないのでしょうか。


目の前には、王女様と王妃様に抱き締められて嬉しそうに笑う彼女がいます。


私があんなふうに心から笑ったのはいつだったかしら。


彼女を見ると胸がザワつく理由が分かりました。

フィリス様は、私がずっと昔に失くしたものを、今でも大切に持ち続けることが許されているから。

明るい笑顔。正直な言葉。どれもこれも、私はとうの昔にてばなしてしまったのよ。

それを見て、ディーン様達が心惹かれていくのが、私は……


私は、とっても悲しいのだ……。




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