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第71話:城塞都市


 あれだけ大きな音を出したのだから、気づかれない方がおかしい。

 城塞都市の門が開いた事で、私達は流れ込む様に都市に入っていた。


 門を超えて直ぐに降り、私は門の近くに立つ。


 次々に入って来る馬車。

 そして最後尾の馬車が過ぎると、門が閉まり始めた。


 その閉まる扉の向こうには、沢山の魔物が迫っている。

 氷の壁を上ったのか、氷の途切れている場所から馬車を追ってずっと走っていたのかは分からない。けれどあれだけ倒したのに、数が減った感じがしないのは間違いなかった。


 最後まで魔物が飛び込んで来ない事を確認した私は、門の閉まる音と共に振り返っていた。


「さてと……」


 騒ぎを聞きつけ出て来た街の人達が姿を見せ、城壁の上からは数人の兵士が降りて来る。


「あの……貴方方は、フィーランド領の方々ですか?」


「いえ、私達は帝国の者ですが、あちらの方は……」


 私と兵士の人がルイスさんの方を見る。


「フィーランド伯爵様!?」


 私の事など忘れたかの様に兵士の人が走り出した。その後ろには他の兵士も続き、街の方からも沢山の人が、馬車が降りたルイスさんの元に自然と集まり始めている。


 取引している身近な領地の貴族だもんね。

 顔を知られて……というよりは降りて来た馬車が目立っているのかも知れない。


 他の馬車と違い、扉付きはあの一台だけだ。


 そんな状況で姿を見せた子供達の輪から抜け出した少女が、おもむろに私の方に歩いて来る。

 あれ、真っすぐ私の方に……。


 近づいて来た少女が私を見て立ち止まった。身に着けている服は少し高そうに見えるも、短く切られた髪の毛先はバラバラで自分で切った様にも思えてしまう。


 そんな少女が少し大きな声を出した。


「あっ! やっぱりお菓子の人だ!」


「んっ!?」


 指を差されながらそんな事を言われてしまう。

 けど、私はまだお菓子を渡していなければ、帝国で見覚えも……。


 てか、普通に考えて王国に居る子なんだから、私が王国に居た頃の可能性が高いか。

 だとしたら本当に申し訳ないけど、私にそんな記憶力は……備わっていない。


「ごめんね。王都で会った子かな?」


 私は屈んでから少女に聞き返していた。


 城塞都市に来たのはこれが始めてになるし、戦場に子供が居たら流石に覚えてる。

 だとしたら、私が王都に滞在している間に出遭ったのだろう。


「うん。王都でお菓子くれたの」


「そっか。どれくらい前だったか覚えてる?」


「う~ん……分かんない。あっでも、知らない人からお菓子は貰っても、絶対に付いて行っちゃ駄目って言ってたのは覚えてるよ!」


「そうなんだ……」


 私が不審者なんじゃないだろうか。

 でもまぁ、一番重要な事は覚えてるのなら……問題ないと思いたい。


 後から降りて来たノエルさんは顔を逸らして笑っていた。

 もう、昔の私は何をしているのよ。


 せめてどんな流れであげたのかだけでも、知りたくなってしまう。


「また、お菓子くれるの?」


「勿論あげるよ、その為にいっぱい持って来たんだから」


 私がノエルさん達の方を見ると、積んでいたお菓子を一部降ろし始めてくれた。


「ほんと!?」


「任せなさい。お菓子の人は、お菓子に関しては嘘をつかないから」


 硬かった少女の表情が和らいでいく。

 このタイミングで聞くのは、本当に不審者みたいだけど仕方ない。


「ねぇ、名前教えてくれるかな? 私はクローディアって言うの」


「……うん良いよ! 私はマルレーネ。あっちに居る弟がマルレーンだよ」


 少女が向けた視線の先には、子供達の輪から少し離れた位置で壁に隠れる少年が居た。


「マルレーネちゃんに、マルレーンくんね。教えてくれてありがとう。それじゃマルレーンくんの所に行ってから、一緒に向こうでお菓子貰いに行こっか」


「うん! ん……お姉ちゃんも食べるの?」


 私は今、幼い声で甘い誘惑を受けている。


 けど……まだ駄目だ。

 この子達を、ルイスさんの街まで避難させるその時までは。


「私は良いから、皆で先に食べてて」


 マルレーンくんの方に近寄って、そっと話しかける。

 目元まで髪で隠れてしまいそうな程に伸び、少しボサボサした感じになっていた。


「お姉ちゃんから聞いちゃったんだんだけど、マルレーンくんだよね。私はクローディア、お菓子の人です」


 自分でも何を言っているのかと思うけど、仕方ない。

 マルレーネちゃんがそう認識してるのなら、この方が良いと思ってしまったのだ。


「お菓子……の人?」


「そう。向こうでお菓子配ってるの。だから、お姉ちゃんと一緒に行って食べよっか」


「ほら行くよマルレーン」


「あっ、待ってよお姉ちゃん」


 マルレーネちゃんがマルレーンくんの手を引っ張り、お菓子の方へ向かう。


 そんな二人の後を追った私は――皆の元に着いてから、積まれていた缶に入ったお菓子を手に取って、次々に子供達へと渡していた。


「いっぱいあるからね、はい」


「ありがとう……」


「どういたしまして」


 お礼を言った子供が走って行くと、次の子供達が立ちはだかる。

 それを他の団員と連携しながら、対応していた時だった――。


「どういう事だ!」


 少し離れた所から、ルイスさんの声が聞こえて来る。

 それも焦りが混じり怒った様な声だったので、私だけでなく子供達も振り向いていた。


 子供も居るのに何を怒っているのかと一瞬考えたが、相手はルイスさんだ。

 穏便にいこう。


「ごめん。私ちょっと離れるけど。皆で、お菓子食べてて良いからね。大丈夫、お菓子はもう皆の物だから安心して!」


 子供達に一言伝えルイスさんの方に近づいて行くと、周りには城塞都市の兵士だけでなく、街の大人達までもが集まって何やら話をしていた。


 そんな状況で近づいた私は、再びルイスさんの叫び声を耳にしてしまう。


「――だから何故、この街から出られないんだと聞いている!」


 その言葉を聞いた途端に、私の足は自然と止まっていた。



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