第70話:開門
魔物に追われている私達は、纏まって休む事も出来ず。
途中何度も休息を挟みながら、ひらすたら馬車を走らせていた。
――辿り着けさえすれば良い。
そうとしか思えない、無茶なやり方だった。それでも確実に距離が近づいているのは、一晩中休む事もなく頑張っている団員と馬車を牽引する馬達のおかげだ。
夜間に明かりを灯していた魔術師は道中で襲って来る魔物の対処も行い、昼を過ぎる頃には目に見えて疲れが見えていた。そんな中で私が魔物を探知すると魔術師ではない団員に伝え、馬車から数名が降りて待ち伏せする形で戦い、敵を倒して直ぐに馬車へと戻る。
全力で駆けていないとは言え、全体として馬車が止まるのは休息の時間だけだった。
この調子だと夕方前には城塞都市に着く可能性があるけど、到着と同時に団員だけでなく、無理をして走らせ続けている馬まで倒れてしまう。
そんな馬達には休息の度に水をしっかり与え、足の小さな傷であっても回復魔術を使える者が術を施し、少しでも癒しながら走り続けられる様にしていた。
「もう少しで、着くか」
「殆ど、一晩中走り続けますからね」
馬車から降り、身体を伸ばしていた私の元にルイスさんが来る。
「何だ、不満か?」
「団長として、ニコニコ出来ると思いますか?」
「だが、そちらも了承した事だ。不満そうな態度ならまだしも、グダグダ文句は言うなよ」
「分かってますよ」
ルイスさんの斜め後ろに向け手を伸ばし、作り出した氷の塊が飛んで行く。
「文句言うぐらいなら、私が全て倒しますから」
飛んで行った氷がコボルトを貫き、一撃で倒しきる。
「頼もしいな、その調子で頼むぞ」
魔術を放った手の指が僅かに震え、気づけば私は手を眺めていた。
「疲れたかな……」
走っても常に後ろを付いて来る奴を気にして、そろそろ丸一日になる。
それを考えれば魔力面で疲労しているというより、精神面の方が正直辛かった。
「後少し」
もうちょっとだけ頑張れば、辿り着ける。
***
そんな私の考えは、城塞都市に近づくにつれ薄れてしまう。
――捉えられる魔物の数が尋常じゃなかった。
まだ、先ではあっても確実に魔物の数が増えている。
それでも、引き返すという選択肢がない私達は前に進んでいた。
前に現れる魔物は私がなぎ倒し、
中央と後方は数が多ければ私の指示でアレクシスさんが駆けつける。
私とアレクシスさんが、もう一人ずつ居て欲しいと思ったのは初めてだった。
そしたら前後二箇所で、索敵と討伐を行えるのに。
「ブレンダさん、そのまま真っすぐお願いします」
ノエルさんが乗る馬車の御者はブレンダが引き継いでいた。
馬車が走り続けるまま茂みに隠れた敵を氷漬けにし、前方に現れ魔物に対しては氷で貫いた後に、道を塞いでいた魔物を一体ずつ風で吹き飛ばして進路を確保する。
暫く進み道が整備された区画に入ると同時に、私は城塞都市らしき場所を捉えた。
円形状に魔物が密集して、その中に点々と別の存在が残っている。まだ確実に人が生きている事が分かると共に、その周囲を囲っている魔物の数に頭を抱えそうになってしまう。
城門であろう街道の先には、百は超える魔物が居る。
それに加え、城壁に張り付いてない魔物も合わせると軽く数百は超えて、下手をすると一千に達してしまうかもしれない。
「多いな……」
突破するだけだとしても怪しい。
普通に考えれば、近くで止まって作戦を立てる所だけど……。
後ろに居るルイスさんは間違いなく否定するに違いない。
聞いた途端、突っ込めと無責任の事を言うのが目に見えてしまう。
ここはノエルさんに。
「ノエルさん城塞都市を捉えました。ですが、周りに魔物が居て進めるか怪しいです」
荷台を覗き込んだ私が手短に話す。
「ありがとうクローディア。そうだね、ここは……」
私が考えている様に、ノエルさんも一度止まってから作戦を立てるつもりなのだろう。
一瞬だけ考え込んだ様子を見せてから、私の方を向いた。
「そのまま行こう」
「えっ――」
まさか反対すると思っていたノエルさんが、予想に反した事を言って来る。
聞き間違いだと思いたいがここは戦場だ。
私が団長であっても、立場的に上にあたるノエルさんの指示は絶対である。
「門を破っても構わないから、このまま進んでくれるかな?」
「……はい。そうですよね、突撃ですよね。はい、分かりました! 任せて下さい!」
部下に拒否権はない!
ノエルさんがこのままと言うならこのままだ。
本当に突き破るつもりはないけど、それに近い攻撃をしないと魔物は退かせない。
ならやる事は決まった。
「ブレンダさん聞いた通りです、何が何でも突っ切って下さい!」
「承知いたしました」
一切の躊躇ないなくブレンダさんが返事をしてくれる。
私と違って、何とも頼もしい部下なのだろうか。
後ろに指示を出しながら、私達が更に進むと巨大な城壁が視界に入った。
しかし、進めば進む程にその周囲に居る魔物達も見え始め、馬車の走行音と戦闘の余波に気づいたのか一部の魔物がこちらに向かって走り始めている。
「クローディア団長。本当に……このままで良いんですね」
流石に不安を感じたのか、小さな声でブレンダさんが話し掛けてくる。
大勢の命が先頭の馬車を動かすブレンダさんの手に乗っている様なものだ。
間違いで、魔物の群れに突撃しましたじゃ笑えない。
「はい。大丈夫ですよ」
後は私が、第三騎士団の団長として切り抜けるだけだ。
「ちょっと上に居ますね」
荷台の屋根は、骨組みの上から布がかぶさっているだけになる。だから私は骨組みとして支柱がある場所に立つと同時に、足元から氷を張って身体を固定させていた。
「ふぅ……」
魔術書を出現させ前を見る。
馬車の上に立っている状態だから、いつもより高く、遠くまで確認出来ていた。
流れる風を身に受けながら、右手を前に突き出す。
「満ちる風よ――集いて冷気を纏いて、形を成せ」
馬車を纏うように風が動き、そこに冷気が加わった事で、目に見える巨大な風の槍が浮かび上がる。
道に合わせて左右に刃を広げる槍。
その両端からは、通り過ぎた地面を凍らせ続ける異常な量の冷気が流れている。
私は城門をしっかりと捉え、道に沿わせて魔力を一直線に通した。
「――切り拓け・氷風の槍」
冷気の混ざった辺りの風が前に飛び出した事で、一瞬だけ馬車が後ろに下がったかの様に錯覚してしまう。
それ程までに大きな風が前に流れ、城門に飛来して行く。
道を阻んでいた魔物に風の槍が触れた途端に――弾き飛ばし、進路から退いて道の左右に広がったと思えば、槍の両端から出ていた冷気によって瞬時に固まり氷の像と化している。
一体、また一体と積み重なる魔物の体が凍り続ける内に、近くの像に向かって氷の茨が伸び続け、槍が通った後には凍った魔物を巻き込んだ長い茨の壁が生み出されていた。
「今です」
作られた壁が森に居る魔物侵入を防ぎ、私達の前に道が作られる。
そして、減速する事なく飛来した槍が城門にぶつかり、城塞都市を守っている障壁が強い光を放ちながら反発し、森の木々を揺らす衝撃と音を響かせるのだった。
「――開門!」




