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第66話:森の中


 光り出す陣を見て、私は前に出していた手を真下に向けた。


「全員、何かに掴まって!」


 陣に入っている部分の地面を凍らせ、そのまま地面から盛り上がらせると同時に、氷で覆えていなかった車輪も含め全体的に氷の土台を厚く作り上げていく。


 ――そして地面から氷の層を光らせる輝きが強くなった。


「このッ」


 浮いた氷と地面の隙間に、大量の水を作り出す。

 その最中――輝きを放っていた陣で爆発が起こり、爆発音と水が弾け飛ぶ衝撃が氷に伝わり辺りで氷が割れて傾いたかと思えば、一部の馬車が僅かに衝撃で浮かび上がってしまう。


 氷の地面が馬車と共に落下し、直接爆発を受けなかったとは衝撃が加わる。

 外に出て立っていた私ですら、危うくバランスを崩しかけて倒れそうになっていた。


「こっちだ! こっちに氷を作れ――」


 馬車から顔を出したルイスさんが声を張り上げながら、馬車の反対側を示している。


「はい」


 返事をする前にテレンスさんは馬を操り始め、馬車が街道がからそれた場所に向かって進み出す。そして私は――そんな馬車が氷の段差から落ちる前に、ゆるやかな氷のスロープを形成する。


「アレクシスさん」


「承知しました」


 直ぐ近くに居るアレクシスさんと目を合わせ、馬車が動き出す中で私は敵に向かって手を伸ばしその体を氷漬けにする。そして馬車に飛び乗り、ルイスさん達を追う形で私達は森へ突入した。


 しかし、途中で振り返った敵の影らしき存在は、氷の中から平然と抜け出してしまう。


「これだから……オバケは……」


 死霊系、それもゴーストに分類されるものか。

 もしくはレイスなのだろうか。

 どちらにしても、対処としては誰かが近づいて聖水をかけるしかないけど、未知の魔物相手は近づくだけで危険なのに、そもそも効果があるのかすら分かったもんじゃない。


 それにあの攻撃を普通に受けていたら、私達前方組は間違いなく半壊していた。

 防げた事だけでも今は喜ぼう。


 ――そして私達は、整備すらされていない森の中を馬車で進んでいる。

 辺りに悠々と育つ木と木の間隔は、一つの馬車が辛うじて通れる幅しかなかった。そんな森の中を、テレンスさんとアレクシスさんの二人は、速度を出したまま馬車の進路を的確に選び抜いている。


 前を走るテレンスさんとルイスさんが居る馬車。

 それを追うアレクシスさんが操る馬車、そのアレクシスさんの隣に私は座っていた。


「おい! 元通り並走に戻して駆け抜けるぞ!」


 そんな私とアレクシスさんに向かって、前を走る馬車からルイスさんが声を叫ぶ。

 アレクシスさんと私が頷くと、前の馬車が右にそれ、私達はそのまま前進を続ける。


 後ろに指示を出すと一台の馬車が横にそれ、もう一台は私達の馬車に続く。それを何度も行い二列になった私達は、最後尾との距離も近くなり、先程よりも更に速度を上げていた。


「クローディア、後ろの魔物が来ているか分かるかい?」


 ノエルさんの声だけが荷台から聞こえて来る。


「少し待って下さい」


 ――走る馬車から後ろに意識を向け、いくつもある馬車を超える。

 そして、その最後尾より少し後ろには、先程捉えた魔物が確かに存在した。


「ゆっくりですけど、確実に追って来ています」


「聞こえてるか!」


 私がノエルさんに返事をしていると、木々を挟んだ横を走る馬車からルイスがこちらに向いていた。


「はい!」


 僅かばかり距離があり、馬車が走る状況では雑音が多く声が届きずらい。

 だから私も声を張り、聞き返していた。


「何ですか!」


「このまま直進すると、直ぐに国境を警備している第六騎士団と、こちらの部隊が居る辺りを通過してしまう。けどその辺りなら、多少は整備されている。そのルートを使って共和国を目指すぞ」


「分かりました! ノエルさん、今ので問題ないですよね?」


「勿論構わないよ。ありがとうクローディア」


「はい」


 やがて馬車が突き進んで行くと、国境線を守る二人一組の人達がいつも広がって見えた。

 近づいて来る私達に気づいたのか、夜に向けて準備しているランタンを左右に揺らしている。


「ここから左に向かって……」


 そう私が考え、後ろに居る敵の存在を明確に認識した。

 人よりも遅い速度、それで今も歩いている。


 捉えていた事に違いはない。

 それなのに――突然その反応が消えてしまった。


 文字通り、在った場所に影も形もない。


「何処に……」


 呟いた直後に、同じ魔力を捉えた私は咄嗟に左を向いた。

 ――先程まで遠くに居た魔物が、十メートル程先の木の陰に居る。


 こいつテレポートして――。


「アレクシスさんッ、左に敵です!」


 咄嗟に手を伸ばし、影の魔物を凍らす。

 氷が敵を閉じ込める間に馬車が駆けるも、凍らせた敵はそれを気にも留めず体を動かし、氷の中で自然と動いた影の腕がこちらに向いた。


「攻撃が来ます」


 地面にも警戒を向ける中、氷の中で炎が形成され溶かされ始める。

 その影が持つ火球が大きくなり、後続の馬車へと流れた。


「フロスト・ウォール!」


 後方に向かって手を伸ばすと氷の壁が瞬時に作られ、触れた炎が爆発する。

 そして更に続いた攻撃が、少し過ぎた位置を走る私達にも向けられてしまう。


「フロスト・ウォール」


 私達の真横にも壁が形成され、私は先程作った氷の壁と繋ぐ様にして間も氷で埋め尽くした。

 そして一面壁となって向こう側で、炎が弾け大きな音を出している。


 ――左に敵が居る状態で、左に曲がる事も出来ず私達はそのまま馬車を走らせた。


「フィーランド伯爵これはいったい!?」


「お前らは変わらず警備しろ。ただし今居る敵とは戦うなッ! これは命令だ」 


 通り過ぎる時に、国境線を警備していた者にルイスさんが言葉を投げかける。それを聞いた兵士が直ぐに近くに居た、別の二人一組の警備にも伝え、私達が駆け抜ける辺りから離れて距離を空けていく。


「団長。この先は王国領内になります、周囲の警戒を」


「任せて下さい。アレクシスさんは操縦をお願いします」


 陽が傾き、刻一刻と夜が迫る中。

 私達は、魔物が蔓延る森へ入って行くのだった。



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