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第64話:異質の伯爵


 帝国関係者だけとなり、座り直した私達は再度話し合っていた。

 新しく用意された紅茶も、無くなり始めかなりの時間が過ぎている。


「お兄様。後の事は私達にお任せ下さい」


「そうですな。搬入作業も終わり、後の設置に関しても第六騎士団の方々が手伝ってくれるのでしたら、こちらも一週間ほどで終わると存じます」


 アルメル王女に続き、一番奥に座っていた方が重くゆっくりとした声色で話し出した。


「分かった。二人にお願いするよ」


「ありがとうございます」


 座ったままアルメル王女がお礼を言い、帝国内でも話が纏まる。

 そもそも私は、アルメル王女の後ろの二人みたいに立っているべき側の人間だ。


 ノエルさん達の様に、何かを話す権利はない。

 そう思い、机に置かれていたお菓子に視線を向ける。


 見るからに日持ちしなさそうな、チョコをクッキーで挟んだお菓子。

 ――とても食べたい。


「クローディア殿でしたかな?」


「はいっ」


 突然名前を呼ばれ、私は一番奥に座る方と顔を合わせた。


「申し遅れました、ロドルフ・ロートレットと申します」


「クローディアです」


 軽く挨拶をすると、ロドルフさんが微笑む。

 その顔は来客に向けるというより、遊びに来た孫に見せる様な表情だと私は思ってしまう。


「良ければ、お食べ下さい」


 わざわざ名乗って話しかける理由が、私にお菓子を進める為だったとは……。


「お気遣いありがとうございます。でも、遠慮させていただきますね」


「美味しくなさそうだからでは、ありませんよね?」


「そんな事はないですよ、とっても美味しそうです! ただ、城塞都市の人達を助け出すまでは……」


 私だけが食べるのは良くない。


「失礼いたしました。お忘れ下さい


「いえ、お気になさらないでください。ただの我がままみたいなものですよ」


「そんな事はありませんよ。私の世代では、その様な事を申す者の方が多かったですから」


「そうですか」


 悲しい気持ちと共に、少しばかり頬を緩めてしまう。

 この世界でも、時代が流れるにつれ考え方が変わっているに違いない。


「それなら、少しは良い時代になってる証拠ですね」


「ごもっともです」


 ロドルフさんが穏やかな表情で頷いてくれる。

 そんな私とロドルフさんを見ていた、アルメル王女が口を開いた。


「何だか、長老会を見ている気分になりますわね」


 私も含まれてる!?

 いや、まさか……違うよね……。


「アルメル」


「申し訳ございません、お兄様。それにクローディアさんも、非礼をお詫びいたします」


 ノエルさんの一声で、アルメル王女が慌てていた。


「驚いただけで、気にしてないですから」


「なら良かったですわ」


 ぱっと明るさを取り戻し、何事もなかったかの様に取り繕う。

 この子もこの子で、やっぱり凄いな。


 貴族の人は、幼い頃からこんな感じなのかな。

 だったらノエルさんも、子供の頃は……。

 

 それなに、昔から苦労しているノエルさんの姿が思い浮かんでしまった。


「ノエルさん、お疲れ様です」


「どうして労われたのか気になるけど、ありがとう。クローディア」


「はい。それよりも、そろそろ出発の準備をしに行きませんか? ルイスさんが戻って来て、直ぐに出られない状況だと、何か言われそうでとてもじゃないですけど、のんびりしたい気分じゃないです」


「そうしようか」


 承諾したノエルさんが立ち上がったので私も静かに席を立つと、アルメル王女とロドルフさんもそれに続いた。


「二人とも、改めて、今後の事は任せたよ」


「はい、お任せ下さい」

「滞りなく、完了いたします」


 二人がノエルさんに頭を下げ、顔を上げたかと思えばそのまま見送ってくれる。


「それじゃ、行こうか」



 ***


 

 第三騎士団が居る皆の所に戻り、準備をしていると暫くしてルイスさんとテレンスさんが戻って来る。


「そちらの準備は、問題なく、終わっているんだろうな?」


「もちろんですよ」


 私が率先して答えていた。

 静止するブレンダさんに謝って、私も一部手伝い既に終わったと言えるぐらいには終わっている。


「そうか。であれば、そろそろ向かうとするか」


 ルイスさんが自らの馬車に乗り込み扉が閉まると、傍に立っていたテレンスさんがこちらに頭を下げてから前の方に歩き座った。 

 どうやらテレンスさんが御者としての、役割も果たすみたいだ。


 他の知らない部隊の人達は、第六騎士団の人達である。

 という事は、ルイスさん達の護衛の人達は居ないという事になってしまう。


 私が馬車に乗ると、ノエルさんが少しして来る。

 別に私が提案した訳ではないが、扉付きの豪華な馬車でない事が申し訳なく思ってしまうのは、これでも第三騎士団の団長として少しは周りを気にする様になった証拠なのだろう。


「ノエルさん、共和国について少し聞いていいですか?」


「構わないよ」


「それでは、あのルイス伯爵が偉そうな理由から、聞いて良いですか?」


「随分とハッキリ言うね」


「そうですよ。そもそも共和国なのに、貴族制度はあるんですか?」


「それについては色々と理由はあるけど、結論から話すと。今の共和国には王や皇帝と言った身分の者は存在せず、共和国に住む人々が選んだ者が国を統治している」


「はい、それが共和国ですよね?」


「だけど以前は、王国として世襲制だったんだよ。それに今の共和国にも議会があって、そこに当時の貴族達が名を連ねている」


「だから爵位が残っているんですね」


「それでも集めた税で、少しずつ共和国という国が貴族から領地を買い取り、管理下に置いていっている。それが三十年続いても、まだ貴族にはある程度の権力と領地が残っているのが現状になるかな」


 反発を買わずに、ゆっくりと国土に戻している感じなんだよね?

 あんまり詳しい事は分かんないけど。


「その中でもフィーランド伯爵は異質でね。力を失っていく貴族が多い中で、先代が治めていた時よりも確実に勢力を増している」


「だから、偉そうなんですね」


「だからって訳ではないと思うけど、共和国についてはそんな所で良いかな? それとさっきも言ったけど、フィーランド伯爵は良い人だから」


 ノエルさんが二度も言うんだ。

 そんなに悪い人じゃないと思いたい。

 けど、何故か素直に納得できない私がいる。

 

 ――拭えない違和感を覚えたまま、馬車がゆっくりと動き出すのだった。




 明日、第65話を投稿いたします!


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