第63話:伯爵様!?
「共和国の方々も、よろしくお願いします」
アルメル王女の隣に座る少年に目を向ける。
これで、違うって言われたら大問題だけど。
「あぁ、よろしくたのむ」
流石にそんな事はなく、短く返される。
その後ろで、執事服を着た男性が困り顔をしていた。
「大変失礼いたしました。主に代わり謝罪と、ご挨拶をさせていただきます」
「おい、まるで僕が――」
「私はテレンス。テレンスとお呼び下さい。そして私が仕えさせていただいているこのお方が、ルイス・フィーランド。共和国フィーランド領を治めるフィーランド家の、現当主でございます」
テレンスさんが丁寧に腰を折って挨拶をし、言葉を遮られたルイスさんが不機嫌そうにしていた。
大丈夫、なんだよね?
これから救出作戦だけど……。
帝国側が王国の人を助けるには、いくつか問題がある。
その一つが、物理的な距離だ。
此処、ディガルタから助けに向かうのと、共和国内にある街から助けに向かう場合、共和国にある街から出向いた方が圧倒的に近いのだ。
距離にして半分は短く、野営も一度だけで到達出来る見込みだ。
今の王国領内での野営なんて、私達だけでも出来ればしたくはない。
そんな状況で救助する人を連れて、一回でも多く野営をするのは危険過ぎる。
――だから私達は共和国側に、街の滞在許可と協力を求め、救助した人達を受け入れてもらう方向で話を進めているのだ。
それなのに、大丈夫なのだろうか。
何だか安心出来ない。
というか何を考えているのかが、まるで読めない。
失礼だけど。
何も考えてない訳じゃ……ないよね。
「安心しろ。帝国側の要求通り、街に騎士団が入る事を許可してやる。それと、助け出した奴らも喜んで引き受けよう。ちょうど、人手が欲しかった所だ」
うそ!? 私の心――読まれてる?
まさかだよね。
「感謝いたします、フィーランド伯爵」
「ありがとうございます」
ノエルさんに続いて私は礼を言う。
そして新事実、ルイスさんは伯爵様だった。
「そちらの団長殿。今、伯爵か? そう思ったな?」
……怖い。
心が読まれてる……。
本当にごめんなさい。
ただ子供を助けたいだけなんです。
「恐れながら、申し訳ございません」
「まさか本当に思ってたとはな。だが、素直なのは良い事だ。許してやる」
「ルイス様、その辺にしていただけますでしょうか? このままでは私が、帝国の方々に謝罪して回る事になってしまいます」
「それは面白い事を言うな。貴様も私の要望通り、伯爵と最初に言わなかったのだから、同罪だろ」
あの挨拶にはそんな裏があったのね……。そんな思考をする余裕があるなら救出の事を考えてと言いたくなるが、気張り過ぎていても仕方ない事も確かだ。
「そうでしたね、申し訳ございません。クローディア団長も、余りお気になさらないでください。どうせなら、ルイスと呼び捨てにされても、ルイス様は怒りませんよ?」
「その手には引っかかりませんよ。テレンスさんは、様付けで言い終えてるじゃないですか」
「そのまま呼び捨てにしていたら、帝国に謝礼でも要求しようと思っていたが。当てが外れたなテレンス」
「あはは……」
もう話したくない。
怖すぎる。
早く救出作戦に頭を切り替えるべきだ。
私の感がそう告げている。
それに、騎士団として共和国に入って良い言質はとった。
「そこまでにしていただけますか? フィーランド伯爵」
ノエルさんが横から止めてくれる。
それだけで私は妙に安心していた。
「そうだな。また今度にしよう」
今度なんてなくて良いから。
お願いだから、何事もなく全面協力して下さい!
心の声が読めるならと、私は必死に願っていた。
「ありがとうございます。それ一つお聞きしたいのですが、現状の共和国の防衛線については、どうなっていますか?」
「お兄様。それについては、私の方からお話いたします」
ルイスさんの隣に座るアルメル王女が、静かに少し手を動かしてから話し出す。
「現状、王国領内接する共和国の国境線には、私の第六騎士団と、共和国軍に加え、フィーランド伯爵様の領軍で対応にあたっております。今の所、変異した魔物などが現れたという情報はございませんので、維持するだけでしたら問題ないと思います」
「その維持に関しては、共和国側が対策を講じるまで。でしたね? フィーランド伯爵」
「あぁ、それで間違いない」
「いつ頃、終える見通しですか?」
「あと二週間、いや一週間はかかる。そうだなテレンス?」
「はい。動員出来る魔術師を、東側の国々からも集めておりますが、早くても一週間はかかる見込みでございます」
「あの……対策って、何の事か聞いてもよろしいでしょうか?」
救出で頭がいっぱいだったので、共和国の防衛線に関しては私は触れていない。
というか、意図的にノエルさんとブレンダさんにも外されている気がする。
「対策と言っても大した事ではないぞ。隣接する森で管理出来ない程、魔物が溢れたのなら、その対処方は簡単だ」
もったいぶる様にして、ルイスさんが手を組み合わせてから答えた。
「接する国境線を、全て壁で閉ざしてしまえば良いではないか」
ルイスさんがハッキリと断言する。
「ん……?」
聞き間違いかと思い隣を見るも、ノエルさんも静かに頷いた。
アルメル王女も、後ろに居るブレンダさんまでもが肯定している。
「噓でしょ……」
「本当だ」
共和国と王国の国境線は、確かに帝国よりは短い。
けど、短いだけであってどうにか出来る距離とは到底思えなかった。
でも魔術師を集めてるって……。
「どれくらいの魔術師が集まっているんですか?」
「確か、千は超えていたな」
その発言で、室内に緊張が走ってしまう。
ノエルさん達は、帝国の事を考えている。
それを考えれば、千の魔術師なんて一時的であっても脅威だ。
考えるだけで頭が痛くなる。
「――と言っても、大半が他国の方々です。ですので救出作戦などで、瞬時に連携を必要とされる場面では統率のとれない集団と変わらず、救出や戦闘などには関与出来ないというのがこちら側の見立てです」
テレンスさんが口を挟み、ルイスさんがつまらなさそうにしていた。
「ですので、第三騎士団の皆さんには、是非お力添えをと、ルイス様も仰っております」
「誰も言ってない。勝手に喋るな」
「失礼いたしました」
テレンスさんが静かに下がり、にっこりと笑みを浮かべる。
「そういう事だ。悪いが少し寄る店があってな、少々早いが失礼させてもらう」
そう言ってルイスさんが立ち上がると、先に動き出していたテレンスさんが部屋の扉を開けていた。
「ご協力、感謝いたします。フィーランド伯爵」
「積もる話もあるだろう、また後でな」
また後で?
この後って、別にそんな予定はなかった気がするけど。
部屋の外に片足を出したルイスさんが、そのまま出て行く。
――そう思った時に、何故か突然振り返り私を見ていた。
「共和国までの道中、頼みますよ。クローディア団長殿」
「え……」
扉がゆっくりと閉められ、ルイスさんとテレンスさんが見えなくなる。
「ぇえ――!? ノエルさん、どういう事ですか!?」
振り返った私はノエルさんの肩に手を置き、気づけば顔を近づけていた。
「共和国には僕達も行くから、どうせなら移動中に救出について少しでも話せないかってなってね」
「救出の為に……」
そう言われれば、私としては何も言い返せない。
しかし、あのルイスさんは絶対私に何かしてくる。
そんな予感が、かなりしていた。
「分かりました……。それじゃ私は……謝礼金が発生しないように、注意します」
「そんなに、気にしないでも大丈夫だから」
ノエルさんの肩に置いていた私の手に、そっとノエルさんの手が重なる。
「フィーランド伯爵はああ見えて、良い人だからね」
慌てて手を引き抜く事も出来ず、そっと声を出す。
「……はい。分かりました」
一歩下がりノエルさんから離れると、肩から下りた手が自然と離れる。
それで手が離れた筈なのに――まだ繋いでいるかの様な感覚が手には残り続け、私は確かめる様に指先を動かすのだった。




