第62話:重苦しい一部屋
馬車から降りた私の目の前にあるのは大きな建物。
積み上げられたレンガの壁に、丸みを帯びた二つの塔が城内に入る門を支えていた。
その門の外には中に入っていない第三騎士団の面々と他の部隊の人々が居て、それぞれが馬車に積む荷物の整理をしたり、到着した私達を見ながら何やら口を開いている。
「ブレンダさん目立ってますよ、本当に中に入るんですか?」
「勿論です」
馬車で待とうとする私と違いブレンダさん歩き始め、その後を追う。
「それと、目立っているのは団長の方かと」
「そんな事はないですよ。街でも、スルーされてましたから」
お菓子の人も、私の事を認識してなかったんだ。
それに、そんなに他人の顔は覚えられないと思う。
もしかして、私が買ったお菓子を狙って……。
「ちょっと君達。お菓子の警護は任せたから!」
近くに居た第三騎士団の人に、団長として仕事を頼む。
「これでお菓子は安全ですね」
「そうですね。届けるまでは、団長も食べてはいけませんからね。それよりも急ぎましょう、他の方型が待っております」
ブレンダさんと城壁をくぐり抜け、私達は建物の中に入った。
ディガルタを治める貴族が住まう城。
城壁と違って中央の建物自体は大き過ぎず、小さ過ぎない。
その内装も豪華というよりも、色んな物が廊下に飾られていた。
隣接するダンジョンから掘り出したであろう異物に、用途の分からない魔導具に加え、純粋な原価を気にしてなさそうな細工ばかりが多く、一目で分かる金銀財宝の方が圧倒的に少ない印象を受ける。
「こちらです」
そんな廊下を通って階段を上がった私とブレンダさんは、扉の前に立っていた。
――でもやっぱり、扉は豪華なのね。
帝国らしいというか、来客の事を考えているのか……。
前に呼び出された時に見た物と同じ印象を受ける、木で作られ金属で装飾された扉。
それが何とも言えない威圧感を放っているが、今ではもう苦笑いしたくなってしまう。
そんな扉の前には誰も立っておらず、ブレンダさんが合図もなく扉を開け始める。
えっ、待って下さいっ。
こういうのって一度ぐらい頷いたり、そういうのが……。
心の準備など許されず、開いた扉の奥に見えるノエルさんと目が合う。
「丁度良い所に来てくれたね。彼女が、第三騎士団の団長です」
座ったままノエルさんが私の方に軽く手の甲を向ける。
「失礼します」
部屋の中に一歩入って気が付いた。
――何が丁度良いのか、今すぐノエルさんに問いただしたい。
扉から一歩足を踏み入れた私の身体に、他人の魔力が触れる。
室内を満たさんとする複数の魔力が、異質に混ざり合って漂う。
とても重苦しい空間だ。
「第三騎士団団長、クローディアです。お話し中の入室になり申し訳ありません」
当たり障りのない挨拶を行い、私は室内に目を向ける。
入口から左側に座るノエルさんと、その後ろに立つアレクシスさん。
そして、扉から入って正面に見える髭を蓄えたお方と、背後に立つメイド服を着た人。
あの方がこの街の領主なのだろうけど、問題はこっちじゃない。
――右側に横並びに座る二人と、その後ろに立つ三人だ。
手前に座るショートヘアの少年と、後ろに控える眼鏡に執事服を服を着た背の高い男性。
その一つ奥に居る少女と、双子であろう男性が二人居る。
双子の顔には、何やら方頬に紋様が刻まれていて、離れていてもハッキリと見えてしまう。
……あれ、よく見たら魔術刻印だ。
それに顔だけでじゃなく腕にも……。
そのまま視線を下ろすと、浮き出た血管だけでなく薄っすら刻印が見えてくる。
「クローディア座って」
部屋に入って立ち止まっていた私に、ノエルさんが真横の席を差す。
この状態で私が座って良いのか悩んだが、話が進まなさそうなのでとりあえず座った。
「はい」
向かいに座るショートヘアの少年とは目が合う事はないまま、その後ろの執事服の男性と目が合う。
敵意はなさそうな不思議な表情を向けられる。
アレクシスさんよりも背が少し高いかな。
それに、身体の芯がしっかりしている。
後ろに立ってるから護衛なんだろうけど。
この人、普通に近接戦でも問題なく動けそう……。
私がそんな事を考えていると、
「貴方が、団長なのですね」
斜め向かいに座る少女が口を開いた。
「それにしても、第三騎士団では、男性が男性の護衛、女性が女性の護衛をするという決まりでもあるのですか?」
そう言われ後ろを後ろ側を見ると、確かに私の後ろにはブレンダさんで、ノエルさんの後ろにはアレクシスさんが立っている。
「いえ、そういう決まりはありませんし、私は団長なので。ブレンダさんは私の護衛という立場でもありません」
「それは、失礼いたしました」
距離感が分からない以前に、この人が共和国からの貴族なのだろうか。
だとしたら、目の前の二人がそうなのかな。
再び正面に座る少年を見てから私が少女を見ると、少女が笑顔を見せた。
「申し遅れました。私の名前は、アルメル・ノーランス」
ノーランスという名を聞き、咄嗟に横を向いてしまう。
静かにノエルさんが頷き、急いで少女に視線を戻す。
「王位継承権第五位、第二王女です。後ろの二人は私の第六騎士団、その団長と副団長を任せている者になります。どうぞよろしくお願いします、クローディア団長」
取り繕った様な笑顔を、少女が私に向けて来る。
――やっぱり私は、
こういう場が苦手だと、改めて突きつけれるのだった。
けど帰る訳にはいかない。
城塞都市から人々を助け出し、子供達にお菓子を渡すまでは――。
「こちらこそ、よろしくお願いします。アルメル王女」




