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第61話:帝国領内・南東の街――ディガルタ


 お待たせいたしました。

 この61話から、第二章となります。



「すみません、このお菓子。ここからここまで、全部下さい!」


 ――斜めに作られた木製の台だけでなく、壁際の棚にもお菓子が綺麗に陳列されたお菓子屋さん。そんな場所で私は、大量のお菓子を購入しようとしていた。

 私の言葉を聞いた途端に、店員が目をぱちぱちとさせ固まっている。


「嬢ちゃん。美味しそうに食べてくれた事には礼を言うし、気に入ってくれた事は嬉しいが。全部となると、想像も出来ないぐらい高いんだぜ? せめて十個ぐらいにしときな」


 そう言ってやんわりと私の注文を断ろうとしてくれる。

 けれど、私は退く訳にはいかないのだ。

 その殆どが、お菓子缶に入った日持ちする物だ。


「いえ大丈夫です、全て下さい。それと費用は第三騎士団持ちで、お願いします」


「……そりゃ、どういう」


「私、第三騎士団の団長なので――」


 個人で買わせてくれないなら、騎士団として買うまでだ。

 何も問題はない。

 そして私は、納得した様子を見せない店員を説得するために、店の前に止まっている馬車にちょうど何かを運び込んでいたブレンダさんを呼び店主と話をしてもらった。


 流石の私も、この量のお菓子を買う硬貨を持ち歩いてはいない。

 お偉い貴族でも何でも、結局は小切手か領収書を作る必要が出て来る。

 それが個人でなく、第三騎士団になるだけだ。


「分かった。そういう事なら持ってけ」


「ありがとうございます!」


 それから私は、買ったお菓子達を馬車の荷台に魔術で運び入れる。

 その様子を見てか、お店の人も私の事を団長だと信じたっぽい。


 やはり、まだまだ帝国領内でも顔とかは覚えられていないみたいだ。


 帝国の南東に位置する街、ディガルタ。

 此処ディガルタは、帝国の東にある山脈とその下にあるダンジョンに加え、東の共和国を含む国々が物を西側に運ぶ時にも利用する事で活気に満ちている。その活気は約二週間前から、王国の城塞都市を経由していた商人までもがこの街に訪れる事になり、更に増す形になっていた。


「あの人、まさか私が一人で食べるとか、思ってませんよね?」


 魔術で全てのお菓子を積み終え、私は御者として隣に座るブレンダさんに話しかける。


「私には分かりかねます。それでも、店主の話だと大変美味しそうに食べていたとの事なので、もしかしたら、そう思われている可能性も、少なからずあるかと思います」


「ですよねぇ……」


 流石の私でも、品切れにさせるまでの食い意地は持っていない。

 持っていたとしても、他の人が食べられない状況なんて断固として反対である。


「でも、美味しかったですよ。なので、きっと喜んでくれると思います」


「でしたら、頑張らないといけませんね。必ず、届けましょう」


「はい。でも、今日食べるお菓子ぐらい買えば良かったですかね? 美味しそうなケーキとか」


「いつお食べになるつもりですか?」


「それはこの後ですよ。ノエルさんも、最近甘い物食べてないじゃないですか」


「殿下は別に……。いえ、何でもありません。そうですね、団長からの差し入れであれば、ノエル殿下も喜んでお食べになるかと思います」


「ですよ? やっぱり、甘い物は正義ですね!」


「……はい」


 流石のブレンダさんも、疲れているのだろう。

 余り元気のないまま、前を向いて静かに馬車の操縦に集中し始める。


 ――首なし騎士を倒した私達第三騎士団は、王都に戻って短い休息をとっていた。それが一週間という期間を経て、任務と言う名目で絶対に断れない役目を任されてしまう。


 それが――王国領内にある城塞都市に、取り残された人々の救出。


 断れる訳がなかった。

 最初は団員の状態も含め、第三騎士団はこの任務を断ろうと考えていた。

 そこで私が、ノエルさんに助けに行きたいと言ったから、こうして準備を整えた私達はディガルタに来ている。


 あの戦いから僅か二週間。

 もう少し休んでいたかったと第三騎士団の全員が思っていたと思う。


「ブレンダさん、団長として私は正しい事をしていると、思いますか?」


「救出に関して何か疑問でも、抱かれているのですか?」


「少しは……」


 元王国に居た私が、無理を言った様なものだ。

 それに第三騎士団を巻き込んだのだから、気にするなという方が難しい。


「でしたら気にしなくて良いと思いますよ。元々、この第三騎士団はノエル殿下が決められた事を行うのが務めです。それに何を気にしているのか想像はつきますが、クローディア団長」


「はい」


「先程街の人に聞いて入った情報ですので、未確定ではありますが。城塞都市に数名の帝国市民が居るとの情報が入りました。ですから全てお一人で考えなくても、大丈夫ですよ」


「それは本当ですか!?」


「はい。ですが、複数人から同じ内容を聞きましたが、行ってみるまでは不確定な事に変わりはありません」


「もしかして、共和国の人も」


「帝国市民が居るよりは、可能性が高いかと思います」


「この街より、城塞都市を経路にする商人の方が多かったんですよね?」


「はい。それで逃げ遅れた人が居たら、取り残されている事になります。それに恐らく、そういった情報を掴んでいるからこそ、共和国側も今回の救助作戦に協力的なのだと、私は考えております」 


 ――王国の城塞都市。

 普通に考えれば、王国が助けるべき事案である。

 しかし、今の王国にそんな人手を避ける余裕はない。


 孤立してから、もう二週間も経つ。

 共和国が一度だけ部隊を送っているものの、生還者はなく連絡をとれていない。

 そんな場所に向かって、取り残されている人を救い出す。

 何とも無茶な話だ。


 そんな所に付いて来てくれるだけでなく、団長である私の事も気遣ってくれる部下がいるとは。

 王国とは段違いだ。


「ブレンダさん! 抱きついても良いですか!?」


「駄目です。馬車が街中を走っています」


 私の嬉しさをよそに、ブレンダ顔を更にそらし恥ずかしそうにしていた。


「じゃあ、止まったら突撃しますね」


「避けさせていただきます」


「えぇ、残念」


「それに、そんなに抱きついて感謝したいのでしたら、もっとされるべき方がいるかと存じます」


「それって……」


「誰を言っているのかは、ご想像にお任せします。ですが感謝の気持ちは、大切かと」


 いつも通りの表情の筈なのに、私の方を向いたブレンダさんの表情が不敵に見えたのは気のせいだろうか、いや気のせいであってほしい。


「それは……その――」


「団長、着きました」


「んっ!?」


 ブレンダさんから急に言葉を返され、慌てて私は前を向く。

 すると目の前に、ノエルさん達第三騎士団が居る建物が見えてしまうのだった。



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