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第59話:首なし騎士


 今朝、戦った場所よりも少し拓けた場所。

 拓けていると言っても、大所帯の馬車が野営出来る程度の空間だ。


 ――その場所に馬車はなく、私達だけが立っている。

 私とノエルさん、その他にアレクシスさんとブレンダさんの四人だけだ。


 そんな場所がゆっくりと霧に包まれて行く。

 視界のまだ見えない奥から魔力を感じ、首なし騎士が迫っているのが分かる。


「二度目だけど、何度対峙しても慣れそうにない相手だね」


「あれは、魔物だと思わない方が良いですよ。おとぎ話とか神話の」


 私は首なし騎士の事を、ただの化け物と思っている。

 その方が理不尽な事をされても、まだ納得出来るからだ。


「神話というよりは、童話かな」


「どっちにしても、強敵な事には変わりません」


 アレクシスさんが剣に手をかける。


「私とアレクシスさんで、戦います」


「分かりました」


「良かったのかい、他の者達は下げて」


 私達が乗って来た馬車は少し離れた所にあり、そもそも他の人達は村に戻ってもらった。


「はい。もし敵がまた数で押し切ろうとして来た場合、私の攻撃に巻き込まれてしまいますから」


「君がそれで良いなら僕は構わないよ。アレクシス、彼女の援護を」


「承知しました」


 ――そして、私達の前に首なし騎士が姿を現した。

 大きな馬の足が辺りを踏みつけながら、私達が居る広場に入って立ち止まる。

 魔物は既に長い、長剣を抜いた状態で今にも駆けて来そうだった。


「基本は二人だから二対三だけど、一人じゃなかったら駄目とか、言わないでしょ?」


 反応がない事は分かっていても言葉を投げかけ、歩きながら右手に氷の剣を作り出す。


「行きますよ、団長」


「よろしく、副団長」


 アレクシスさんが剣を抜き、互いに身構えた。

 ――途端にアレクシスさんが前に詰め、私が後を追う。


 首なし騎士の左右から肉薄した私とアレクシスさんが剣を振るった。

 

 動き出した魔物が長剣を地面に突き刺しアレクシスさんの攻撃を止めると、前足を上げた大きな馬が私目掛けて蹄を向かわせて来る。


 氷の剣が物凄い音を出しながら蹄を横にそらした。


「フロスト・ウォール」


 生み出した氷の壁に馬の前足が掛かり、不安定な姿勢のまま馬が大きく仰け反った。


「アレクシスさん!」


 馬の体が上がり、剣を突き刺してしまった騎士の身体が僅かに傾いている。

 それも、アレクシスさんに首を差し出す様な形でだ。


 今の内に馬を――。


 頭上で暴れる大きな馬の胴体を狙い、私は氷の剣を振るった。

 その反対側ではアレクシスさんが騎士の首を切り落とそうとしている。


 どっちかは落ちろ。

 そう思っていた私の前に突然霧が現れ、剣先が触れた瞬間に更に視界を悪くしながら広がり、一瞬にして前が殆ど見えなくなる。


「クローディア、アレクシス!」


 飛んだ先でノエルさんの声が聞こえ、直ぐ近くにアレクシスさんが同じように飛び退いていた。


「大丈夫です」

「問題ありません。けれど、落とし損ねました」


「それこそ気にしないで下さい、次」


 一回で倒しきれるとは思っていない。

 それにしても厄介だ。


 あのランタン。

 霧を出すだけでなく、首なし騎士の体すら霧に変えている気がする。


「行きます」


 一声発したと思えばアレクシスさんが敵の方に駆けている。

 その速度は余りに速く、普通の人が追いつける事はないだろう。

 私だって魔術を使って追いつきたいぐらいだ。


 走る私は右手に氷の剣。

 左手に炎の剣を作り出し、両手に剣を持つ。


 先に迫ったアレクシスさんが首なし騎士の長剣と何度も剣を交え、圧倒的な体格さがある状態で魔物をその場に止めながら交戦し続けている。


 止めているというよりは、止められていると言った方が近い。

 剣だけで対応が済んでいるから、魔物側には余裕が残っている。


 ――そんな首なし騎士に向かって跳躍した私が、右に持つ氷の剣で首をとろうとする。

 魔物が着けている籠手(こて)で剣を防がれ、辺りに氷が飛び散った。


 直ぐに左の剣を振るう。その私が行った攻撃に合わせ馬が顔を上げると、身に着けていたか馬の鎧に炎の剣が触れて、辺りに炎が飛び散った。


 最初に振るった剣を騎士に掴まれ、私の身体は真下に落とされる。

 落ちた先で目を見開くと、迫る蹄が私を潰そうとしていた。


「やっ――」


 身体を横に転がし瞬時に起き上がった。

 しかし、休む間なんてない。

 アレクシスさんを振り払った騎士が剣を持ち替え、反対側に居た私目掛けて長剣を振る始めている。


「フロスト・ウォール」


 目の前に作るのではなく――私の足元から伸びた氷の壁を足場に、

 私は、一瞬にして首なし騎士と目線を合わせた。


 魔物の振るった長剣は氷の壁を容易く切り裂き、私の真下で流れていた。


 騎士の正面ががら空きになる。


 ――左手に持つ炎の剣を弓の形に変え、右手に持つ氷の剣を矢の様にして、炎の弦を引いた。

 剣では届かない至近距離から放つ。


 放たれた氷の剣が物凄い速度で飛び、

 騎士に防がれる事もなく、鎧に突き刺さった。


 足場が傾き、私はその場から飛び退く。


 普通に考えれば致命傷だ。

 これがコボルトとかオーガなら、終わるだろうけど。

 相手は首なし騎士だ。


 私が嫌いな、レイス系と言えなくもない。


「だよね」


 視線の先に居る首なし騎士が氷の剣を手で掴み、力任せに引き抜いていた。

 その痕からは血が流れるどころか、白い霧の様な物が溢れている。


 ――そして馬の(いなな)きが聞こえ、同時に白い霧に向かって馬が動き出した。

 空中にある白い霧を足場にして、馬が宙に上がって行く。


「そんな事も出来るのね」


 一歩、また一歩と上に上り、地上から離れようとする。


「アレクシスさん、阻止して下さい」


 上に行かれたら私以外が何も出来なくなってしまう。

 それに、あの足場も含めて先に倒す魔物は決まった。


「承知」


 短い返事だけで、一切臆する事なくアレクシスさんは前に走ってくれる。


「ブレンダさん」


「はい」


 ブレンダさんも前に出たタイミングで、空中に向かって飛んだアレクシスさんが魔物と剣を交える。重たい斬撃が頭上で繰り広げらえ、その場に首なし騎士が止まるのを待った。


 ――馬が足を止め、剣を振るう騎士の重心が定まる。

 そのタイミングで腕を向けた私は魔術を使った。


 円状の魔法陣が首なし騎士の足元に現れ、強い光を放つ。


「落ちろ――」


 陣の周囲の土がドンっと地中に吸い寄せられ、頭上に浮かんでいる魔物の体にも圧がかかっている。しかし、足場の霧が少し不安定になっても馬は耐え続け、地面に叩きつけられる気配はなかった。


「このぉッ!」


 更に強く陣が光った途端に周囲の重力が増し、馬の足が曲がりかけた時だった。

 馬の後ろ側に取り付けられたランタンの紐が千切れ、空中にランタンだけが放り出される。


「ブレンダさん!」


 前に出ていたブレンダさんがそれに近づき、ランタンに手が届くタイミングで私は魔術を切る。そして、足場を失い落下し始めていた首なし騎士がブレンダさんを攻撃しようと長剣を振るうも、既に移動したアレクシスさんがその攻撃を防ぐ。


「先ずは一体っ」


 ブレンダさんがランタンの魔物に剣を深く突き刺し、そのまま崩れたランタンから炎が消える。


 先程よりも大きな馬の嘶きが森に響き、アレクシスさんは一度離れていた。

 馬に乗る騎士が手綱を引くと、馬が暴れながらも落ち着き始める。


「団長、傷口が」


 私の剣が刺さった場所から、溢れていた白い霧は消え、代わりに黒い魔力の様な物が溢れ出ていた。


「今なら――」


 損傷をランタンが肩代わりしていたとするなら、今なら攻撃で倒せるかもしれない。


「三人にお願いがあります」


「何かな」


「あの怒った相手に、時間を稼いで下さい。私は動けないので、とばっちりも駄目です」


「中々、難しい事を君は言うね」


「倒してしまっても、構わないのですよね?」


「えぇ勿論。倒せるなら遠慮なくやっちゃってください」


「ちょっと皆さん、来ますっ」


 ブレンダさんの合図で全員が飛び、ブレンダさんとアレクシスさんが前に出る状況で、横に居るノエルさんが剣を抜いた。


「ノエルさん、対人相手だと思わないで下さいよ」


「大丈夫だから任せて」


 私の斜め前に立ち、首なし騎士との直線を塞いでいる。


「任せました」


 アレクシスさんが敵と戦い、ブレンダさんが隙を伺う。

 どこかで見た様な光景だ。


 けど、今はそんな事はどうでも良い。


「すぅぅ……ふぅぅぅ」


 手に残っていた炎の弓を消し、私は何も持っていない状態で魔術書を目の前に出現させた。

 宙に浮かぶ魔術書は指でめくるでもなく、勝手にページが変わっていく。


 集中しないと、もっと……もっと――。

 身体から溢れ出た魔力が冷気に変わり、やがて辺り一帯に広がる。

 視認性が悪くないだけで、霧が復活したかの様な白さだった。


 異変に気付いた魔物が私に向かおうとするも、アレクシスさんに阻まれ、真逆の方向からは攻撃しては離れるブレンダさんに振り回されている。


 ――そんな状況でページの止まった魔術書を支える様に、手の平を夜空に向けながら前に倒した。


「開きし片面世界で輝く零の結晶よ――」


 魔物の足元に現れた巨大な、開かれた状態の本。

 その上で戦うアレクシスさんと首なし騎士はまるで、本の中から飛び出して来た様に思えてしまう。


「――敵の動きを封じ・閉ざす氷の檻と成れ――晶結域(しょうけつき)


 無数の結晶が巨大な本の上で浮かび上がり、ゆったりと脆そうに動くそれは首なし騎士が振るった長剣や動こうとする馬に触れても壊れる事はなく、その場で浮かび続けている。


 それが魔物の周りに纏わり、段々体が動かせないまま本の中央で動きが止まっていた。


「赤く咲き誇る氷の花よ――」


 浮かんだ結晶が僅かな明るみを持った事で、アレクシスさんとブレンダさんが咄嗟に離れる。

 その際に無理やり腕を動かした騎士が、長剣を私目掛けて投げ飛ばした。


 けれど、前に居たノエルさんがそれを弾いた事で、敵の攻撃はなくなる。

 剣も失い、身動きのとれない首なし騎士が私を睨んでいる様だった。


 今度はこっちの番だ。

 あんたとの戦いは、此処で終わらせる。


「両面世界を囲う白き壁・爆炎を上げ全てを無に帰せ――」


 巨大な本の四方から氷の薄い壁が空高く伸び、私は指を合わせ音を鳴らした。


氷焔(ひょうえん)の花」


 途端に周囲を漂っていた結晶が赤く染まり、炎を出した瞬間に砕け散る――。

 白い氷に囲われていた空間一瞬にして爆炎に包まれ、夜空に向かって大きな火柱を上げた。


 激しい衝撃と音が周囲に広がり、空高くで火花を散らしている。


 ――そんな状態で私が両手をゆっくりと合わせると、開かれていた巨大な本が爆炎すらも飲み込みながら閉ざされ、パタっと音を立てた本がゆっくりと消えていく。

 これで倒せてなかったら、打つ手はない。


 けれど敵が復活する事はなく、戦闘は終わった。


「倒せ、た」


 私の方を向いた三人と、それぞれ視線を合わせる。

 これでもう、首なし騎士と遭う事はないだろう。


「良かったぁ……」


 そう考えた途端に身体から力が抜け、私はその場に座り込んでしまうのだった。




第60話を、19時頃に投稿します。

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