第58話:前へ
外に出ると馬車が目に入り団員が荷物を運び込んでいた。
更に傾いた陽が沈もうとし、反対側の空は暗くなっている。
もうそろそろ時間だ。
向かわないと……。
『止めときな』
そうカル村長に言われた言葉が直ぐに出て来てしまう。
これじゃ、本当に戦えるかも怪しい。
行く宛てもなく一歩動いた身体は直ぐに痛みを返し、逃げる理由を教えて来る。
戦う理由を求めているのに、その真逆も良い所だ。
「困ったな……」
まだ星の見えない空を見上げ、私が呟くと少し離れた所から声がする。
――そこではブレンダさんの指示を出し、他の人が馬車に荷物を運び込んでいた。
「何か手伝える事は……」
手伝わなくて良いと言われたのは人手が多かった時で、今なら手伝える事もあるかもしれない。
私は動いた身体に従って歩いて行った。
「ブレンダさん、何か手伝う事はありませんか?」
「団長殿。お目覚めになっていたのですね、気づかず申し訳ありません」
「別にそんな、私のお世話が仕事って訳でもないじゃないですか。それよりも何か、手伝える事は」
「それでしたら、向こうでお食事をとられて下さい。それが仕事です」
「ん?」
ブレンダさんに言われるがまま、焼かれた肉や果物が置かれた場所に移動させられる。
一人座らされ、ブレンダさんが離れて行く。
――そして目の前には、焼かれたお肉が置かれていた。
腹が減ってはなんちゃら……。
そう思えば自然と手が伸びるも、一口食べただけで手が止まってしまう。
勢いで食べられると思っけど、駄目だった。
静かに顔を伏せた私の耳に、焚き火の音と近づいて来る足音が入る。
「あれ、クローディア。もう起きて平気なのかい?」
「ノエルさん!?」
少し驚いて顔を上げた私がノエルさんを見るなり、手に持っていた食べ物を背の方に回す。
「そんな、取り上げたりしないから。安心して」
「いや、これはその……。そういうつもりじゃ……」
反射的に隠してしまっただけで、何故そうしたのかも分からない。
「僕も少し食べようと思ってね。今なら出来上がりだとブレンダに言われてね」
「そうでしたか……」
口を閉ざした私の隣にノエルさんが座った。
「この後なんだけど、君の考えを聞きたいと思ってね」
「戦え……とは、言わないんですね」
「それは僕の望む、帝国の在り方ではないからね。無理やり戦わされる者と、誰かを守りたいと思って戦う者では、その後に手にする平和の感じ方が根本的に違う」
「平和ですか……」
魔物の脅威が消える事はない。
今の人類に、魔物を絶滅させる力もなければ、安全だと断言出来る場所の構築すら困難だ。
平和に過ごせている街中でさえ、運悪くドラゴンが天から舞い降りれば災害が起こる。
そんな状況で平和なんてものが本当に手に入るのだろうか。
「本当に、平和が来るだなんて思いますか?」
数秒してノエルさんが、ゆっくりと口を動かした。
「平和は来るんじゃなくて、あの時代は平和だった。そう言われる歴史の帝国や世界を、作りたいんだ。それに――他人を見捨てる世界にはしたくない。そう言ったのは君だよ」
言われると面を食らってしまう。
「そう、でしたね」
以前の私は、そんな事を王族に向かって言ったのかと――。
「だから僕は前に進む。その為にあの敵が邪魔だと言うなら、倒すだけだ」
「……私も、平和が良いです」
魔物と戦いたくない人が戦わなくて済む、そんな世界にしたい。
その為にも、あの魔物は倒す必要がある。
一方的に侵略する様な奴らは、尚更止めないとだ。
「ノエルさん。――私、戦います。この村を守る為に」
どうやったら国全体が救われるかなんて分からない。
けれど、あの魔物を倒して困る人が居なければ、救われる村の人達が居る。
私が戦う理由としては、十分だ。
「難しい事は私には分かりません。でも、一つだけハッキリした事があります。自分が戦わないで誰かが傷つくかもしれないのなら、私は自分で戦って敵を倒す事にします」
「ありがとう」
そう言って静かに立ち上がったノエルさんが、私に向かって手を伸ばす。
「力を貸して欲しい、クローディア」
「良いですよ。その代わり、帝国のお菓子は私と子供達だけで独占します」
ノエルさんの手を握って立ち上がると、ノエルさんが笑ってくれる。
「それは困ったな、僕も食べられなくなる」
「大人は、魔物一体倒したら一つにしましょう」
「……なかなか、厳しい世界になりそうだ」
やる事は決まった。
戦場に向かって――首なし騎士を倒す。
明日11/30(日)15時頃に、第59話を投稿します。
その後、19時頃に第60話を投稿予定です。




