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第57話:カル村長


 いつ眠ったのかは分からなかった。

 あれから一人でずっと考え、思考が巡る中で疲れて切っていた身体に引っ張られ意識はなくなり、気が付くと既に天幕には夕暮れだろう陽の光が当たっている。


 魔力は戻っても身体は重い。

 ノエルさんは休めと言っただけで、それは夜間に備えてに違いない。


 私も戦わなきゃ。

 そう思い、まだ痛む身体を起き上がらせた私は、天幕から外に出た。


 ――陽が斜め差し込む村の建物はいくつかが半分に崩れ落ち、その周囲では焚き火の準備を村の人達が初めている。子供が走り回っていても、その周囲に居る大人の顔はどこか暗い。


 申し訳ない事したな。

 あの建物を真っ二つにしたのは、恐らく私だ。


「わっ、お姉ちゃん起きた!」

「すげぇ復活だ」


 私に気づいた子供達が元気に駆け寄って来る。


「復活?」


 何の事を言っているのだろうか、さっぱりだ。


「魔物と戦って疲れてるって、騎士の人が言ってた」

「それに、お姉ちゃんが私達を助けてくれたんでしょ!?」


「それは……そうだけど。ごめんね、お家、壊しちゃったのも私なんだ」


「まじかよ!? すげぇじゃん。どうやってあんなに綺麗に切るんだよ! 教えてくれよ」

「私にも教えて!」


 こんな物騒な魔術、周りの人達は反対するに違いない。

 私自身も子供に教えるなら、水が出るとか物を乾かす時に役立つ風の魔術を教えたいのであって、決して家を切り裂く技なんかを教えるつもりはなかった。


「他の人達が良いって言ったらね」


 私の返事を聞いた途端に、子供達が嬉しそうな顔を見せ口を開く。


「約束だかんな!」

「ずるい私も!」


「分かった、約束ね。それと聞きたい事があるんだけど、カル村長ってどこに居るかな?」


「村長? 村長なら」

「壊れた家で、休んでるよ」


「……そうなんだ。それってどの家かな?」


「あれ!」

「あっち」


 二人が指差した建物に目を向ける。

 崩れたであろう屋根の残骸が、家の外に積まれていた。


「……分かった。教えてくれてありがとうね。私、ちょっと村長と話す事あるから、またね」


 子供二人に礼を言って、私は村長の家に向かう。

 ――近づけば近づく程、外壁にもひびが入っているのが分かり、申し訳ない気持ちが強くなる。


「カル村長。クローディアです……お話が」


「入りな」


 声が聞こえ、私は中に入って行く。

 足元にはがれきが無く、外見と違って既に大半が片づけられていた。


「すみません、私のせいで」


 入って直ぐ、椅子に腰かけるカル村長の姿を目にする。

 カル村長が器用に魔術を使い、まだ残っているがれきを風で浮かばせながら家の隅に寄せていた。


「やっぱり、あんたが壊したんだね」


「すみません……」


「別に怒っちゃいないよ、何謝ってるんだい」


「すみません」


「分からない子だね。壊れたならまた作れば良いのさ、その方が新しくなるってもんだ」


 ハッキリと言われてしまうが、それを作るのは誰なのだろう。

 その人にも謝りたいな。

 けど、今はルークの事だ。


「カル村長、その……」


「何だい」


「ルークを手当してくれたって、聞きました。ありがとうございます」


「ルーク? あぁあの青年の事かね。別に大した事はしてないよ。どこかの誰かさんが、馬鹿みたいに溶けない氷で塞いだ傷を、また身体の中で、綺麗に氷漬けにしながら少し治したぐらいさね」


「本当にありがとうございます」


「大した事はしてないよ。何度言わせるんだい」


 深く頭を下げていると、運んでいるがれきが落ちる音が聞こえる。


「ったく、魔術ってのはどうしてこう、感情に左右されるのかね。落っこちたじゃないかい」


「すみ――」


「謝るんじゃないよ。次謝ったら、火炙りにするからね」


「……分かりました」


 渋々承諾した私は、ゆっくりと顔を上げた。


「あんた。そんな状態で戦うつもりかい?」


「はい。そのつもりです」


「私は、恩人が何をしようと気にしないが、みすみす命を捨てに行くのを黙って見てるのも、老い先短い私にとっちゃ夢見が悪いってもんだ」


「それはどういう……」


「どうもこうもないさね。あんた、身体も万全じゃないのに、考えも迷ってる状態でまともに戦えるとでも思ってるのかい? 悪い事は言わない。あの王子に任せて、あんたは街に帰るか、また此処の村に待機しとくんだね」


「それは……」


 言い淀んでいた私の額に目掛けて、小さな小石が飛んで来る。


「ぁたっ――カル村長、何するんですか」


「何って、そんな状態で戦場に行こうって言うんだから、冗談でも言ってるのかと思ってね」


「今は」


 再び飛んできた小石が私に近づくと、今度は触れる前に弾かれ壁に当たった。


「不意打ちされたら、誰だって。厳しいじゃないですか」


「そうかい? 不意打ちされたから魔術が使えないって? 冗談じゃないよ。無意識だって魔術を使う馬鹿は居るんだ、あんたがあのルークって青年にそれを教えたんじゃないのかい?」


「教えたというか、きっかけを与えたというか……。あれ、何の話ですか?」


「あの青年は、意識がなくて火の魔術を使ってたからね。血を出し過ぎて死ぬかもしれない青年が、身体を温かくして氷を防ごうと抵抗するもんだから、私も楽しくてつい、凍らせ過ぎるとこだったよ」


「……そうだったんですね」


「辛気臭いね。助かるかも分からないけど、まだ死んでない筈だよ。それぐらいの手当はしたから、後は街の術師次第さ。それを踏まえてもっかい言うけどあんた、戦うのは止めるんだね」


「ご忠告感謝します、カル村長」


「……言いたい事を、言ったに過ぎないよ。後は自分で決めるんだね」


「はい」


 もう一度頭を下げてから静かに振り返り、私は建物から出て行くのだった。




次話投稿予定日は、11月/29(土) と 30(日)になります。


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