第52話:月影鳥
暗い視界が一瞬にして明るくなる。
水を一瞬で蒸発させながら、広がり続ける爆炎。
辺り一帯を飲み込み、私だけでなく他の魔物も巻き込む勢いだった。
水を間に挟んだ状態で爆風に身体が押され、後ろに吹き飛んだ先で木に身体がぶつかる。
これだから、判定がない魔物は。
そもそも剣が当たらないなんて事がなければ、倒せていた話だ。
自爆で一体減るも、まだ他にも居る。
「はっ!?」
少し離れた場所で、見たこともない光景を目にする。
片腕を後ろに引いたオーガの手に、コボルトが掴まっていた。
――冗談でしょ。
考える暇もなく投げ飛ばされたコボルトが飛んでくる。
そのコボルトの手には短剣が握られ、私目掛けて振り始めた。
「このっ」
身を屈め、飛んでくるコボルトを氷の剣で切り裂くも、咄嗟のことで体勢が僅かに崩れてしまう。そんな私に対して、周囲からオーガやコープスランタンが迫る。
連携を取ったかと思えば、オーガが近くに居ても爆発するコープスランタン。
「私を殺せれば、良いって事ね……」
爆風に飲まれ私がまた下がると、近くにいたオーガは顔を覆い苦しんでいる。
納得したくはないが、そういう動きをしていた。
さっきまで村人を追い詰められていたのだから、急に出て来た私が邪魔で仕方ないのだろう。
オーガが私目掛けて突進し、腕を振ってくる。
しかし、爆風で目がやられたのかその攻撃は余りにも雑で、殆ど動かずとも勝手にそれていく。
そのままオーガの首を切り落とし、私は手を前にかざした。
「満ちて流れる風よ――我が前に立ち阻む全てを切り裂け・薙一閃」
前方に向かって伸びた風が身体から半円状に広がり、魔物だけでなく木々を含め切り裂いた。
一木、一体、全てが等しく切り裂かれ森を切り拓いていく。
その奥にあるであろう村の建物は、きっと綺麗に切断されたに違いない。
一体のコープスランタンが離れた位置で爆発し、辺りに火が広がる中、私は残っていたコープスランタンを捉えた。
地面を蹴り近づいた私が水の塊を手にし、真上から叩きつけるように振り下ろす。
「水なら効くでしょ」
物凄い勢いで蒸発し魔物は姿を消した。
そこには、あの揺らめく影の体も残っていなければ炎も広がっていない。
これでもう魔物は……。
直ぐそばに倒れていた木々の間からコボルトが這い出て、腕だけを動かして引っ搔こうとして来る。
けれど、その攻撃も一度避けてしまえば、助けてを求めている様にも見えてしまう。
「ごめん――」
指を二本を伸ばした状態で斜めに振り下ろすと、コボルトが静かに横たわった。
これで、本当に終わった。
辺りに魔力の残滓が広がる中、意識を集中させて探った。けれど村を含めた広い範囲に魔物は居らず、索敵を広げれば広げる程にノエルさん達の方に集まっている事を知る。
「急がないと」
一度、村の人が居る方に目を向けるも、何かをしている暇はなかった。
ノエルさん達の方角に意識を向け直ぐに魔術を起動させる。
「スペル・キャプチャー・テレポーテーション」
視界が切り替わり、再び夜空に放り出される身体。
こう何度も、行う魔術ではないと言いたげに手足の先から僅かに脱力する様な感覚に襲われる。
魔力の消費も大きければ、攻撃魔術を連発しているより身体に負担がかかってしまう。
「あと一回飛んでよね。スペル・キャプチャ――」
そう言いかけた私に向かって何かが飛来し、身体に衝撃が加わった。
「ぃッ――」
飛んだ先で落下を始めていた身体が横方向に向かって流れ、回転しながら落下し始める。
普通の鳥よりも遥かに大きい物体が当たった。それだけが分かる状態で風を発生させて体勢を起こした私は、少し離れた所で羽ばたく魔物を目にする。
大きく羽ばたく体は二メートルを超え、少し青みがかった魔物。
――月影鳥だ。
「っ……」
身体は起こしたものの急速に落下する最中、体内から上がってきた血が口の中で広がり、お腹を手で抑えると激しい痛みが伴う。
「こんな所で」
半分ほどの距離は詰めた事で、斜め下の地上には広がる霧の塊が見えている。
無視して行くのは簡単でも、それで被害が出たら意味がない。
一秒でも早く行きたいのに。
「このっ――!」
身体が安定しない中で氷を放つも、夜空を自由に飛び回る月影鳥はそれを容易にかわし、再び襲いかかってくる。




