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第5話:ダンジョン


 ダンジョンの中は、暗闇というより薄明るい。

 壁に生える光苔や魔石、そして人の手で設置された魔灯が淡い光を放っている。

 

 私は、冷たい冷気とダンジョン内に満ちる魔力を身体に受けながら先を急ぐ。


 階層という概念がない世界のダンジョンは、複雑に道が入り乱れ何処まで続いているのか分からない程、地底に続いている。そんな場所で人一人を見つけようとするのは、普通に考えれば無理だ。

 一本道でないなら、入れ違う可能性すらある。


 道中、戦ったであろう痕跡と、魔力の流れを頼りに()を探す。

 魔物との遭遇は控え、最短で向かう。


「この辺で、魔力が」


 一番魔力が強く残っている場所に辿り着き、立ち止まった――その時だった。

 少し離れた場所から、金属がぶつかる様な音と、人の声を耳にする。


「――このッ、いい加減、倒れろ……!」


 見つけた。

 急いで声がした方向に、意識を向ける。


「スペル。キャプチャー・テレポーテーション」

 

 切り替わった先で薄暗い視界の中で、蠢く影を目にする。

 人型の輪郭は何となく分かっても、ハッキリとは捉えられない。


「この身に纏え――焔水(えんすい)羽衣(うい)


 魔術書を持つ手からあふれた魔力が光を帯び、私の身体の表面を滑るように伝っていく。

 流れる魔力はやがて炎の揺らぎへと変わり、マントの様に私を包み込んだ。その輪郭には水が静かに流れ、揺らめく炎をやさしく封じている。


 突然、宙に浮かび上がった炎のマントが周囲を照らし、私はようやく敵と近くに居た人を見つけた。


「居た。大丈夫、だね。良かった、良かった」


 見るからに鎧は痛み、腕や頬など皮膚が見える場所からは血が流れているが、今すぐに手当をしないと死ぬという程ではなかった。それを見るや私は周りに目を向け、カラカラっという骨がぶつかる音と共に数えきれない数のスケルトンと向き合った。


 スケルトンは一体一体が素手や剣、盾に槍など、様々な武器を持っている。

 そんな奴らが相手なのだから、近接戦で戦おうなんて普通は思わない。

 魔術であっても、基本は思わないというよりは、思う方が異常だ。


「何で、スケルトンなのよ……」


 こいつらは、大変面倒である。

 他の魔物と違って、的確に魔石を破壊するか、体を全壊させない限り起き上がってくる。

 これならまだ、ドラゴンとかの方が楽だ。


「私って、なんで聖属性は使えないのかな」


 そんな文句を言いながら、ゆっくりと地表に足を下ろしていると、近くに居た青年が叫んだ。


「何やってる、早く逃げろッ! 此処は俺が引き付けるから」


「あぁ大丈夫、大丈夫。私、君を助けに来たんだから」


「バカ、後ろだッ!」


 スケルトンが振り下ろした剣が背後から私に迫り、背中に纏った炎のマントに刃が触れる。――その途端にスケルトンの剣は灰と化し、溢れ出た衝撃と熱気によってスケルトンの体が消し飛んでしまう。


「はぁ――? 何が……」


「勝手に触れるからだよ、私悪くないからね」


 独り言の様に呟き、呆気にとられる少年と目を合わせる。


「今片づけるから、少し待っててね。もう大丈夫。後は私が」


 振り返り、スケルトンたちの方へと歩み出た。

 カラカラと鳴り続ける骨の音。引きずった剣が床に当たり、盾が骨とぶつかりながら、スケルトンたちは包囲しようと着実に近づいて来る。


 普通の魔術師なら、この時点で距離を取って攻撃する。

 だけど私は前に出て、左腕を広げた。


「水よ、広がれ」


 私の足元から身に纏っていた水の一部が全方位に広がり、魔法陣の形を成していく。

 風で揺らめくマントに同調するかの様に、炎が波打ち燃え上がる。


「炎を閉じ込め、舞い上がれ」


 広がった魔法陣から無数の水滴が浮かび上がり、その中心に小さな炎を宿していた。周囲に広がっていた魔法陣が強く光り出したかと思うと、一瞬にして光を消し水に閉じ込められた炎を残す。


「それじゃ、さよなら」


 パチンッ――と指を鳴らした途端、宙に浮いていた小さな水滴が爆発する。

 一つ一つが大きなその音が、同時に数十、数百と破裂した事でダンジョン内の床や壁に振動を伝えながら、轟音を響かせる。爆発に巻き込まれたスケルトンたちが粉砕され、剣も槍も盾であろうとも砕け散っていき、足元に残っていたのは白い骨粉と焼けた土煙の匂いだけだった。


 白煙が周囲に漂う中、私は小さく息をついた。


「……良し。これで、帰れるね」

 

 振り向いた私は、口を開け立ち尽くしていた青年を目にする。


「ああ、あんた、何者だよ……こんなの。普通の魔術師じゃ――」


「今はクロって名乗ってる。一応、夜間に警備してるかな。それで、君の名前は?」


 私の問に、青年が遅れて答えた。


「……俺は、ルークだ。ルーク・フォルディア」


「よろしくね、ルーク」


 纏ったマントの揺らぎを抑え、魔術書に吸い込まれる様に全身から離す。


「良し、名前も分かったし、帰ろっか」


「待て、さっきのはなんだ! それに、帰るって言っても、もう魔物が溢れて来る。此処は隠れて、明日になってから皆が来てからでも」


「大丈夫、後は帰るだけだから。私からはぐれないでね」


 目を合わせながら答えてから、背を向けた私は出入口に向かって歩き出した。


「……どこまでが本気だよ、この人。強過ぎる……」


 読んで下さりありがとうございます。少しでも楽しんでいただけたのなら、下記の『☆☆☆☆☆』をタップして【★★★★★】にしていただけると幸いです。


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 何卒、よろしくお願いいたします。



 ――海月花夜より――

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