第46話:ウォルガー
水面を突き破った場所から出て来た頭部は長い首に支えられ、遅れて浮かんで来たラクダの様な背中をした体には短い手足がついていた。
「この子は……」
――噂に聞くネッシーだ。
きっとそうに違いない。
長い首に、水面から突き出た丸まった背中。
どこをどう見ても――。
「ネッシー!」
「サラマンダーの次に、ウォルガーを見るとは……」
「あれ?」
私が叫んだ隣で、ノエルさんが別の単語を口にした。
ウォルガー?
「ネッシーって何だい?」
割と冷静なノエルさんが私の方を向くが、顔出したネッシーことウォルガーが口を光らせながら首をしならせている。その顔はどこか不機嫌そうにも見えた。
「ノエルさん、前! 前ッ! フロスト・ウォール!」
氷の壁が、湖の水際で作られウォルガーの頭部を超える程高く聳え立つ。
けれど、攻撃を止める様子はなく、一方的に青白いブレスを放つのだった。
――放たれたブレスは真っすぐ進み、氷の壁にぶつかった瞬間にガリガリっと音を出す。それは氷を侵食しているのではなく、氷の壁を覆いつくす様に左右に広がりながら氷で上から覆っていた。
「ちょっ、氷に氷って、脳筋過ぎるでしょ」
「そんな事を言っても、向こうに選択肢はないんじゃないかな」
ノエルさんが冷静に返してくれるも、このままではじり貧だ。
私が生成した壁よりも大きく、氷が纏わりつき侵食している。
「ノエルさん、避けてください! 破られます!」
氷がメキっという音を鳴らし、中央から大きな亀裂が広がった。
限界を迎えた壁は瞬く間に壊れ、魔物のブレスが真ん中を突き抜けて私とノエルさんに向かって来る。私とノエルさんはそれぞれ左右に避け起き上がった先で元いた場所を確認すると、そこには大きな氷の棘状の氷柱がいくつも生成されていた。
「ノエル殿下、ご無事ですか!」
ちょうど分かれた向こう側で、他の人達がノエルさんの元に向かって走っている。
私の方は入口に近いから誰も居ないが、あっちを狙われると厄介だ。
「フロスト・ボール」
手の平を魔物に向け、魔力を出す。
すると瞬時に生成された頭程の大きさの氷の塊が、魔物目掛けて飛来した。
――相手が氷であろうとも関係ない。
氷の塊なんて投げてしまえば、ただの石や岩と同じ扱いだ。
長い首の中間部分に攻撃が当たり、長い首をしならせながら魔物が怒り叫ぶ。
「おぉ、怖い……」
本当に怖い。
サラマンダーよりも機嫌が悪そうに見えるのは、どうしてだろう。
魔物が表情を歪ませ歯を見せながら私を睨み、再び攻撃しようと口に向かって魔力を流し始める。
それを見て私もすぐ魔力を出し、手元で炎が揺らめく。
「ファイヤ・――」
現れた火が細長くなり、ゆったりとした弧を描き大弓の形になっていく。
そして右手に別で現れた火の矢を、私は弓に合わせ引いていた。
「アロー」
魔物がブレスを放つと同時に、放たれた火矢。
生み出した攻撃同士がぶつかり合い、私の放った火矢が氷のブレスを貫き周囲に氷のブレスが広がる中で、火矢が魔物の口に届いた。
大きな爆発と共に魔物の体が横に流れ倒れそうになるも、煙に包まれた中から鋭い眼差しで私を見ている。
「浅い――」
ブレスで威力が落ちたのか、頭を吹き飛ばしきれてもいなければ、魔物はまだ意識を保っていた。直ぐに追い打ちをかけようと手をかざすも、少し離れた場所から飛び出したノエルさんを目にする。
大きく飛び上がったノエルさんが、魔物に向かって一直線に進む。
気づいた魔物が首を動かし、大きな口をただ開いてノエルさんを食べようとする。
「ノエルさん!」
迫った魔物の口に合わせてノエルさんが身体をひねり、攻撃を避けながら剣を振るう。
斜めに軌跡を描いた剣が下を向く頃には、魔物の切断された頭部がこぼれ落ちていた。
そして背中にノエルさんを乗せたまま、魔物はゆっくりと水辺に寄せられる。
ゆっくりと引き寄せられたノエルさんが地面に足を付け、他の人達に指示を出して大型の魔物の処理が始まった。
「ノエルさん、この魔物って……魚ですか?」
「どちらかと言うと、陸生の生き物に近いから。残念だけど違うかな」
「そうですか。それじゃ、また釣りですね。魚は必要ですから」
せっかく美味しそうな魔物を倒した筈なのに、目的は達成されず。
私とノエルさんは、解体を他の人に任せ、静かに餌の付いた釣り糸を湖に投げ入れるのだった。
そして、数分経ってから気づいてしまう。
「ノエルさん、私達が解体する方が良かったんじゃないですか?」
釣れない私とノエルさんが釣りをするよりも、他の人がやった方が良い。
何より、また魔物を釣り上げた日には、私は魔物しか釣れない人になってしまう。
「……何事も練習だよ。釣りと比べると、解体の方は慣れているからね」
私は解体の方も慣れていないのだけど、そんな事を言っても仕方がない。
今回ばかりはノエルさんと一緒に、釣りをしよう。
戦闘した後だと言うのに、流れた血のおかげか、少しばかり魚も集まっている気がした。
「頑張りましょう。ノエルさん」




