第44話:カルーツ村
交代で見張りを行い夜間を過ごした私達は、日が昇ると共に目的地向かって馬車を走らせていた。そんな一度動き出した馬車が止まるのは、馬を休憩させる時か道に木が倒れていて道を塞いでいた時だけで、殆ど止まらずに進み続ける。
昼過ぎ。
小さな村に着き、ようやく馬車がゆっくりと止まった。
村の建物は木や藁で作られ、広場を中心として周囲に広がりながら沢山の家が作られている。その広場では子供達が遊び回り、周りに居た大人がこちらに向かって歩き出す。
同じ帝国領内の筈なのに、違う雰囲気を感じてしまう。
「ノエルさん、此処は?」
「此処はね」
「カルーツ村だよ。お嬢ちゃん」
ノエルさんが答えるよりも先に、近づいて来ていた杖をつくお婆さんが口を開き、私に教えてくれる。
「カルーツ村ですか?」
「そうさね。此処は、あんたらみたいな連中を、休ませて襲うのが習わしでね」
「えっ……ノエルさん、この村よく分かりませんが危険ですよ! 今自分で言いましたよ、あの人!?」
慌てる私の横で、ノエルさんは苦笑いしていた。
「大丈夫だから。元気そうだね村長」
「こりゃ良い、王子が来たね。王子は高く売れるからね」
「えっ! この人が、村長何ですか!? てか、もっとヤバい事言ってますよノエルさん! 村長さんが主犯ならもう確定ですよ、取り押さえましょう」
「おや、やるってかい?」
何とも言えない異様な雰囲気をお婆さんが出し、私は身構えかけていた。
このお婆さん、もしかして強いの……?
慎重に警戒した私の前に、ノエルさんが手を出し制止する。
「村長、あまりクローディアをからかわないでくれるかな。新しい騎士団の、団長なんだ」
「にしては、少しからかいがいのある嬢ちゃんだね」
「うちの団長と副団長は、実力主義みたいだからね。まぁ僕としては、そんな事決めた覚えはないんだけどね」
ノエルさんがお婆さんと楽しそうに話をしている。
冗談……? だったんだよね?
私はよく分からない相手に対して、戦うのが苦手だ。
だからゴースト系も苦手なのだろう。
アイツらも実態は無いし、よく分からない存在と言えば、よく分からない奴らだ。
それにしても、随分と親しそうに話している。
いきなり襲われて、食べられたりしないよね?
「すっかり警戒されてるじゃないか」
「村長が脅かすからだよ。クローディア、この人はこの村の村長で、とても良い人だよ」
良い人?
私の中で、何かの基準が変わりそうだった。
「カルって言うよ。よろしく」
「クローディアです。よろしくお願いします」
一先ず私は挨拶をすませる。
この人が、本当に良い人なのかは後回しだ。
「そうだ村長。今日は、お土産があるんだった」
ノエルさんの合図で、板に乗って凍った肉の塊が運ばれて来る。
お土産って、トカゲのお肉か。
確かに美味しいし、冷凍するにしていても荷物だから、村の人にも食べてもらった方が良いか。
「まさか、サラマンダーの肉じゃないだろうね」
「正解。よく分かったね、流石カル村長」
「年寄りを茶化すんじゃないよ。それにしても、アレクシスがやったのかい?」
「うん。それとクローディアがね」
ノエルのその言葉で、カルお婆さんが私を見てくる。というよりは睨む様に鋭い視線が向けられていた。
「やるじゃないか」
「……ありがとうございます」
何で褒められているんだろう。
嫌ではないけど、油断させられている気分になる。
もしや、まだ諦めてないのかも……。
そんな訳ないよね。
「どうぞ、沢山食べて下さい。余ったら勿体ないですし」
「そうかい。なら遠慮なく。聞いたね! あんたら」
カル村長の合図で他の人達が集まり、その流れで子供達までも近寄って来る。
「すっげぇ、ドラゴンの肉だってよ!」
「沢山食べるぞー」
「お前ら、まだ焼いてないんだから、食べるんじゃないぞ」
「って何だよこれ、硬ってぇえ」
「これって魔術、よね?」
「そうじゃないかな。多分……」
凍った肉に子供達が群がり、指で突いていた。
「氷、解き始めても大丈夫ですよね?」
「そうだね。ありがとう」
ノエルさんが頷き、私は維持していた魔術を解き始める。
これで後は自然に解凍されていく筈だ。
「こりゃ驚いた、本当に凄い子だね」
「第三騎士団の団長ですから」
自信満々に答える私を見て、カル村長が改めて驚いていた。
何されるか分からない不安はあるけど、団長である事は絶対に変わらない。
それだけは確かなのだから。
「良い心がけじゃないか」
そんな私を見てカル村長は、更に不敵な笑みを浮かべるのだった。




