第42話:狩り
陽が沈んでからも進んでいた馬車が止まったのは、それから三時間程経ってからの事だった。
――馬車が通って来た道に沿って作られている、少し拓けた場所。
きっと、いつも使っているのだろう。
長い距離を移動するにしても、自然と休む場所は同じだったりする。誰かが一度木を切り倒して利用出来る様にしたらそこはもう、次に通りかかった人が楽に利用出来る場所でしかない。
周囲で魔術師が火を起こしたり、皆が最低限の食事を用意し始める。
「ノエルさん、私も何かしましょうか? 周囲に、土の壁を作るとか」
「大丈夫だから、君はゆっくりしてて」
何かしようとノエルさんに確認すると、そっと遠慮されてしまう。
「それに、安全を確保し過ぎると、訓練の意味がないからね」
確かに、気が休まる場所を提供しては意味がない気がする。
移動している間もとくに大きな問題もなく、余りにも暇過ぎたのが良くなかった。
私も何かしたくなる。
「ゆっくりするにしても、何もやる事がないと流石に休めませんよ」
私がそんな話をノエルさんとしている時だった。
少し離れた場所で、魔物の気配を捉える。
「ノエルさん、周囲の魔物は程よく、倒してた方が良いですよね?」
小さく頷いたノエルさんに苦笑されてしまう。
「もし倒しに行くって言うなら、六人程連れて行くか、アレクシスを連れて行ってくれるかな」
私が倒しに行く事を察したのか、ノエルさんが先に提案してくれる。
六人もぞろぞろと連れて移動したくはない。
それに、こっちから探知できる距離ならその逆も可能って事になる。
「でしたら、アレクシスさんと、ちょっと魔物狩りして来ます」
「十分、気を付けてね」
「大丈夫ですって。私とアレクシスさんが魔物一体に負けたら、その魔物はきっと魔王って呼ばれてますよ」
「確かに、君たち二人が揃っているなら……」
ノエルさんはそれはそれで駄目だと言いたげに、何とも言えない表情を浮かべた。
「十分、気を付けて……」
「分かってます」
ノエルさんの了承を得た私はアレクシスさんの元に駆け寄り、魔物狩りを伝えると直ぐに頷いてくれる。きっとアレクシスさんも、そっちの方が良かったのだろう。
――火の光で照らされていた馬車の周囲を離れ、私とアレクシスさんは夜の森に足を踏み入れた。
走る度に草や枝を踏む音が鳴り、月明かりによって僅かに照らされた景色が横に流れる。
「アレクシスさん、大丈夫ですよね?」
魔力周囲に放っている私は障害物を把握出来るけど、何故アレクシスさんがこの速度で走れるのか私は疑問ではあるものの、走れているのなら別に構わない。
「問題ありません」
それよりも今は、魔物だ。
やっぱり六人なんて、連れないで良かったと思いながら私は森の中を突き進む。やがて反応した魔物に近づくと速度を落とし、物音を立てず近づいた。
そして私とアレクシスさんは魔物に気づかれずに、木陰からその姿を捉える。
――そこにはサラマンダーと呼ばれる、大きなトカゲが居た。
手の平よりも大きな鱗で覆われ、吐息なのか小さな火が口の奥を薄っすらと明るくしている。
「トカゲですね」
「サラマンダーは、分類的にドラゴンかと……」
確かに普通の人が見たら、ドラゴンと言うのも分からなくはない。
それ程までに大きく、硬そうな鱗が威圧感を出している。
「ですが、ドラゴンにしては、肉が柔らかく食べやすいです」
「アレクシスさん、それ本当ですか?」
流石の私も、サラマンダーの肉は食べた事はなかった。
美味しい物は好きだけど、好んで変な物には手を出していない。
この世界だと、何があるか分からないし……。
「はい」
「だったら決まりです。今日の夜ご飯は、一品追加です」
「分かりました。団長殿」
剣を抜いたアレクシスさんが、先に木陰から出て行く。
そしてアレクシスさんに気がついた、サラマンダーがその大きな目をアレクシスさんに向ける。そしてサラマンダーの顔が動き、その喉元が光ると同時に血管が浮かび上がらせていた。
「フロスト・ウォール」
サラマンダーとアレクシスさんの間に分厚い氷の壁を作り、放たれたサラマンダーのブレスが氷に直撃する。吐き続けられる炎を氷の壁が受け止め、じわじわと表面を溶かし凹ませていく。
「流石に強いな」
炎を受けた氷が火の光を拡散させ、周囲が一気に明るくなっていた。
「でも、やっぱり君はトカゲだよ」
地を蹴ったアレクシスさんが、氷の壁すらも飛び越えサラマンダーに近づいて行く。
そして、サラマンダーの伸びきっていた首に向かって、剣を振り下ろしていた。
ブレスが止むと同時に周囲が暗くなり、薄暗くなった視界の中で、サラマンダーの頭部が地面に転がり落ちる。
――目を合わせた私とアレクシスさんは、とりあえず頷くのであった。




