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第40話:団長と副団長


 第三騎士団の駐屯地。

 この前皆と手合わせした広場は、綺麗に直されていた。

 そして屋外ではなく、大きな建物の中から剣を交える音がする。


 剣がぶつかり合うタイミングを予想し、扉を静かに開けた。

 ギィっと重たい金属の扉が音を鳴らすも、まだ剣の音は鳴りやまない。


 ――時間にも間に合ってるし、バレてない。

 そう思っていた私の背後から声がする。


「何をしておられるのですか?」


 心臓を掴まれた様な感覚に襲われながら、そっと後ろを向く。

 そこには金色の髪を後ろで細く束ねたアレクシスさんが、いつもより身軽そうな恰好で立っていた。鎧を着ていない身体に目を向けると、鍛え上げられた肉体がハッキリと見えいつもより存在感が増している。


「……おはようございます。アレクシスさん」


「おはようございます。団長殿」


 それ以上に会話が生まれる訳でもない、アレクシスさんが目で入らないのかと訴えて来るだけだ。


「……入ります」


「どうぞ、貴方の騎士団です」


 そう言われると、まだ馴染めていない気がする。

 私は扉を開け、中に入ると何人かの視線が向けられて直ぐに大きな声へと変わった。


「「「おはようございます、クローディア団長!」」」


「皆も、おはよう」


 魔術師団では感じる事のなかった圧に、私は少し戸惑ってしまう。

 やはり剣を振るう人の方が、魔術師を目指す人よりも元気なのかもしれない。


 ――声を張り上げる人の中で、何人かが静かに頭を下げている。

 その動きと剣を持つ姿勢で、今は剣の練習をしている魔術師だと直ぐに分かった。


「午前は剣術を行い。午後から、魔術に入ろうと思っています」


 隣に居たアレクシスさんが、私に教えてくれる。


「分かりました」


 きっとこの人が、皆に剣を教えているんだろう。

 誰も一対一で、勝てそうにないもんね。


「アレクシスさんが、皆さんに剣を?」


「……いえ。私は人に何かを教える、というのが苦手なので。それに関しては、ブレンダが受け持っています」


「同じですね。私もですよ、人に何かを教えるのが苦手で」


 そこまで私が言うと、アレクシスさんの無表情だった眉が一瞬だけ動いた気がする。

 あれ……何か良くなかったのかな。

 だって仲間だよ?

 団長と副団長が、部下に教えられないっていうさ。


「それは、本当ですか?」


 アレクシスさんが私に確認してくる。


「うん。教えられない訳じゃないんだけど、今までロクな成功体験がなくて。やらない方が良さそうかなって感じで……その……不味いですか?」


「はい。余りよろしい状況とは、言えないかと……」


 アレクシスさんが顔には出さないけど、困っている雰囲気を出した。


「もしかしなくても、私が皆に魔術を教える流れでした?」


「……はい。そうなります」


 何も聞かれていなかったとは言え、人に魔術ぐらい教えられると思われていたのかもしれない。何故ならこれでも私は元魔術師団の団長でもあったのだ、それこそ本職と言って違いない。


「すみません……」


「いえ、自分も人には教えられないので、何とも……」


 団長と副団長が、同じ悩みを抱えた瞬間だった。


 ――こうなったら仕方ない。

 少し危ないけど、皆には防御魔術の訓練と称して、私が――。


「お二人とも、そんな所で立ち止まって、どうされたのですか?」


 入口で立ち止まっていた私とアレクシスさんの所に、ブレンダさんが近寄って来た。


「実は……」


 隠しても仕方ないと思った私は、素直に打ち明けた。

 すると、ブレンダさんは額に手を当て、少し俯いてしまう。


「すみません」


 結果的に、この人の仕事を増やしてしまった。


「分かりました。私の方でも考えてみます」


 私達三人は皆が剣を合わせる中、午後の魔術をどうするか考え始める。

 私が考えていた事を二人にも話してみたが、直ぐに止められてしまった。

 なら仕方ない。

 別の方法を考えるとしよう。


 ――そうして私達が最善の方法を見つけようとしている所に、ノエルさんが現れた。


「三人とも、集まってどうしたの?」


 目をそらしそうになった私は、どうにかそのままノエルさんを見続ける。


「実は、魔術の訓練で……」


 私達がノエルさんに再び事情と、私が行おうとしていた提案もしっかり伝える。

 何故か私の提案は直ぐに却下されるも、ノエルさんに心配した様子は見られなかった。


「それなら大丈夫かな。皆には悪いけど、急遽――野営訓練が決まってね。これからその準備に入ってもらえるかな?」


「いつからですか?」


 私が聞き返すと、ノエルさんが笑みを浮かべて答えた。


「今日の夜、出発する」


 ノエルさんが答えた瞬間――。

 私を含め周囲から、困惑に近い声が静かに上がるのだった。



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