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第4話:ダンジョンへ


 斜めに差し込む夕陽が、私の部屋を朱に染めていた。

 帝国軍の施設とは思えないほど、静かで広々としている。

 これも、ノエルさんが手配してくれたおかげだろう。

 そっと紅茶を一口飲んでから、窓際に設けられた机にカップを置く。

 

「私一人に、ここまでしなくても良いのに」


 部屋には本棚や衣類用の収納棚もあるけど、勿論今の私にそんな荷物はない。

 元から荷物も少なければ、まだ街も散策するほど生活に馴染んでいないからだ。

 そんな私の帝国に来てからの外出時間は、陽が沈んでからの方が多くなった。


 王国でこれをやっていたら、最後にもっと酷い暴言を吐かれたのだろう。

 そもそも、私が魔物と戦い始めるのは夜中の方が多い。

 昼間に倒した魔物が、その時間になってようやく入口付近に上がって来るからだ。


 王国での事を思い出していると、勢いよく扉がノックされた。


「クロ殿、いらっしゃいますか! 緊急です」


 慌てた声が聞こえ、私は直ぐに答えた。


「開いてます。どうしましたか」


 扉を開けた兵士は息を切らし、今にも倒れそうなほどだった。


「すみませんが、至急……ダンジョンにお願いします」


「まさか、魔物が!?」


 魔物が大量発生する兆候はなかったのに、どうして。


「いえ、そうではありません。ただ、ノエル様からの緊急の指示です」


「分かりました。直ぐに、向かいます」


 急いで立ち上がった私は、兵士を横目に一言告げた。


「先に、行きます。連絡、ありがとうございます」


 現れた魔術書が光り、私はダンジョンに移動した。


 **


 景色が切り替わり、目の前にダンジョンを捉える。

 けれど、明らかにおかしい。

 いつもは警備の二人だけで、居てもノエルさんぐらいなのに、今は十人以上は集まっている。

 やっぱり、魔物かな……緊急って何だろう。

 嫌な予感を胸に、私は声をかけた。


「すみません、遅れました」


 全員の視線が私に集まり、静まり返った。

 その人だかりの中心からノエルさんが姿を見せる。

 

 だけど、妙に雰囲気が重かった。

 ダンジョンの魔物かな。


「何があったんですか?」


 数人が顔を背ける中、ノエルさんだけが真っすぐ目を合わせて来る。


「昼に入った者が一人、戻らないんだ」


 その言葉を聞いて、私自身も口を閉ざしそうになってしまう。

 けれど、そんな暇はない。


「私が、助けに行きます」


 迷いはなかった。

 人数を集めるのにも時間はかかるし、捜索者から被害が出ては意味がない。

 だったら、私一人で行くしか方法はない。


「いくら君でも、ダンジョンの中から人一人を見つけて、帰って来るなんて危険過ぎる」


「だからって、見捨てて良い理由にはなりません。ノエルさんが心配して言ってくれているのは、分かっています。だけど誰かが行かないと、その人は今も、一人で置き去りにされたままなんです」


 結局私は、人を見捨てられないのだろう。

 見ず知らずの、顔も名前も知らない人を助けに行こうとする。

 我ながらなんて無謀なんだと、言いたくなった。


「大丈夫ですよ、私だって死ぬつもりはありませんから」


「……分かった。君に任せる。勝手ですまないが、どうか仲間を助けてほしい」


「任せて下さい。私、こう見えても、強いんですから」


 私の発言にノエルさんの横に居たいつも見る警備の二人が、僅かに頬を緩め口を開いた。


「知ってますよ、クロ殿が強い事なんて」


「あぁ、俺達なんて、いつも此処に立ってるだけだからな」


 茶化した二人が緩めた表情を真剣なものに戻し、姿勢を正した。


「我々は、此処でお待ちしております。どうかご無事で」


「仲間をお願いします」


 他の人はともかく、この二人とノエルさんとは随分と話をした。

 正直、集まってる他の人達は知らない人が多かったけど、それでもダンジョンに入ろうとした私に、次々と頭を下げ始める。


「任せて下さい、きっと助け出しますから」


「頼んだよ。必ず連れ帰って来てくれ」


「はい。お菓子でも用意して、待ってて下さい」


 そう言って歩き出した私に、後ろからノエルさんが声をかけた。


「そうだね。今度は街で、好きな物を食べると良い。案内するよ」


「戻って来たら、お願いしますね」


 振り向くことなく返事をした私は、そのままダンジョンへと入って行った。


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