第38話:束の間
晩餐会も半ばを過ぎ、私は貴族と話終えた先で別の人達に話しかけられていた。
「最近、偶発的な魔物との遭遇が増えたと、近頃良く耳にしますね。何でも、王国側は、魔物の対応が限界に来ているとかで、我々帝国にも協力する様、要請があったとか」
「それはそれは、本当ですか? それが原因で街道の魔物が増えたのかもしれませんな。私の商会でも、物資を輸送する際に魔物との遭遇が増えてしまい。雇う護衛の数が増えたとの報告が来てまして」
貴族と商人らしき人が、そんな話を私に向かってし始める。
愛想笑いと、頷いて良さそうな部分には頷く。
これが乗り切る最善策だった。
「本当にノエル殿下は、良いタイミングでクローディア殿を引き入れられた」
そう言って二人が、私を見て来る。
何か喋らないといけなくなった。
「偶然ですよ。私も、ノエルさんには帝国での住む場所と、お仕事をいただけて感謝しております」
今ノエルさんは近くに居ない。
貴族の方に呼ばれ離れている。
だから私は一人で、話していた。
――近くには、ブレンダさんとルークが居るけど、基本二人が口を開く事はない。
「いやはや、本当にダンジョン踏破とは素晴らしい事ですぞ。クローディア殿、おめでとうございます」
「ありがとうございます」
「私も日頃から、ノエル殿下とは親しくさせていただいておりますので、今後ともよろしくお願いいたします」
「何かご入用の際は、商会にお越しいただければ、どんなモノでもご用意いたしますよ。クローディア殿」
「もし、必要になったら立ち寄らせていただきます。その時は、お願いします」
「えぇ、勿論です。帝国内問わず、近隣諸国の品も扱っておりますので、お役に立てるかと」
商人が口を閉ざす。
「――では、失礼させていただきますね」
私はその隙を見逃さず、逃げる様にその場を離れた。
そしてその先で、飲み物を手に取り一口飲む。
しまった……お酒だ。
これで何本目か分からない。
私は誰かに話しかけられ、面倒な相手だと分かると少し話をすると離れるのだが、その度に飲み物を少し飲むとは言っても、当初の予定してたよりも飲んでしまっている事に変わりなかった。
明るい晩餐会の大広間とは違い、窓の向こうで薄明るいテラスを見つける。
私の身体は、気づいた時にはそっちに向かっていた。
明るい場所よりも暗く静かな場所を求め、自然と足が進んでしまう。
「あぁ、肩がぁ……」
他に人が居ない事を確認して、私は手を上に伸ばしていた。
「お疲れ様です。クローディア団長殿」
「お疲れ様です、クローディア団長」
そんな私に、ブレンダさんとルークが言葉を投げかけてくれる。
誰も居なければ、会話してくれるんだから本当にテラスの方が楽に思えてしまった。
――テラスの奥に進んだ私は気持ちいい夜風に吹かれながら、夜空に浮かぶ月と広い庭園を目にする。
「綺麗な景色」
夜だからこそ、月明かりに照らされた庭園が深みのある落ち着きを与えてくれた。これで昼であれば、元気がもらえる様な、緑いっぱいの景色なのだろう。
「二人も疲れたでしょ?」
私が外を見ながら言葉を投げかけるも、後ろ側から返事が返って来る事はなかった。
……あれ? 何で。
――そう思った私が振り返ると、目の前にノエルさんが立っていた。
「うわぁあっ――!」
驚いた私が後ろに下がり、身体が手すりを超えそうになってしまう。
ノエルさんが私の手を引き、背中に回した手で身体を支えてくれる。
「ごめん。驚かせたかな」
「……いえ、大丈夫です。……私の方こそ、すみません」
二人が離れて行った事にも、ノエルさんが近づいて来た事にも気づけていなかった。
「……警戒しないと、いけないのに」
「寧ろ、僕としては嬉しいけどね。だって君、護衛が居るのに、それ以上役に立とうとするんだから、これぐらいじゃ怒ったりはしないよ。それに、記憶がある内は酔ってるとは言わないよ」
「いくら何でも、それは無理じゃないですか。それなら私、酔った事ないですよ」
「奇遇だね。僕もだよ」
そう言ってノエルさんが、少し笑った。
「記憶にない言質が、王族としては怖いからね」
「ノエルさんは、やっぱり大変ですね」
「やっぱりって、違うって思った時もあったの?」
「そりゃそうですよ。だって、ダンジョン警備してる私に、お菓子届けて、一息つく王族は他に居ませんよ。てか、居たら大問題かもしれませんよ」
「手厳しいな」
「だって、部下に届けさせれば良いじゃないですか。どうして……わざわざ来てたんですか?」
気づいた時には、質問していた。
放たれてしまった言葉は戻らず、少しばかり後悔してしまう。
聞かれたノエルさんが少し恥ずかしそうに私の方を向いて、ゆっくりと答えてくれた。
「少しでも、君に会いたかったから」
面と向かって言い終えたノエルさんが顔をそらし、月明かりに照らされた横顔を目にする。
――そのノエルさんの顔は、わずかに赤くなっていた。




