第36話:前に
宮廷内にある煌びやかな大広間が、通路の先に薄っすらと見える。
私は今、そこに繋がる通路に立っていた。
後ろにはブレンダさんだけでなくルークも居る。
それに斜め後ろにはアレクシスさんに加え、隣にはノエルさんが並んでいた。
ノエルさんは白を基調とした豪華な衣装を身に纏い。護衛役のブレンダさんやルーク、それにアレクシスさんは礼装用の軍服を身に着け、装飾された剣を腰に携えている。
その中で私は、そこまで派手さのないドレスを着ている。
ドレスと言っても宮廷風というよりは、動きやすいロングドレスだ。
そこまで色鮮やかな主張はなく、比較的動きやすい。
肩部分はレース状で、裾辺りには控えめな刺繍が施されていた。
派手過ぎず、地味過ぎないと私は思っている。
「私も、軍服の方が良かったですかね?」
「クローディア団長、それはやらなくて良かった選択かと、思います」
後ろに居たブレンダさんが、直ぐに答えてくれた。
「こういう場合、貴族の方々は見栄を気にされます。その点、軍服で挑めば紛れやすくその場は楽を出来ても、後々しつこく言われていた可能性があります」
「そうだね。それに今回は、頼もしい護衛も居るんだ。君が遠慮する必要はないよ」
ブレンダさんだけでなく、隣に居たノエルさんが後押ししてくれる。
手を少し広げ、自分自身で姿を確認してからノエルさんの方を向く。
「変じゃ……ないですよね?」
問われたノエルさんが私の姿を確認し、しっかりと目を合わせてから答える。
「とても、似合ってるよ」
悩む素振りも見せずハッキリと言われ、私は前を向いてしまう。
「……ありがとうございます」
そして、間をおいてから返した。
「ノエルさんも、似合ってますよ」
「ありがとう」
軍服などと比べると余りにも豪華な装飾が施された服を着こなしている。
流石王族と言えばそれまでの話になってしまうが、自分で装飾などを調整したのか過剰とは感じなかった。きっと、今から行く場所には、もっと無駄に金銀や宝石を見せびらかす人が居るに違いない。
「緊張してる?」
「少しだけ」
団長になるのであれば、貴族に知り合いが数人居ても良いぐらいだ。
なのに私は帝国内に殆ど知り合いと呼べる貴族が居らず、今日の晩餐会に参加出来る人も居ないという状況は、心細いと言えばやはり心細い。
周りには仲間が四人。
――まるで、敵地に乗り込む精鋭だ。
そう思うと楽になった気がする。
「けど、皆さんが居るので大丈夫そうです」
私がそう言うと、ノエルさんが前を向いた。
そして、奥の大広間付近に立つ係の人が合図を送って来る。
「そろそろ時間だ。行こうか」
「はい」
私とノエルさんが歩き出すと、後ろに居た三人が後に続いた。
緊張はもうしてない筈なのに、どこか落ち着かない。
慣れないドレスのせいか、履きなれないヒールのせいなのかは分からないけど――歩く私の体温は、いつもよりも高い気がした。