第29話:帝国議会
呼び出された私は、宮廷の中を歩きある場所で立ち止まっていた。
今、私の目の前には大きな扉は木で作られている筈だ。それなのに、それが分からなくなる程に扉は金属で装飾され、何とも言えない威圧感を放っている。
どうして、何処の宮廷もこう無駄に豪華なんだろう。
もっとシンプルで良いのに。
そう呟きたい気持ちを抑えた。
私の前には、鎧を着た人が左右に一人ずつ立っている。
その着込んだ装備は、ダンジョンにいつも居る二人よりも勿論豪華で重そうだ。
「クローディアだな?」
威圧的な態度に驚くよりも先に、名前を呼ばれた事に驚いてしまう。
「……はい」
私の素性がバレていた。
まぁ、ここまで来て隠し通す方が無理な話だよね。
というか、絶対にこの人はノエルさんの部下じゃない。
「中に入れ」
再び放たれた言い方で確信する。
きっと第一王子派の人かそれ以外なんだろう。っと、分かりもしない事を考えていたからか、それとも素性がバレている事が分かったからなのか、扉がゆっくりと開く中で私は妙に落ち着いていた。
――帝国議会が行われる広間は広く、まだ夕方前だというのに光り輝くシャンデリアが高い天井から吊るされている。その下には整然と長い机が奥に向かって伸び、その中央を重厚な赤い絨毯が真っすぐに走っていた。
両側の机がある場所には貴族達が列をなして座り、空席の王座の近くに設けられた高座席には議会を取り仕切るであろう老臣が座っている。
――入口から見て左奥にノエルさんが居て、右奥でシグルド王子が座っていた。
その場に居る全員の視線が、広間の真ん中で立ち止まった私――クローディアへと注がれた。
まるで裁判所で立たされた気分になる。
静まり返る場で、奥に座る老臣が口を開いた。
「初めまして。帝国宰相のガルシア・ドルンです。まずは、そなたの名をお聞かせ願おう」
「クローディアです」
一瞬に周囲から話し声が巻き上がり、ざわめきが広がっていく。
確かに聞こえてくる『王国』という単語と『師団長』という言葉。その二つを聞き取ってしまえば、周りを取り囲む貴族達が、どんな話をしているのか察しがついてしまう。
「議題に入る。静まれ――」
不思議と重く伝わる宰相の一声で、何かを叩くでも静かになる。
「ノエル王子より上がった報告では、そなたはノエル王子と共にダンジョンを踏破した。これに、間違いはないな?」
「はい、間違いありません」
周囲のどよめきも無視して、宰相は言葉を放つ。
「ダンジョンを踏破したそなたの功績はとても大きい。何より、魔物の脅威から帝国と、その民を救った事は他の何者にも代えがたいい価値を持つ。よって、この場をもって褒美を与えるものとする」
宰相が言い終えて直ぐに、周囲で乱暴に叫ぶ声で始めた。
「ふざけるな! 平民ごときに!」
「聞けば、その女は王国を追われたと言うではないかッ!」
「そもそも、ダンジョンを踏破したかすら怪しいではないか」
「王国の間者でない保証がどこにある!」
私を非難する声は、収まるどころか更に増している気がする。
その殆どが私の右側から聞こえて来ていた。
やはり、こんな事に慣れるという事はないのだろう。
ふと――私がノエルさんの方を見ると、大丈夫だと言わんばかりに毅然としていた。
「静まれ。いつ、話して良いと言った」
自分達の立場を悪くはしたくないのだろう。
直ぐに黙っていく。
そんな簡単に黙るなら、最初っから言わないでもらいたい。
「褒美と言ってもだ。本当は庭付きの郊外の屋敷でも与えようとしたが」
――え、何それ!? それが良い。
「ノエル王子の希望により、それは却下された」
「えっ……」
「ん? 功績者自ら希望があると言うならば、考慮しない事もない。何か言いたい事はあるか?」
自然と漏れてしまった私の声を、宰相が拾ってしまった。
どうしてなの、ノエルさん――。
私は、庭付きの屋敷がもらえたって事は、そこでお菓子貰いながら暮らせたじゃん。
なのに、どうして……。
「いえ、ありません」
ノエルさんに迷惑をかける訳にもいかず、断った私がノエルさんの方を見る。ノエルさんは少し申し訳なさそうな顔をして、直ぐに宰相の方に向き直った。
「であれば、事前に取り決めていた通り、そなたクローディアには、新たに新設される第三師団――その団長としての地位を、授けるものとする」
その言葉を聞いた途端に、私の中で止まっていた何かが――動き出した。